クレナイ・ガイ






2人では狭いベッドから温もりが抜けたのを感じて目を覚ます、まださえない頭でキッチンを見ればいつの間にか服を着てラムネを飲んでいる彼がいた

「ガイいくの?」

寝起きらしい乾いた声が出てしまう、ようやく気づいたのかラムネを飲み干して瓶を片付けてベッドに近づいた

「起こしたかすまない」

「いいの、またどこか行くの?」

「あぁまたすぐ戻ってくる」

優しく頬を撫でながら言うガイに唇が塞がれる、この熱だけは消えないでほしいと願いながらもコートを掴もうとした手を止める
彼は彼のしなければいけないことがあるのだろうと分かりもせずに察した
身体を起こしてベッドから降りれば時計は昼前で仕事のない日はどうしても自堕落になるなと思いつつ玄関先までガイを見届ける

「今晩にはまた帰る、夕飯にビーフシチューが食いたい」

「はいはい、ならちゃんと帰ってきてね」

「あぁいってくる」

「いってらっしゃい」

ドアを開けたガイに手を振っていればまた唇を重ねた彼に目を丸くする
近頃スキンシップが増えた気がするなと思いつつガイに関しては犬猫のように思い思われてるのだから何も無いかと思いつつも一応は外から見えてしまっている為に軽く頭を叩いて笑う

「ほら早く行ってよ」

「悪かったって葵」

「怒ってないけど…もう」

素直に謝るところは彼の好感が持てる、基本的に礼儀正しい彼は風来坊で何処にでもフラフラと行くがみんな彼を好きになる
それを理解しているからこそ文句も何も無かった

「…私の気持ちも考えなさいよ」

ドアを閉めた奥でそう小さく呟いてもガイには届かないのだと思いもう一度ベッドの中に潜り込んだ、温もりはとっくに抜けていた



「今の見た!?」

「みたみた、あのガイさんが女の人にキッスしてるところ」

「あの女性は一体誰なんでしょうか」

電柱に隠れながらSSPの3人は目を丸くしながら騒ぎ立てた
朝からつい最近できたばかりのショッピングモールのセールにいこうと三人で歩いていた矢先目の前にある少し古いアパートの二階の一番階段よりの部屋から出てきたのは謎が多い風来坊クレナイ・ガイだった
オマケにドアから見えたのは女性で楽しそうにふたりで会話をし終えたあとガイは手馴れたようにその人にキスをした
あまりの驚きにカバンを落としたナオミに2人は慌てて電柱に隠れてしまった、通り過ぎようとするガイは普段気づくはずの3人に気づく様子もなくどこか浮かれたような表情だった

「どっどういうことなんだ」

「恋人とか?」

「ガイさんに限ってそんな」

色恋沙汰にはあまり興味のなさそうな人物なのに…と思いながらも3人の話題は尽きることなく歩き始めた


ガイは浮かれていた
いつも通りかもしれないが知る人が見れば彼はどこか心上の空状態だ、例えばいつものような覇気がなかったり、ラムネを開けることに失敗したり

それはココ最近ずっとそうだった、彼は改めて心から思えたのだろう大切にすべき存在を
ナターシャという少女に出会い人の温もりを知り、SSPに出会い人の行動力や楽しさを知り、そして葵という人物に出会い深い愛を知った

「で!誰なんですか」

SSPのいつも通りの事務所の中で椅子に腰掛けて雑誌を読んでいればそんな風にジェッタが突如問い詰めた
彼にしてはだいぶ我慢した方だとは思う、聞きたがっていたシンもナオミも聞けなかったのを気にもしなかった彼は爛々とした瞳だ

「なんで知って」

「やっぱり恋人とかですか」

気になって身を乗り出したのはシンだ、女性であり少しはガイのことを気にしているナオミからすれば少しもやもやとするものであり本日も赤字経営になっているのを計算することしか出来なかった

「いや知り合いだ」

「知り合いがキスするんですか」

様々な質問がされる中で答えたガイの答えに耐えきれなくなり言葉を発した
あんなに幸せそうに、あんなに楽しそうに微笑みあいながら、恋人のようにキスをした男女がただの知り合いで済むわけがない、この男がまさかここまではっきりしないことを言うとは思わずに驚きつつもみつめた

「難しいな…特別と言えば俺からしたら特別だが、それ以上も以下もなくてな」

そう言いながらも彼の口元は緩みに緩んで瞳は誰よりも愛おしいものを思い描く熱いものだった
歳で言えば子供ではないとはいえ3人はそんなガイも相手も羨ましく思えた、心から愛しているのだと思えてしまった


「でも結局教えてもらえなかったなぁ」

「仕方ないわよ…けどなんだか素敵だったしいいんじゃない」

「そうですよ、あまり足を踏み込みすぎると馬に蹴られますからね」

ガイのいなくなったところで3人は次々に言葉を漏らす、羨ましいやら幸せそうやら恋人が欲しいやらだなんて

「ただいま」

「おかえり早かったんだ」

「帰ってくるって言ったろ?」

「でも残念、今日はカレーです」

「あぁいいよ、葵の料理ならなんだって食いたい」

帰宅した途端に部屋中に広がる匂いに腹を空かせながらキッチンに立つ彼女を背後から抱きしめた

「…なぁ、葵」

「なに」

「俺はこの銀河系一お前を愛してるよ」

「…今更ね」

耳まで赤くしながらも振り返った彼女はあまりにも嬉しそうに微笑んでいうものだからガイもつられて微笑む
そっと向きを正した葵はそっと背伸びをしてガイの唇を塞ぐ

「私もよ」

そんな言葉もいらないほどには互いに愛し合っているのだから、などと思いつつそっと寄り添い合う
少し焦げ目のついたカレーができたことに気づくのはまだ少し先だ



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