bulldog


「目ぇ覚めたか」

こうしてリセットされて目覚めるまで待つのも何度目かと思えた
このメンバーの中でも特にリセット回数が多いのは単に戦闘能力が低い訳ではなく、ある意味自傷行為だろう、男達の中で生きる一人の女として、そして子供のような存在として重たく苦しいものだった

「おはよ田中くん、なんでジャケット脱いでるの?」

「お前のシャツボロボロで体見えてたからだろうが、ったく」

「ふぅん…あってかさ帰りにスタバ行きたーい、新作抹茶チョコマスカルポーネ飲みたい」

「ダメだ、早く帰るぞ」

「えー、絶対田中くんも飲みたくなるって」

「ならねぇ、佐藤さんに怒られるぞ」

「いいもん、佐藤さんには私がちゃんというから、お願い」

あぁこいつに弱いな、と自らを思いながらつい先日猫沢さんのところから貰った車を運転しながら隣で楽しそうに音楽を聴く少女を見た
派手な金色の染められた髪の毛に長い爪に自前でも長い癖にさらにバサバサの虫のようなまつ毛を付ける、唇のグロスがイヤに光っていやらしいと感じる頃には目当ての場所には到着し、財布を片手に注文をする

「おかえり田中くん」

そう言って笑ったこいつは今にも死にそうな気がした



信長夕日という女は自分よりも年下で戦闘能力が高く顔だってかわいい
欠点といえばいいか、好みの問題だが、少し派手なところが玉に瑕
すらっとそれなりに長く肉付きは悪くない白い足が伸ばされて運転席の上に乗せられていた

「何してんだ」

「んー?遅いから寝ようかなって」

「寝るなら後ろいけ」

「やだ」

「ならそこで寝ろ」

いつもそうだ、嫌だという時唇を尖らせて子供のような拗ね方を見せる
それが悪い訳では無いが本当の幼児のようだと思えてしまう、運転をしながらアジトに向かう途中もつまらなさそうに窓の外を見たり歌ったり

「…もしさぁ、日本が潰れたらどうする?私たちのせいで」

「海外でも逃げりゃあいいんじゃねぇのか」

「そんとき田中くんもあたしと来てくれる?」

「あぁお前の面倒見てやるよ」

狂った振りをしなきゃ生きていけないような、それほどまで弱い心で生きる夕日が時折見ていて苦しくなった
アジトに付けば即座に佐藤さんに抱きついて甘えては今日のことをマシンガントークのごとく話し始める、父親と娘のような関係でもそれは男と女のものだった
夜遅く聞こえるの壁の薄いアジトでの喘ぎ声のそれは女の声で、こんなところに女を呼べる訳もなく、じゃあいったい誰が?なんて簡単すぎる事だ

「…おはよ田中くん」

次の朝目覚めるとシャツ1枚で隣にいる夕日には慣れたものだ
手を伸ばして抱きしめれば、シャワーを浴びたばかりか少しばかり湿ってシャンプーの匂いが無駄に香る
足を絡めてまるで抱き枕を抱くように抱きしめる

「夕日、好きだ」

寝言のふりをして目を閉じながらそういえば、小さくシャツを掴む手に力が込められる
あぁ腕をリセットしたからか爪が当たらないでいた、犬猫のように身体を擦り寄せて、小さく当たる胸に興奮しそうになりながら自制心が働く

「田中くんずるい」

そんなこと分かってる、なんなら今すぐここでお前を押し倒したって構わない、いや普通の男ならそうするはずだ
これがもし高橋やゲンならとっくに奴らのブツをぶち込まれている事だ、自分だって男なんだと言いたいがそんなこと夕日が分かっている、そういった男女の臭い部分をよく理解しているのだから

「ずるくねぇよ」

「あ、起きてた」

「寝させろ」

髪の毛を無理やり撫で散らかして抱きしめながら背中を優しく叩く、話していたはずがゆっくりと意識が薄れて眠りについた夕日の寝顔を見つめて、柔らかな唇にキスはできずにその真横にキスを落とした

「俺が守ってやるから」

壊れたとしても直してみせる
誰かに壊されても修復して
そして自分にだけ縋ってくれと結局は自分が縋り続ける願いを心の奥で思いながら、湿った髪に手が触れた



ブルドッグ「あなたをまもりたい」