佐藤
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「田中くん」
「高橋くん」
「ゲンくん」
「奥山くん」
えらく増えたなぁなんてふと思えた
アジトの中には人は増えたし、興味本位でジロジロと見つめる目はもう慣れてしまった
それでも居心地が悪くなって、ゲームする其の男の腕を掴んだ
「ねっ、佐藤さん遊びに行こ」
彼はまるで駄々をこねる子供を見つめるように目を細めて一瞬の隙でゲームオーバーとなった画面を見た後に、口を開く
「うん、いいよ」
いつから彼に甘え始めたのか覚えてもなかった
とにかく自分の人生に色をつけたのはこの男だということくらい
「ねぇ佐藤さんってあたしの事好き?」
「突然だねぇ…うん、使える子は大好きだよ」
そういって彼の手が伸びて頭を撫でた、優しい大きな手のひら
見た目は少し細く見えても意外と筋肉質で、掌だって大きい、頭を包み込んで犬みたいに撫でられる
この為なら生きていけるなんて亜人なんだから死ぬこともないのに思えてしまう
「あたしいい子にするから、あれ着てみたい」
指を指した先にあった白いシフォンのドレス、佐藤さんは微笑んだ
戸籍なんてどうでもいいから、ただ一つになりたいと思えてしまった
もうすぐ大きな作戦がまた始まる、それは終わりの始まりだ
「みてみるかい?」
エスコートされながら店内に入る、店員の目は何かもの言いたげだ
それもそうだと思えた年の差のある男女だ、変なことを考えないこともないだろう、自分から言っておいてそんな目を気にして一緒に来ていた佐藤は何も気にせずドレスを見た
「へぇ、今のウェディングドレスっていろんな色あるんだねぇ」
「かわいいね、でもやっぱり王道の白が良くない?」
結婚するわけも恋人でもないのにそう会話をしていた、奥にいた女性が歩いてきては声をかけた
人気はどれだとか、好みはどれだとか
「式はいつ頃でしょうか?」
当たり前の質問だとわかりながらも一瞬固まる、結婚なんて夢のまた夢でもう戸籍もなくなった亜人に結婚なんてできるわけもない
「その実は」
「再来月予定でして、彼女に似合うドレスを見ているんですがどれがいいか悩みますね」
愛想のいい笑顔でそういった、遮られた言葉に目を丸くしながら見つめれば、気づいて小さく笑い彼の手が重ねられる
昔だろうかセラピストが言っていた
夕日ちゃんは将来何かなりたいこととか、したいことはある?
そんな時、実験されてる私にどう答えればいいのかなんてわからなかった
ただ少し前かその日か知らないけれど、女性職員がパンフレット片手に指輪を光らせて嬉しそうに笑っていたからだろう
「あたし、およめさんになりたいなぁ」
幼い亜人を周りは時に子供と見て、時に脅威のある存在として見た
微笑んだそのセラピストの背後にいたやつがつぶやいた
「バケモンがよく言うよ…気持ちわりぃ」
どこが違うのか、よく分からなかった
人より優れた能力を持っているのは理解した、だからどうした、死なないからなんだと思えた
背後で女性スタッフがファスナーをあげた、大丈夫ですよー、なんて声とともにカーテンが開けられる
「綺麗だね夕日くん」
「佐藤さんはあたしがお嫁さんになりたいって願うと…笑う?」
「…そうだねぇ、私のお嫁さんに来るなら歓迎だけど他ならきっと…殺してしまうよ」
その目は本物だった、この人の愛は何よりも重たく軽かった、要らなくなれば捨てるような男で
今は利用価値があるから生かされてそばにいさせてもらえる、哀れみを込めた人達の目を見て笑う、居場所なんてどこにもないなら嘘でも大切に愛してくれる人がほしかったからだ
「佐藤さんのお嫁さんになりたいです」
「うん、なら指輪を買わなくちゃね」
そういいながら左手を取られて指を撫でられる力が込められ、痛みに顔を小さく歪めながら彼を見れば嬉しそうに微笑んで赤くなって跡の残った薬指
白いドレスを着た年若い娘と父親…祖父とも言えそうな男と並んで鏡に映る姿はまるで新郎から逃げ出した新婦のようだ
「佐藤さん」
「なんだい?」
「どこまでも私たち二人で逃げましょうね」
そういえば佐藤さんは小さく笑っていう
「飽きるまでだけどね」
どんな意味かなんて考えたくないに決まってる。
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