鶴見










柔らかなベッドに腰掛けた、何ヶ月ぶりのそんな柔らかな寝具に腰掛けたと思いきや、足を取られて靴を脱がされた
男は機嫌よさそうに西洋靴の偉く尖った赤い靴を履かせてきた、手を取られ立たされて歩まされる
コツ………コツ…………………となる靴の煩わしい音に鼻歌交じりの男の声、広い部屋に入ったと思いきや問われる


「ダンスは経験があるか?」


「あるようにみえる?」


「一から教えよう」


機嫌のよさそうにいっても、何が楽しくて自分を捕らえてきた男とダンスを踊らねばならないのかと思える
小さく指先を添えるように繋がれた手に、相手がうまい故か足を踏むこともなく彼の鼻歌に合わせて部屋の中でクルクルと踊る
西洋文化など殆ど知らないが、博識な彼は社交ダンスなどお手のモノと言わんばかりに優雅に見た目と反対に踊るものだから驚きは隠せずにいる


「踊りが好きなん鶴見中尉さん」

「ンンー?」


目を細めて腰に手を回してゆっくりと揺れる間にも彼の鼻歌は心地よい子守唄のように耳に残るものだ


「好きではない」


はっきりということ男に相変わらず読めないよく分からない人だと思う
いつだってその瞳を何時間眺めたとしても本心は分からぬまま、自分の夢のために今は金塊を追い求めていたとしても気味が悪いと誰もが感じることだ。



「足が痛いんやけど」


何分もずっと高い履きなれない靴で踊らされているのだ、足は悲鳴をあげ始める、そのうち転けないかと思いつつ男に静止してほしいといっても、終わらない



「こんな本がある、赤い靴を履いた娘が永遠に踊らされ…最後は耐えきれず、足を切り落とすのだと」


思わずその言葉に動揺して大きな音を立てて床に崩れ落ちる、男は楽しそうに鼻歌を歌って着物の上から足を撫でるゆっくりと靴にたどり着きそれは簡単に脱げ落ち、開放感に晒される
赤く高い靴は床に落とされ、鶴見はそれを見たあとジックリと目を合わせた逸らすことのないようにそれを見つめて彼は言う



「まぁ、その切り落ちた足と靴はどこかに消えちゃうんだけどネ」


何がおかしいのか、思わず嫌悪したような顔を彼に向けていればまた足に触れられる
軍人の男の指先がゆっくり撫でられるのを叩き落とすわけでもなく見つめる


「どうせならばその滑稽な足と靴を永遠にみていたいだろう」


なんていい、足に小さく口付けて嫌に彼はまた笑った
気味の悪い男だと舌を打って









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