涼村暁




近頃の速水は誰が見ても浮かれている、またなにかしょうもない事かと暁は自分の探偵としての感を感じ取った

「なんだってあいつあんなに浮かれてんだか」

「なぁに暁見ててわからないの?どうみたって」

「あれは恋ね」

秘書である朱美の言葉を遮ったエリの言葉に目を丸くした
とはいえ速水の恋など今に始まったことではない、それこそ彼は女子供に優しく勘違いもされやすい、好きになったなら諦めれないような真っ直ぐすぎる男だが、相手の女の子は気になってたまらなかった

「へぇ誰々?」

「なぁに暁見てわからないの?」

「案外鈍感なのね」

「えーなんだよ2人してさぁ、もしかして俺の知り合い?」

そう問えば二人は顔を見合わせて、いつもは犬猿と言えるほどにはいがみ合う癖にこんな時は仲が良く笑うものだから余計に暁は疑問を抱いた
そんな中で事務所のドアが遠慮なしに開いたと思えば速水と、その隣には一人の女性がいた

「ふふっ速水さんってほんと面白い」

「そうか?葵と話してると凄く自然体でいやすいからかもな」

「嬉しい事言ったって何も無いですよ」

仲睦まじく入ってきた2人にニヤニヤと見つめる朱美とエリ
暁は何度もその2組を見合った、そして大きな声で速水と葵を指さした

「お前ら付き合ってんのか!!」

「「は?」」
速水は赤くなり
葵は驚いた顔をした

「なわけないでしょ暁ってば、もう速水さんに失礼なことばっかり言っちゃってごめんなさい」

「いててっ、何すんだよ」

「速水さんに変な事言うからよ」

相変わらず葵は暁には遠慮がない、それもそのはず二人は生まれた時からの幼馴染だ
母親同士が親友で、父親同士は会社の良き同僚、そんな中で生まれた二人は初めから兄妹のように育ってきた
いい加減な暁の面倒を見るのはいつも葵の役割で、けれど絶対に否定はせずにどうにか付き合ってきた
真面目で優しく芯が強く母親のような姉のような強さと優しさと温もりを持つ女性で、容姿も中の上と言えるほどには悪くない

「ね、速水さん」

「あっあぁまぁ暁のことは今更だからいいさ」

「まぁそれもそっか…あ、そうそう速水さんさっき買ってきたケーキ…」

また2人で話をし始めたのをみてつまらなさそうな瞳で見つめる
嫉妬という気持ちよりも気に入っていた物を取られた気分だ、でも変に文句を吐けばからかわれる気がして出来ない
仕方なくため息をこぼしてみても前に座る女性陣二人はニヤニヤと笑う、あぁなんて腹ただしいことか


「暁なんだか今日は無口だね」

「んーそうか?」

「うん、いっつも今日のことたくさん話してくれるのに」

「葵に話さなくたって聞いてくれる女の子は沢山いるの」

「はいはい、モテるもんね昔から」

適当にあしらいながら朱美も速水もエリも帰った事務所の部屋の中を片付ける
自室としても使っている部屋のためにおやつに出されたケーキの皿も洗っていた、エプロンを見つけて夕焼けの日差しを浴びながら片付ける姿は母親のようだ
暁は葵が好きだ、それは沢山の意味を込めて、姉のような母のようなまたは友のようなそれ以上のような

「葵だってモテるだろ」

「んー、そんなことないよ」

「中学の頃3年の先輩に告られてただろ」

「すぐに暁があの先輩と大喧嘩したから無理無理」

「第二ボタン大量にもらってたし」

「あんなの取れたから直してーって感じでしょ」

「…なら、高校の頃の彼氏は」

なんだって知っている葵の初恋だって、告白された数だって、好きになった相手のことを話す表情も
葵は男運が悪い、大抵好きになる男はダメな奴らだ、DVだったりヒモみたいなのだったり兎に角引き運が悪い

初めての彼氏もそうだった、嬉しそうに報告した次の週には葵の顔には青いあざが大きく出来ていて「怒らせちゃったみたい」だなんて能天気に言うものだからそいつを殴りに行った
案の定別れてしまったがそれでよかった、葵には申し訳ないと思ってはいるが別れて欲しかった

「暁はいつも適当だけど正しいこと言うから私凄く尊敬してるよ」

「なんだそれ、じゃあもし俺が葵のこと好きだから付き合おうって言ったら?」

「………」

思わずそう身を乗り出していえば、皿を洗い終えた葵はゴム手袋を外して固まった
なんてことを聞いてるんだと自分を殴りたくなった
速水はいい男だ、優しくて信頼もできるし、お金だってきっと困らせない、それでも葵にだけはあまりいい答えを出せなかった
昔からのずっと好きな人だから

「なーんて冗談」

「本気だとしても暁なら私付き合うよ、好きだから」

「は」

「でもね暁にとってのガールフレンドの1人になりたくないから、やっぱり今はいいや」

ごめんね
まるで子供に言い聞かせるようにエプロンを脱いでソファーに座る暁の髪を撫でた
彼女はやはり綺麗だ、夕焼けに当たってひかる赤茶色の髪の毛は甘い紅茶の色みたい
帰ろうとする葵に立ち上がった

「葵は葵だろ」

「それなら私は恋人じゃなくていいんだよ、涼村暁にとっての葵という女として生きてるんだから」

「…なんだよそれ、わけわかんねぇ」

「大丈夫、私も暁が好きだよごめんね」

同じ気持ちでも違うのだとしたら、愛というものに答えなんてないじゃないかとため息がこぼれる
ひとりきりにされた部屋の中で葵と速水の笑顔がちらついた
彼女の言い分があれならば、速水だって振られるものさ…なんて不貞腐れながらそう考えて手に持っていた折ったばかりの紙飛行機を投げ捨てた、どこにも行かないそれは虚しく地面を走って止まる
まるでみんなの関係みたいに、つまらなく変わらない。




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