下霜草司





「昨夜発見された死体はこの数カ月でこの街で誘拐に関与していた犯人とされ…」

朝からテレビはずっとこの調子だ、昨夜街の真ん中で死体が出た、両手足をもがれて舌を抜かれてその死体の周りには囲むように児童ポルノビデオが並べられており
ココ最近誘拐で騒いでいた子供たちが撮られた物で、それと共に鍵が置かれており警察の捜査によれば誘拐されていた少女達は合計8名、男の商売品にされていたとのこと


「あーぁ、酷い奴もいるもんだなぁ」

思ってもなさそうな声色だ、まるで天気について話すように男は言って足元にあるダンベルを上下に持ち上げる
廃車工場は今日も静かであり、オーナーである男は気だるそうに少女を見た

「それ、あたしにいった?」

「なわけ」

女は化け物だった、アマゾンと言われる世間にはまださほど知られていない存在であり、人間の肉を食らいたがり、彼女はそれを制御した、そして己の正義を貫いてきた
その正義がたとえ周りから見て歪だとしても、それを信じる以外の生き方が分からないからだ

「…草司、またしたの?」

「イラつくんだよなぁ…ここまで来てうるさく騒ぐもんだからさぁ」

「あたしがいない時間にしちゃダメ、消せないでしょ」

「いいってこんな所で死体の一つや二つ出ても可笑しくなんかねぇしさ」

愉快そうにそう笑う男は殺人犯だ、葵の殺す意味があるはずの男であるが生かしていた
生きているものを動かなくなるまで傷つけることにより生を感じるんだと発したこの男はまるで幼い子供のようでかわいそうに感じたのだ
今もこの男のせいで廃車工場の中のどれかの車には死体がいることだ
いつもその死体を葵は食った、生きた人間を食らいたいがそうそう殺人犯や犯罪者に出会うことも少ない、月に数回程度
ルールには厳しい彼女は決してそのルールを破ることなく人間を喰らわないでいた

「最近多いね」

「なにが」

「イラついてる」

葵の言葉に音を立ててダンベルを置いた草司は壁にもたれ掛かる葵に近づいた
確かにそうだ、葵は煩かったから、いくら自身が生かしているとはいえ何も無い人間を殺すことをあまり良く思えないでいるためだ

「うるせぇんだよ害虫の癖に、イラつくに決まってんだろ?最近ここに来る奴追い払いやがってよぉ…俺の楽しみ減るだろ」

「あたしはあまり殺して欲しくない…なんなら餌の調達してあげるよ」

そこまで言うならばと意見をいえば舌打つ音が小さく聞こえた、鋭い瞳がぶつけられて逸らしそうになる
草司の手が伸びては葵の頬を撫でる

「なんなら葵が相手してくれるかぁ」

男女とはいえ力の差は歴然であり、アマゾンである葵には勝てるわけもない
草司の悪い癖で弱いものに対してはどこまでも強気で出る、反撃されるとスグ形勢逆転されてしまう時も少なくない、だからこそ女子供を狙うこの男の悪い癖を葵は嫌がるのだ
それでも生かしてしまうのは彼女自身のエゴである

「あたしを殺したら、遊べなくなるよ」

「…だよな」

彼の中で1番殺したい筈なのにそれは出来ない、それをすれば彼の今の立ち位置さえ危うくなるからだ
それでも内側から這い上がるモノは消えることがない、深いため息を吐いたあとに葵の髪を撫でる近づいた顔に葵は目を閉じることもなく唇が重ねられる
柔らかな唇の感触は未だになれずに食欲が湧いてしまうだけだった

「その前に俺のこと食うかもなぁ」

「悪い冗談…嫌い」

冗談なのか本気なのかわからない目でそういった草司に冷や汗が感じる
葵は痛い程に知る、この時に放置していたせいでつまらない事件になると、そして彼女がドライバーを手にまた深い闇に2人して落ちていくことを



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