尾形




一匹の猫が鳥を気にした、毎日朝から夕方まで予定がなければ一匹鳥は庭で寒い北の大地に咲く花の世話をしていた
それを猫は毎日部屋の奥からみていた、鳥は親鳥のような人間になついてはいつも愛おしく幸せそうに名前を呼んでいた

「土方様」

そうか細い声で小鳥は泣いていた
鳥なのかそれとも、魚なのかわからない、人の噂では飼い主のために生きる魚だというが、その飼い主の後ろを追いかける様は小鳥のように思える
小鳥の瞳にはいつもその飼い主であり、声を出す時もその飼い主を呼ぶばかりであった、だから猫はその小鳥に噛みついた、小さな幼い体を地面にねじ伏せて、わかってもいないその瞳に嗤う

「...尾形さん、私じゃ役不足だと思う」

「なぁに、少し我慢してればいい」

そういっても小鳥は怯えた顔もしないで見上げた、あいにく今の家の中には小鳥に関心のない老人が一人だけだ、牛は外に、飼い主も、誰も小鳥を喰らう邪魔をするものはおらず、天井を黙って見つめる小鳥のその細い体に触れる、その袴の帯に触れたと同時にガラガラと戸の開く音が聞こえ、その腕から逃れるように小鳥は飛び立った


「おかえりなさい、土方様」

「あぁ」


奥から聞こえるその声に小さく舌を打つ、いつもそうだ飼い主は猫を見張っている、わかったようにみていた、鳥の頭を撫でては猫をみて笑う
お前では鳥を喰らうことは出来ないと、嘲笑うように

それ故意地を張って、小鳥をまた喰らおうとした何度も逃げられたのに懲りずに、そして猫をついに爪を出して引っ*いた
腕を掴んで、行かせないと無理やりその小さな唇を塞いで無理やり脱がせようとしたときに鳥は危険を感じたのだろう、猫の顔を強く引っ叩いた、怖がったようにその大きな瞳には涙を溜めて部屋の端に逃げた後に立ち上がり小鳥は衣類を正しながら飛び立った

「お前では珠樹を手懐けることは無理だ」

「だから楽しいんだろ」

「意地を張るのはいいが、アレに本気で嫌われんことだ」

そういった飼い主は猫を咎めることもなかった、それは猫のことも小鳥のことも理解しているからだろう、鳥は主人を深く愛して忠誠を誓っているが、猫はその反対で鳥を狙うばかりだ、遊びと思っていれば火花が散り軽い火傷をしても猫は懲りずに鳥を追う
だから鳥は不思議なのだろう


「私とこうして楽しい?」

「あぁ、抵抗をしないのが面白くないな」

「貴方に抱かれても私、土方様以外考えれない」

まるで恋以上だろう、愛のような呪い
背筋が凍りそうなほどにその愛は重たく冷たく酷いほど愛おしさを感じるのだから不気味なものだろう、実る、実らない以前のその感情でも鳥は飼い主を愛する
決して歌うわけでも、望むわけでもない、ただその気持ちに酔いしれるかのごとくに鳥は望んで笑うのだからおかしいものである

「そんなに奴が好きか?」

「好きじゃないの」

猫の問いに鳥は答えるのに、疑問が残った
鳥は猫にいった


「愛なの、私の世界に対する」

鳥籠の鳥にとっての世界はそこだけなのだろう、自由に見えたその鳥は自ら外を拒否して籠の中の世界を望み
主人の愛だけを受け入れて、そしてそれを欲望の欲するまま願った、猫は優しく鳥を舐めた髪を手で梳いて、今までにないほど優しく接した


「じゃあ、俺のこれも、愛だろう」


そう猫は尖ったその歯をみせて、笑った
黒い瞳は何も映さないくせに、それを愛だといいながら
鳥は鳴いた、か細く悲しく


「悲しい人ね...愛も知らないんだもん」





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