茅ヶ崎至
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ゲームの邪魔をされることをこれ程まで嫌う人間もそうそういないであろうが、夜中の11時前になった電話の通知相手を見て仕方なしに電話を出てみれば騒がしい音が電話の奥で聞こえた
「茅ヶ崎迎えに来て」
これはまた色々聞かなければならないと思いながらため息をついて立ち上がり面倒くさそうに車の鍵を片手に出ようとすれば、まだ起きていたらしい監督や伏見や兵頭が夜中のデザート語りをしていた
「あれ?至さんどこかいくんですか?」
「あー…まぁちょっと買い物とかしてこようか?」
「ならアイス食べたいです!私ゆきこ大福」
「ガツガツくんで」
「はいはい」
甘いもの大好き同盟の2人に手を振りながら靴を履いて、先程知らされた場所まで行けばスーツ姿の女がくたびれた格好で道端で横になるものだから深いため息を吐いて肩を貸す
「ちがさきだ」
機嫌のよさそうに酒臭さを纏ったこの女は自分の高校時代からの同級生で気づけばお互いに恋人になっていた
彼女の職場は男臭いが心配することもなく年上でさらには既婚者ばかりであった、そのうえ飲み会が多く全員酒に弱い
女である小雪を置き去りにしてでも全員這って帰ったあたりで相変わらずの扱いに安心しつつも文句が出る
そんなことも気にしない恋人は自分の目に入った柔らかい髪の毛を乱暴に撫でる
さながら犬を相手するような扱いに拗ねたような顔をする茅ヶ崎は酔っ払いに何を言っても無駄だと思いながら車に連れ込んだ
「ちがさきー」
「はいはい、窓ね」
「ちがさきぃ」
「たばこならカバンでしょうが」
今日もだいぶ飲まされたらしい恋人は眠たそうな目でカバンの中を漁るものの出てくる気配がないために仕方なしにカバンの奥底にあった、ウィンストンキャビンと表記されたタバコを渡せばライターを手渡されて火をつけろとまでいう
「自分でしろよ」
「茅ヶ崎の火がうまい」
車を走らせる中でちらりと横を見ればタバコの煙を外に吹かせた
「なに?惚れた?」
「はいはい」
酔っているせいか楽しそうに口角を上げていう彼女にため息をこぼしながらコンビニの駐車場に車を停めて言われていたアイスを複数買っていく
タバコを吸い終えたらしい小雪はいつの間にか隣に立ってカゴの中にアイスを入れた、1番高いやつを
「いやいや何入れてんの」
「え?茅ヶ崎の奢りなんでしょ?劇団員よくて彼女はダメってのか」
「うわめんど…酔っ払いくそうざい、それもそれハーケンダッソの新作だしめっちゃ高いやつじゃんクソ」
悪態を付きながらも背中のシャツを握る手が実は密かに萌えているなんて言葉も出ずに仕方なしに自分の分のアイスとお菓子、ついでに課金用のゲームカード(一番高い)を2枚入れてレジにいけば、やる気のない大学生程のバイトがバーコードを読み込む
「茅ヶ崎これー、あとお兄さん86番1つ」
「ぶっっ、お前ほんと品とかないわけ…ありえないわー」
「え、ナマですんの?」
「もう勘弁してよ」
げんなりとした顔をして避妊具をカゴに入れて、ついでにと頼んだタバコにももう怒る気にもならずに仕方なしに財布を開けば、隣にいた小雪も財布を開く、珍しいこともあるもんだと見つめれば変なオレンジ色の狸が描かれたポイントカードが出される
「ありがとうございます」
大学生のやる気のない声が聞こえて、黙って横を見れば悪気もない顔をされる、あぁそうだ今更だと思わず自分を咎めた
畜生と内心文句を吐きながら財布の中から1万円札を3枚出し、おつりと荷物を受け取り車の中に入る
「茅ヶ崎」
「なっ…うっ、それやめろって言ってんじゃん」
「ありがとね」
「……はぁ、ほんとお前かわいくない」
いつの間にかまた車の中に入ってタバコを吸っていたこの馬鹿女は自分に煙を吐いてきた、昔から嫌いだと告げているのに彼女は楽しそうに笑う
「好きなくせにさ」
得意気にそういった小雪はまるでイタズラをした子供のような顔だ、そんなことは自分でもわかっていると言いそうになりながら悔しくなる
「あぁ愛してるよ、昔っから」
必死に高鳴る心臓が聞こえないかと思いながらそう告げれば小雪は目を丸くして赤くなっていた
タバコの灰がゆっくりと車の中に落ちた
「あぁったく何してんだよ」
「んなことより至、私も愛してる」
まるで母親に褒めてほしがる子供みたいな顔をして彼女は言ったものだからその唇を塞ぐ以外の方法が分からずに顔を近づければ嬉しそうに笑う、あぁ本当にこの馬鹿女なんて悪態付きながらも好きで好きで仕方ないのだと理解した
帰る頃にはアイスは半分溶けていて、仕方なしに寮に連れ帰った彼女は先程のムードも忘れてまた弱いくせに他のメンバーを巻き込んで酒を飲んで笑っていたことにムカついて隣でマッチングをする万里をボコボコにするのだった。
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