spring




花粉がやってきた、死に物狂いで毎日を生きる3月初め今年の春は少し早いらしく日中はジャケットを1枚羽織る程度凌げる程には太陽は暖かく猫は盛りについていた

「いやほんと、明日の朝やばいから」

「すぐ終わらせる」

「それ聞いた日は朝までコースじゃんか」

「いや今日は本気だ」

なんの話なんだと言われながらも男女でベッドの上で掴み合いをしている、とはいえガイが本気を出せば1秒ほどで宇宙は平伏させられる夕飯を終えて風呂を終えて今日はレンタルした映画を見ようなんてのほほんと思っていた宇宙とは裏腹にこちらも春のためか盛りについた目の前の男に血眼で戦っていた


「明日花見でも行くか」

「私さっき仕事っていったよね」

「夜でも行けるだろ、今が見所だ丁度いい二人でみるか」

この男の強引さにため息をついた、体のだるさと喉の乾きにいつの間にか部屋に置いているラムネたちで潤わせてベッドで相変わらず着替えもせずに横になりながら女性のファッション雑誌を片手に話をしていた
宇宙は明日は残念ながら休日出勤で最低でも15時まで仕事がある、花見にいくなら弁当やツマミや酒くらい欲しいというワガ5ママ

「あそこの桜が綺麗だったな」

「私似外といけばいいでしょ」

それでなくても彼は毎日この家に来る訳でもない、こうしてガイの面倒を見る人間は少なからず居てくれるはずだ
宇宙は自身を咎めた、決して好きになってはいけない、彼は自由の風に身を任せているだけでそこに自分はいらない、いないのだと信じきっている
どれだけ身体を重ねても唇を重ねても愛している等とはいうわけも言えるわけもなかった
優しい手が伸びて髪を撫でるものだから振り返ればガイは微笑んだ

「宇宙じゃなきゃ、ダメだ」


嘘をつくのが上手いんだと思えた、あの日の冬の銭湯で出会った時にこれが俗に言う運命なのだと改めても思った
会社のパソコンと睨み合いをして時計を見れば14時半、あんな甘い言葉を吐かれて拒否できる程人間が出来ていない宇宙は溜息をこぼしていればデスク付近に珈琲が置かれる

「お疲れ様です」

「葛城くん、えなにこれ差し入れ?」

「はい、お昼食べてなかったのみたので珈琲と俺のよく行くパン屋さんのサンドイッチです、すごいうまいんで食べてくださいよ」

「まじかありがとうね、今度なにかお礼するわ」

「はい、ご飯でも連れてってくださいよ」

茶髪の近頃入った新入社員は可愛げのある男の子だなと思えた、サンドイッチを片手にパソコンを睨みつけて手を動かせば携帯のアラームが15時を告げる
仕事を一通り終わらせて確認をして急ぎ足で荷物を片手にコートを羽織る時間もないと思いエレベーターを押せば、タイミングよくやってきた

「ん、終わったか」

「どうしているのよ」

「いや下で待ってたんだが待てなくてな、受付の人に聞いたらここだって」

「…あの子達」

ガイの顔はいい、そうなれば受付の若い女の子達は喜んで彼に情報を提供するだろう、無関係の人間は基本本人の許可を得てからだというのにと内心文句をつけるが彼の手には重箱があった

「それガイが?」

「あぁ、知り合いに朝から教えて貰っててな」

「ついでだしコンビニでお酒とツマミ買わせてよ」

「なんだ昼から飲むのか、だから最近下腹が」

余計なことを言うガイを睨めば悪気はないと言うように眉を下げられる、真面目な顔で言うのだから余計にタチが悪いというものだ
深いため息をついて
ガイの言う知り合いは予想では謎の3人組のことだSSPと名乗る彼らを遠巻きには知ってるが、何故そこに彼がと思いつつも悪い存在ではないからと聞くだけは聞いていた
コンビニには花見用にレジャーシートなども置いていたがどうやらそれらも持ってきていたらしく、適当にカゴにチューハイを入れた

「宇宙、これいいか」

「…ガイ、お酒いけるの?」

ラムネソーダと書かれたそのアルミ缶の下にはお酒、20歳以上と表記されていた
歳は見た目からして大丈夫だが、酒を飲むガイを知らないために宇宙は思わずそう聞いたがどうやら付き合ってくれるらしい彼は曖昧な返事をしてカゴに入れた
ついでにツマミや和菓子を入れて重たい荷物を片手に歩き始める

「どこで花見する気」

「まぁもうちょっと歩いた先だな」

「とかいいながら30分は歩いてるけど」

「まだ30分だ」

返す言葉もなく隣を見ても気にした様子もない、いつものジャケットを肩に羽織るだけのガイの背景には所々桜が見えた
綺麗だと感じつつも人気の少ない川沿いを歩いて15分、ようやくたどり着いたそこは見渡す限り桜で、電車が奥に見えて雰囲気を出した
人がいないのは川沿いで入る場所もわかりにいためだろう、まるで花畑のように地面にさえ敷き詰められた落ちた桜とそれでも尚まだ満開に咲き誇る桜たちが美しく宇宙は楽しそうにその場を見上げ先にいった

「ねぇガイ、素敵だねここ」

「だろ、だから宇宙と来たかったんだ」

優しく笑いながら子供のようにはしゃぐ宇宙を置いて地面の桜を手で払い避けて白いレジャーシートを広げて、重箱を広げる
楽しそうに駆け寄る宇宙は中身を見て歓声をあげるが1段だけ不思議に思いながら見つめた

「焼き、そば?」

「あぁ俺がこの地球一うまいと感じた焼きそばの師匠の元で作ってきた、自信作だ」

「ははっ変なの、まあいいやほらガイもそれ開けて…はい、乾杯」

「乾杯」

おにぎりに揚げ物やデザートまで豊富に敷き詰められた食事を堪能しつつも桜を見つめた

「そんなに喜ぶなら連れてきてよかった」

「私そんな浮かれてた?」

「あぁ、嬉しそうだ」

「まぁ…そうだね、花見なんて何年も行ってなかったし、それをこうしてガイとこれてよかったよ」

「なら俺が何度もここに連れてきてやるさ」

その言葉に素直には宇宙は喜べずに曖昧に笑う、ガイの言葉に嘘はない、そこまで酷い男ではないと理解している
だがこの桜を見に来ることはこの先あるのかと問われるとないと思えた、来年もまたガイはいるのかと信じきれなかった
風のように消えて置いていかれるような気がした、桜にさらわれるように彼は消えてしまう気がして宇宙はガイをみた

「ガイはどうして私を選んだの」

「選ぶ?」

「私よりももっと楽しくていい人は沢山いたでしょう」

体の中に入れたアルコールが回り始めたなと思いながらそう問えば困ったような表情をした

「宇宙だからだ、あの日出会ってこうして出来るのは宇宙しか考えれないんだ俺の中では、だが嫌なら俺を拒否してくれていい、俺には選ばれる権利も選ぶ権利もない」

それはこの二人の関係だけを示したような言葉には思えずに宇宙は答えを出すことが出来なかった
甘い卵焼きを口に含みながらチューハイを片手に桜の木を見つめる

「少し膝を貸してくれるか?」

「いいけど、酔いでもまわった?」

「かもしれないな」

「そう、ならおやすみガイ」

帽子を頭の上に置く形で眠りにつき始めたガイを見下ろした、この曖昧な関係をいつまで続けられるのかと怯えた
優しい温もりが今は消えないようにと願い続けていた

「こんにちは、愛らしいお人よ」

「何の用で?」

「ガイは…なんだ警戒心もなく寝てるのか」

「用がないなら帰りなさいよ」

まるで嫌悪するような表情でそう告げた、目の前の男は時折宇宙の前に現れた、ガイのいない時に現れては引っ掻くような物言いをして帰っていく
現実を思い知らされてしまうのだ、この男の前では夢物語だと思わされて深く傷ついてしまう

「いつまでそうする気だ、こいつはお前なんざ見てもないのに」

「それでいいってずっと思ってる」

「人間はいつもそうだ、自分を見ようとしない、綺麗事で固めようとするお前も、ガイも」

そういいながらジャグラーの手が伸びてゆっくりと宇宙の頬を撫でる、合わさる瞳同士が食らいつくようにみていればホント一瞬だけ唇が重ねられる、ガイはまだ目覚めもせず膝の上で心地よく寝息を立てる

「ガイがお前を置いていった時、俺はお前を攫ってやるよ」

「…それはまぁ、頑張って」

「あぁ頑張るさ、じゃあな」

背中を向けて歩いていくジャグラーの背中を見ていたが強い風と共に桜が舞い踊った時、彼はいつの間にか消えていた
手元に置いてあるチューハイを飲み干してガイをみれば少しだけ肌寒さに身体をよじらせた

「今はこれでいいんだよ」

桜がポロポロと落ちては地面に積もっていくのをみた、まるで宇宙の心の欠片のようだった