浅倉威




小学生達が帰る姿を横目に歩いた、目の前に大きな家が見えて看板がみえた、その下にあるインターフォンを鳴らして門の中に入ればドアが開く

「こんにちは吾郎さん」

「どもっス」

「先生いらっしゃいます?」

「はい、お待ちしてますよ」

毎週木曜日の15時過ぎ、ここに通い始めて三ヶ月目だ
出会いはライダー同士の戦いの中で知り合ったもの同士の知り合いとして、その中で北岡は葵を女ではなく友人として気に入った、吾郎とはまた違うように好きになった
葵にはなんでも話せた、だからこそある意味これはカウンセリングだ

「あーきたきた、ったくもう遅いんじゃない?」

「ごめんなさい、ランチが案外忙しかったんです」

「もう葵ちゃんもあんな奴らのいる喫茶店なんて辞めちゃえばいいのに、そしたら俺の秘書として雇うのに」

「そんなのいいながら吾郎さんいるから、私なんていらないくせに」

「そんなことないよね、吾郎ちゃんだって葵ちゃんのこと嫌いじゃないし」

「そうですね」

そういってテーブルの上に置かれたブルーベリータルトとストロベリーティーだった
優しい瞳でそう答えた吾郎に葵も微笑む、この誘いも初めてではなく、城戸や秋山と花鶏で過ごすようになってからは特に言われるようになった、勿論同棲はしていないもののそれでも気にはした

「え?ペット飼い始めたの?」

最後の一口を食べ終えた葵は満足そうな表情をして頷いた、葵の近頃の話を聞いていた

「犬?猫?」

葵は首を横に振る

「ウサギとか小動物?」

また首を横に振る

「もしかして鳥とか?」

さらに首を横に振る

「…えぇ、虫とか魚とか爬虫類?」

ようやく出た言葉に葵は楽しそうに頷く、それにはソファーに隣で座っていた吾郎も驚いた顔をする

「因みに何飼い始めたわけ」

「蛇を少々」

その言葉に北岡は嫌そうな顔をした、蛇と言われて連想するのは一人の男、浅倉威だ
それでなくても蛇といえば不気味な印象が強い生き物だ細く長くニョロニョロと動く上に毒を持つイメージがある
あまりいいとは思えない連想に葵をみれば、吾郎と話を進めていた

「ペットショップで買ったんですか?」

「いえ、道端で転がってたので」

「犬猫じゃないんだから」

それでなくても彼女はある意味変わった人間だ、20歳になったばかりの彼女は一人暮らしで親兄弟不明、過去が消されたように謎でそんな中で生活も花鶏でのバイトだけ、短い時間でさほど給料もないはずがそれなりに悪くないマンションにも住んでいる
謎に包まれている不思議な女性で今更とはいえ改めて感じる

「名前とか決まってるの?」

「んー、威って言ってましたよ」

「は?」

もうこれはあの男しか思えない何なんだこれはと思っていた矢先にドアが蹴破られるような音がした
ナイスタイミングと言えばいいのか嫌な顔をしてしまう、誰だと言わずともこんな豪快なノックをするのは一人しかいないのだから

「吾郎ちゃん…」

仕方なしに秘書に向かわせればドアを開けて入ってきたのはやはり一人の蛇柄の服を身につけた男

「戦おうぜ北岡ぁ」

「帰ってもらえる?俺今お客さんとお話してるんだよね」

「あ?」

好戦的な瞳でそういったと思いきや北岡の言葉にソファーに座る女を見れば、女はまるで友達に会うかのように手を振っていた、それが誰でどんな人物がわかっていた

「家から出てったかと思いきやこんなところ来るだなんて」

「何してやがる」

「北岡さんとお茶会です」

「イライラしやがる、来い」

「ちょっともう痛いじゃないですか」

突然葵に近づいたかと思いきや腕を掴んで立ち上がらせる、頬をふくらませて文句を吐く葵に気にした様子もなくドアまで行き最後に

「今度は死ぬまで殺しあおうぜ」

と悪魔の言葉を告げるが、その手にはまるで子供を連れたように見えるほどに文句を吐かれていた
ドアがしまったあとも二人は目を丸くしたままでちゃっかり北岡の皿にまだ半分は残っていたタルトは消えていた

「なんなんだよもう」

情けない声でそういっても秘書は首をかしげた


目の前を歩く男に葵は何度も声をかけるが振り返る気配もない、人気は少ないとはいえいつほかの一般人に見られて通報されるかわかりもしない
心配などこの男には無用だとわかってながらもしてしまう、狭い路地裏を入っていったと思いきや勢いよく投げられた

「いったぁ…もう何するんですか」

「イライラしやがる」

「だからって…っ浅倉さん?」

「俺が欲しいんだろ?」

地面に倒れていた葵を押し倒して浅倉はそう呟いた、葵は確かに浅倉を求めていた
一人でもがくこの男をどうしても手にしたくなった、蛇を捕まえるのは困難でいつもどこかにいってしまった
苛立ちを隠せずにいた、この世で一番憎らしい男といたことが、嫉妬ではなく、ただの苛立ちだ

「求めろ、醜い臭い欲を俺に吐きつけろ、その毒を俺に浴びせろ」

「貴方は私のモノですよ」

「はっ、バカを言いやがる」

「いえ本気です、じゃなきゃ…頭なんて切り離して永遠に私のモノにしてやる、あなたが蛇なら私はそれを食らう獣ですから」

葵は噛み付くようにそういって浅倉のジャケットの襟元を掴み近づかせては唇を重ねた、拒絶されることもなくただ薄く少し冷たい舌が絡まり合う
それでいいのだと葵は目を開けば、楽しそうに目の前の男は笑う
いつこの牙に噛まれて毒を食らわされるのか、そう思いながらジャケットを掴む手に力を込めた
来週もまた北岡の元に行けばこの蛇は毒を食わせてくれるのだと思いながら。





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