戌亥
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見た目は至って普通、顔に至ってはまぁまぁ整った顔、知性があり頭の良さそうな見た目で女が釣られそうだ、情報屋というだけありその人脈も幅広い
一般人から裏の顔まで全てと言っても過言じゃないほどだ時折カウカウのメンバー含めて戌亥とも食事をするが特に彼を知るきっかけなどもなかった
「おー、戌亥たまには一緒にキャバクラ行かねぇか?」
なんて機嫌良さそうな給料間近にそういった柄崎に内心バカラで当たったな。などと思ってしまう
もとより女好きの柄崎は風俗で働く債務者も時折身体で払ってもらってるほどだ、女好きだが特に受付嬢のエリカの時は特に言動が怪しかった
今更こんな仕事をしていて結婚だどうの思うわけもないが、それでも丑嶋も戌亥も女の匂いも噂も何一つ聞かないものだ
「遠慮するよ、俺女に興味無いし」
「ンだよつまんねぇな」
思わずお茶を噎せた高田は戌亥がソッチ方向の方なのかとあらぬ勘違いを覚えてしまう
一斉に高田に視線が向いてしまい固まってしまう
「どうかした?」
そういったのは丑嶋でもましてや柄崎でもなくタイミング悪くいつも聞くこともないハズの戌亥だ
分かったような目をした彼に申し訳なくなりながらも隠していても分かっているのだからといった
「いや、思わず戌亥さんってそっちの方なのかなって」
「それはないって流石の俺でも男には走れないし」
「だーはっはっはっ、戌亥ざまぁねぇなぁ」
大笑いする柄崎に苦笑いする戌亥、奥で座っていた丑嶋はコーヒーを飲みながらいった
「戌亥は嫁さんいるからな」
「え?そうなんですか」
丑嶋がそういったあとに驚いて声を上げれば丁度大きく扉が開いて、大きな高い声が聞こえる
受付嬢のはずのモネも困った顔をしてその女を止めようとしていたが、新人のモネには分からないだけだ彼女は客ではないがカウカウの大切な人間だ
金主であり、裏に筋を通すパイプであり、また一つの情報源であり、天真爛漫な子供のような女
「おっはよう諸君、ってあれいぬっちどうしているの」
「おはようじゃなくて、こんにちはだよ茜、それに俺今日は仕事の用事でこっち来るって話してたろ…はぁ」
「そっか、じゃあプリン足りないね」
この人誰ですか?なんて慌ててるモネに説明してやってる柄崎を横目にも仲睦まじい二人を改めてみた
ジロジロとみていれば気づいた戌亥が小さく笑って頷いた
まさか結婚していてそれも相手がこんな身近な仕事相手などとは思いもよらなかったのだから、戌亥とも知り合ってもう何年も経っているというのに今更知るとも思わなかった
女性に対しては1番目敏いはずが洞察力が鈍ったものかと思えてしまう
「うーちゃんこれ頼まれてたやつね」
「わりぃな、茜は最近戌亥に嫌味言われてねぇか」
「大丈夫だよ、あんま報告するとすぐ愚痴愚痴言われるから」
「俺そんな女々しくないし、てか丑嶋くんが過保護で怖すぎるんだよ茜にだけ、一応俺の奥さんなのに」
「そういうのは家でやれよ」
よくよく観察すればいつもアクセサリーとして見ていた茜の左手の指輪と戌亥のくたびれたスーツシャツの下にちらりと見えるリングのネックレスは似たデザインをしていた、滅多に見ない変わったデザインは特注したものなのだろう
本当に今更気づいたな…等とお茶を飲みながら思う、渡されたプリンは原宿の新作の有名プリンだとモネが騒ぐあたりまぁまぁの人の多さとそれなりの値段だったとは予想がついた
「丑嶋くんだといつ茜が取られてもおかしくないからなぁ」
「じゃあうーちゃん私と浮気しちゃおうよ」
「いやお前は無理だわ」
「えっ、えーちゃん!」
「俺も貧乳は」
「たかぴょん!」
ふと振られたネタに固まって断らなければいけないのに頭は動かずに言葉は出てこなかった
戌亥の指が綺麗に隙間を埋めてそれが縦向きに茜の頭に当たった、そのチョップに大袈裟に文句を言う彼女に悪気なさそうに笑う戌亥が高田をみた
まるで嫉妬にこもった男の目だった、そんな戌亥に思わず唾を飲み込んだ
「お前らとっとと帰れよ、特に茜」
「もう酷いなぁ…仕方ないからいぬっちも帰ろう」
「はいはい、じゃあまた来るよさっきの件は後で詳しいことメールしとくから」
「わりぃな」
短くそう返した丑嶋の言葉を最後に二人は談笑しながら軽く挨拶をして出ていった
ふぅっとため息を付けば目の前の柄崎がニヤついた顔をした
「戌亥のことあんま怒らせんなよ?ある意味社長よりこえぇんだから…特に茜に関しては」
「え?」
また笑った柄崎に深いため息をついて、カウカウには暫く二人は揃って欲しくないだなんて失礼ながら思うのだった
「結婚なんて素敵ですね」
なんて呑気なモネの声さえ思わず重たく思えるほどには高田は疲れて残りの仕事の量にまた深いため息をこぼすのだった
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