夢ならどうか
いつだってそうだった、なぜ私なのだろうと疑問を抱いた、どうして彼女が評価されるのだと非難を受けても、それが当たり前だと思った
気だるい体で真っ白な天井を見つめても答えは帰ってこない、父は優秀な研究者で母は高潔な生粋の魔術師で一人娘の私を魔術師に仕立てようとした、けれど父は私を好きな道に行きなさいと背中を押し続けたそのせいか子供が出来てから夫婦仲は悪くなり離婚にまで至った
母に連れられて魔術師としての知識を教えられても頭に入らず魔力も一般人と大差なく、父親の血を濃く引いた私に嘆き、最後は泣く泣く父に親権を譲った
機械は好きだ、静かで面倒が見れて、一つ一つのパーツが綺麗だと感じる
時折自分で組み立てたりすることか何よりも楽しくて、父は私に研究者としての道を勧めてくれた
けれど結局は整備や機械に関わることが好きで母の置いていった書物は魔術のことであれど楽しく感じた、幼いながらも国から認められ魔術の事も少なからずは手を出してしまえば魔術師たちが私にあれよこれよと頼みを始めた、楽しい、嬉しい、そう思っていれば今で言うカルデアから私はスカウトを貰ったのだ
父は言った
「お前は優秀だ、その力を貸してやりなさい」
「困っている人は助けるんだよ」
「でも決して、お前は英雄やヒーローにはなれないんだ」
そうだ私は一般人でただ好きなことに熱心なだけだ
だから朝目を覚ました時に左手に見えた令呪という見慣れたマスター候補生たちの物が私にあるということを信じられなかった
心のどこか嬉しかった、私もあの新人マスターのように出来るんだと思ったから、パートナーも優しくていつも守ってくれた、あぁそうだだからこそ安心しきっていた
「なんで私なんだろ」
左手の甲に見える赤い印に恨み言を吐いた
ほかの人だっていたのに、私以上の魔術師や技術者はいた
何度そう言っても彼女は選ばれたのだ、この運命に
重たい体を起き上がらせて備え付けのシャワールームに入り身体を清めた、胎内にある液体に気持ち悪さを感じつつ足を開き指を入れてそれを掻き出す、サーヴァントとマスターであればこの行為は魔力配給であり妊娠などはするはずもないが体内にある魔力が溢れて体は酷く重たく、まるで彼の呪いのように感じた
シャワーのお湯とともに流れる白く重たい魔力の塊に澪は涙が溢れた、愛していると思った、口にせずとも分かりあっていた
千里眼を持つあの男ならば見え透いていた、情け等ではなく、対等に平等的な愛ではなく、心からそう想えた
「澪ちゃん聞こえているかい、マシュ・リツカくん、立花ちゃん、レオナルドの4名がレイシフトした、君には事前に伝えたように彼と行ってもらう」
シャワールームの奥からそう聞こえるのをただ静かに聞いていた
聖杯探索班としていつもならば澪もついていくが今回は別行動をしてほしいと指示を出された澪とアーラシュは未だ待機中であり、もう時期出発が近づいていた
過ちをしたあの日からアーラシュは時折澪を求めた、愛を語るわけでもなくただ身体を重ねて、そして何よりも慈しんだ瞳で見つめた
それが虚しくそして悲しく身体の重みだけが罪の重みのように感じた
「身支度は終えたか?」
「うん、アーラシュは」
「俺はバッチリだ、身体は平気か」
「平気って思わないならやめてよ」
「ははっ善処するさ」
シャワーを終えて澪は下着のみを身につけた格好で部屋に戻ればいつの間にかアーラシュは来ておりそこに居座っていた、思わず髪を拭いていたタオルで体を隠しても気にした様子もなくベッドに腰掛けていた
「そんなに怖がらなくても今日はしねぇさ、もう時期出発だろ」
「呼びに来たの?」
「あぁドクターが心配そうだったがな」
「……分かってるくせに」
「さぁ?俺は前の俺とは違うからなぁ」
そう分かったように微笑んだ男に澪は苦手だという意識は持っても嫌いとは到底言えなかった、彼は決して乱暴にはしなかった
澪を見ては現実を突きつけても嘘はつかない、指先は優しく頬を撫でる
だからこそ共にシュミレーションや通常のレイシフトでも息はあっていた
第6特異点に向かったとされる4人の今を聞きながらも作戦を立てる澪とアーラシュは歴戦を生き抜いてきた相棒にも思えたがまだ1週間ほどの出会いだ
「さ、行こっか」
「おうよ、かましてやろうぜ」
メインルームには複数の職員とロマンがいた、澪は支給されたばかりのマスター礼装アニバーサリーブロンドにそでを通していた、年相応の少女のような彼女が扉の開いたコフィンの前に立つ
ドクターが説明をしているのを聞きつつもレイシフトに集中した、藤丸姉弟の2人はレイシフト適正があり異常をきたさなかった、けれど澪はレイシフトをする度に嫌なものばかりを思い出し頭痛や嘔吐などといった症状を何度もしていた、その為かレイシフト前は緊張をしてしまい出来るだけ集中するようにした
「澪ちゃん大丈夫?無理しないように…向こうにはリツカくんたちやマシュたちもいるからね」
「はい、大丈夫ですドクターは心配性なんだから…私ももう慣れましたよ」
「…そう、それならいいんだ…じゃあコフィンの中に入ってくれるかい」
「はい」
この時に思ってしまう、あの時のレフライノールの事件のように死ぬのではないかと痛くて熱くて寒くて苦しくてずっと叫ぶこともなく眠り続けなければならないのかと思った
深い深呼吸をしてコフィンの中に入ればドクターの隣にはアーラシュが立っており優しく微笑んでいた
すぐにレイシフトは始まる、どんな大地に降り立つのか想像もつかないと思いながら澪は目を閉じる、ゆっくりと体が落ちていくように感じる、最後に聞こえた声に目を開けばそこは何も無いただの大地だった
「……あれ…立花ちゃん、藤丸くんは?ドクター?ドクター聞こえますか」
レイシフトは珍しく体に支障を来さなかった、だが異常事態を起こした、座標を間違えたのかそこには誰もおらず山奥のような場所で召喚機を設置する前に兎も角連絡をと考えたかカルデアのパスは繋がってはいるものの何一つ聞こえることはなく孤立状態となった
実際にここが言われていた通りのエルサレムなのかと散々考えた
「兎に角どこかアジトとか作らなきゃ…召喚機の設置してみて」
設置をしてそれからどうなる…そう澪は思った、ここに彼らは召喚できるのかそれさえも怪しい、悪いことばかり考えてしまい澪は顔を青白くさせる
ふと背後から聞こえる足音に身体を向ければ複数のキメラが澪を見つめた、背筋が凍る感覚と助けを呼ぼうにも誰もいないことを理解した、足は動かずただ目の前の獣を見つめていた
先にキメラが走り出し澪を襲いかかろうとした時だった、目を瞑り彼女は座り込んでしまうがあの鋭い牙が襲うわけでもなく、キメラの大きな悲鳴が上がり倒れる音がした
「えっ……」
「なんだ迷子か?」
「アーラシュ?」
複数の矢が刺さり死んだであろう獣達の奥からやってきたのは見慣れたはずの男だった
けれどそれは自分が2度目の召喚をした黒と赤の彼ではなく、最初に召喚をした昔と何も変わらないアーラシュカマンガーの姿だった
「大丈夫か、腰抜かして立てないようなら」
「アーラシュ!!」
「おっおい…ったく、こりゃあまいったなぁ」
差し出された手を掴んで立ち上がると同時に澪は思わず彼の胸に飛び込んで背中に腕を回した、何も変わらない匂いも温もりも、敵意もない彼の優しい匂いだけが今は澪を支配した
これが例え自分たちの未来を取り戻すための戦いであれど彼女にとっては今以上に大切なことなどないから。