あぁもう忘れて


この儀式に参加させられるのは何度目か毎度会うハズの人達はみんなまるで別人格で、容赦なく傷つける殺人鬼たちだってそうだ
何度も頭の中に映像が映されては恐怖に晒され悲鳴が漏れる、助けて欲しい私が何をしたというのか何度訴えても何度求めても誰も助けてくれない、発電機を快復させて出口を開けなければ無理なのだ
後ろから聞こえる足音に振り向くことも出来ずに無理くり構わず板を倒す、怯んだその声を聞きながら安堵して走り出す
足はもう限界だと言うのに逃げなければならない、元に戻れたら両親に反抗してごめんねと謝ろう、彼氏ともしっかり話をしよう、バイト先だって休みだろうし謝らなきゃ…沢山考えて足を止めて心音の聞こえない場所で傷の手当をしていく
ビリビリと近くで音が鳴る、口元に手を覆って目を強く瞑った仲間達が発電機を直していく音がする、もう少し…もう少しだからと祈った

「あァココにいたのか」

「ぁ」

まるで猫を掴むように引っ張り出されて肩に担がれる

「いやっいやぁっ助けてぇっ、助けっ!ねぇだれかっ」

嫌に焦げたような電気の匂いも、力強い腕も何もかも全てが怖い、奥に見えたドワイトに手を伸ばすが彼は様子を伺うのみだった
その途端に発電機が全て治った合図が病院内に響く、ここまでくればあとは助けられたあと逃げるだけだと思った
離れていくドクターの背中に必死にフックから逃れようとし抵抗をすればエンティティが現れ死を告げると思った矢先だった先程見ていたドワイトは現れる

「ドワイトっ!助けてっ」

声を張り上げてそういえば彼は見知らぬ顔をして横を通っていった、ふと背後を見れば彼は何も知らぬ顔をして箱の中を漁っては救急箱を見つけたのかそのまま行ってしまった

「ぁっ…うっ」

思わず涙がポロポロと零れた、外の世界も中の世界も全て苦しくて堪らない
外は精神的に、中は肉体的に、なぜ死ぬことが許されないのか…それさえ思えてしまう生存者である者達は出口から逃げる音が次々に聞こえて病院内には虚しい静かさが残る、左肩に刺さったフックが苦しく痛い、グズグズとまるで子供のように泣いていればヒタヒタと足音と小さな電流の音がした
このままエンティティに捧げられるのを見られるのかと諦めながらもう涙で見えずらい視界で自分の前に現れたドクターを見た
開いた眼球も歯茎も何もかもが恐怖の対象で見ているだけでも恐怖に駆られる、目を瞑って安らかに死ねるようにとエンティティが現れるのを待とうとしたがふと身体に触れたのは大きな手だった

「っっい!」

大きな声を上げると同時にフックから下ろされ抱き上げられる、まるで小さな子供や猫を抱くように腕の中に小さく纏められ、思わず見上げればドクターは何も変わらない

「…あの、その…もう、痛いのいや」

キラー相手に思わずそういってフックに刺さっていた肩部分を抑えた、まだ血は止まることなく溢れる、エンティティが怒るはずだと待っていてもエンティティは何一つ反応がしない、このエリアに来てから妙な違和感だった
まるでここだけエンティティが支配していないような、薄汚れたベッドの上に座らされ大きな手が伸びた

「え、あの」

何をしているのか理解ができない、手馴れたように傷の手当をしていくドクターに思わず目を疑う、このままでは回復して出ていくかもしれないということをこの男は考えてないのだろうかと思えた
徐々に治されていく身体を見つめながら目の前にいる殺人鬼を恐る恐る覗いた

「痛かっただろ」

「うん」

まるで子供のように小さく頷いて答えた彼女に気を良くしたのか頭を撫でた彼の手は乾燥しており、やはり痛々しい電気の音が聞こえる

「っ、痛いよ」

「あぁ痛いだろうな、可哀想に」

うわ言のようにそう呟いてはフックに刺さった肩を強く指で押した彼を涙目に見つめて逃れようとするもその指はまるで傷口の中に入るように力を込められる、恐ろしく思え必死に逃げようと狭いベッドの中を暴れる、飴と鞭のようにされるその感覚に狂いそうになる
誰ももういないこの場所は閉じるわけでもなく2人だけの世界のようだった

「可哀想にな、仲間にも捨てられて、哀れだ、可哀想なお前を私が治してやろう」

「痛いからっ、やめてっごめんなさい、ごめっあぁ!!」

死なないが確実に痛みを与える電流に悲鳴をあげて助けて欲しいとドクターの白衣を強く握れば嬉しそうに彼は笑う、口につけた固定具を外した彼は嫌に優しく笑うものだから恐怖に背筋は凍っていく
大きな叫び声を楽しそうに聞いては頭を撫でつつも確実に電流は体に痛みを与えて感覚さえ全て狂ってしまいそうだった
ふと触れた唇と入ってきた舌の感覚さえわからないのにわからない感覚に甘えて腕を伸ばす

「可哀想にな、みんなお前を忘れていく、もう誰もここにも来ないな、可哀想になナナシ」

この優しさだけは嘘ではない気がした、ならばこの世界に溺れてしまってもいいかと思えて目を閉じた
悪い夢から冷めれないのならば甘く感じれるように生きればいいかとどこかで思って
電流の心地だってまるで気持ちのいいものに思えて目を瞑った。

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