△自分で自分を憎んでも
このカルデアにはルールがある
1.召喚したサーヴァントとはどんなものであろうとマスタールームにて最低限の会話
2.1度レイシフトをし、2人で簡単な任務を遂行する
3.マスターとサーヴァントの関係、またサーヴァントと人間の関係は自由であるとする
その他にも細かいルールは沢山あった、最低限の会話と言われるのはダ・ヴィンチやロマン曰く最低限のコミュニケーションだという、渡されたデータには複数の質問が張り出され、これを聞くのも何回目だと思った
だがそれ以前に彼女は他のことを多く考えた、それはつい先日召還したアーラシュと名乗るオルタ化したサーヴァントだ
通常は召喚後すぐにする筈が澪のメンタル面を考慮し、少しばかり落ち着いた次の日にしようと言われた
あの後怯えきった彼女を見て全員がアーラシュをそばに置くのを拒否した、マスター権を藤丸姉弟の片方に変えるべきだと職員達の意見も同じであった、だがサーヴァント本人はそれを認めなかった
それどころか彼は自身のマスターが彼女でないのならば今ここで自分は消滅するとまで発言をした
異常なまでの彼女への執着、そして人類史が白紙になる目前まで進んだ今兎に角戦略を練らねばとなった、藤丸姉弟の2人は次の特異点であるキャメロットへの準備を着々と過ごしていた
「…澪です、入っていいですか」
自分のマイルームであるが先に来ている先客にそう声をかけて扉の前で立った
「あぁどうぞ」
低い変わらない声が聞こえて澪は指紋認証システムの認証を済ませてロックを解除すれば自動ドアは彼女のために開いた
ベッドに椅子とテーブル、所々ぬいぐるみやスキンケア用品やメイク道具が置かれているのは年相応の部屋にも思えるがどこか殺伐としていて、その真ん中のベッドに座っていたアーラシュオルタと名乗った英霊
黒い髪の奥から覗き見た赤黒い獣のような鋭い瞳はいつでも澪を喰らわんと言うようだった
「そんな怖がらなくていいってあんたの部屋だろ」
「…うん、アーラシュ?オルタだっけ」
「あぁまぁ簡単に言ったらそんなところか、オルタについての知識はあるか?」
「えっと…まぁ」
このカルデアには様々なサーヴァントがいる、時には先のレイシフトで出会うサーヴァントだろうと召喚に応じてくれる者もいる
データとなったそれはあまり関係がないともいわれる
オルタという存在について澪も簡単な説明は聞いており、とてつもなく簡単に言えばその英霊の心の奥の闇をさらけ出した姿だとも言う
誰であろうとみんなそれを抱えている、それは大英雄アーラシュカマンガーであっても変わらなかった、オルタは少しばかり実物と言わば変な答えだが普通の姿と瞳の色や肌の色が少々異なる
黒い瞳は赤に、褐色の肌はより黒に、緑の鎧は黒色に、変わらぬのは赤い弓であるがまるで血の塊のようだった
「ん?座らないのか」
「あ、ごめんなさい」
「話は聞いてる質疑応答の時間だっけか、インタビューっていうんだろ?」
「うん、マスターとサーヴァント同士のコミュニケーションを高めるための」
アーラシュは何も変わらなかった、話し方も雰囲気もオルタになったせいか少しだけ狩人のようなモノを感じただけだった
アーチャーであった彼とあまり変わらないのだと思った、能力が変わって少しだけ見た目が変わっただけだと
澪は彼の座るベッドの前に椅子を持っていこうとするが静止をかけられて、仕方なしに隣に座る、初めて出会った頃のアーラシュと変わらない
優しい笑顔で彼は笑う
「好きな物?ひよこ豆のペースト、うまいぞ?」
「前のアーラシュに作ってもらったことあるよ、美味しかった」
「なんだそりゃあ勿体無い、俺のがきっと上手く作れるぞ」
「ふふっならアーラシュも作ってくれる?」
「マスターの頼みとありゃあ断れないな」
まるで戻ったような気分だ、澪は悲しみを忘れた、彼と会話をするたびに警戒していた心が解けていく
肩があたる程の距離で澪はアーラシュを見つめた、何も変わらない本当に温もりも優しさも声も体温も頭を撫でる手も
「嫌いなこととかはある?」
「人間だ、俺を求めて縋る弱いヤツら、俺を殺す存在」
「…アーラシュ?」
澪の問いにふと笑顔を消したアーラシュはそう呟いた、人を憎み続けたような
心の奥底で眠っていたものを彼は見せる、澪を見つめた瞳は真っ赤な血の色でまるでその瞳はいままでの殺した人間達の色のようで澪は手に持っていた電子パッドを床に落とした
慌ててそれを取ろうとする前にアーラシュが手を伸ばして澪に手渡した、がそれは彼の手を離れることは無い
澪は嫌な汗が背中を伝う気配を感じた、これは彼じゃない、彼の皮をかぶる獣だと
「あぁあと好きな物は、澪…お前だ」
「なっ、に」
「嫌いなものだってお前だ、俺を殺したんだ何度も何度も痛くて苦しくて身体がちぎれ、酷いやつだよなぁ」
「ちがっ…私は、そんなこと」
「サーヴァントだからただの捨て駒だもんな、あんなに愛してた癖に」
「やめてよ、違うの私は」
ベッドの上に押し倒され、頭の中で様々な言葉、様々な思い出を思い出す、その度にアーラシュを思い出し彼と今目の前にいるオルタが重なった
本人なのだから当たり前だとわかりながらもかぶり続ける2つはまるで責められ続けている気分だ
当たり前の事だ、人は死を恐れる生き物だったアーラシュという英雄は、英雄であるが故に決して怯えること無く命を投げ捨てた、それ以外に道がなく、そして誰よりも彼は重しを背負い何よりも孤独であり続けた
「俺にふさわしいマスターなら、俺を殺してくれ…人間として」
その目は何処までも悲しい色を纏っていた、胸元に触れるアーラシュの指を澪は泣きながら見つめた
自分を責めた、アーラシュの孤独と痛みに甘え続けた自分が憎かった、そして何よりも目の前のオルタという存在を見たくなかったとどこかで思う自分の薄情さに嫌悪した
「俺がお前を守ってやるよ…いざと言う時は任せておけ、俺の力は人々の呪いだ…お前が望むならいくらでも撃ってやるさ」
彼の赤い舌が澪の涙を掬う、恐ろしく声が出ない訳ではなく、ただ何も出来ずに見つめた
涙を流してこの男を受け入れる以外に出来ることが想像もできなかった、己が殺した英雄の残影のようなその男があまりにも悲しそうにそう語った、自分の貞操が失われていくことに対して恐ろしさを感じたことでなく、今目の前のこの男がどこまでも悲しく辛く、そして互いにこの気持ちを共有し合い、そしてそれを背負わなければならないのだと彼女は気づいた
「…ねぇ…どうして」
そこまで背負わければダメだったのかと凡人である彼女は出かかった言葉を発することも出来ずに見つめた
唇を奪われ、異性に見せたことも無い裸体を晒されて、弓を操る大きな手がその細い少女の身体を撫でる、時折胸元や腹や足に彼は口付ける
その姿は何処までも愛おしいものを愛でるようだった、澪は彼を否定出来ないでいた
嫌だという言葉は飲み込む他ない、受け入れなければ自分の罪が更に重さを増して彼女は罪悪感に踏みぶされそうだからだ
彼女は目の前のアーラシュカマンガーのオルタを愛するという形ではなく、懺悔するように罰を受け入れるように抱かれた
何度も奥深くで彼の男根が子袋につき当てられても、中に熱い子種を注がれても、背中に爪を立てて受け入れる事しか出来なかった
鋭い痛みと身体の重みに目を覚ました、何も纏っておらず、乱れたシーツは少しだけ赤く染まり
自分の股ぐらから白く濃い液体に混ざった赤を見つめ、彼女は防音であるその部屋で大きく声を上げて泣いた
自分のした過ちがもう戻らないことを
この歪な形のものが、かつて彼に本当に向けたかった愛だと知っていたから
「…ごめんなさい…アーラシュ」
横になったベッドで小さな体を抱きしめて言った
電子パッドはサイドテーブルに1杯の水と薬と一緒に置かれていた、それだけでまた心は苦しくなった、一層の事死んでしまいたいとさえ思える程に心は痛くて泣いている。