平和島静雄
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ここ池袋は非日常が繰り返される
けれどそれはごくごく僅かな人間でただのしがない上京して早3年のチェーンのコーヒー屋でアルバイトをしている女には関係がなかった
「コーヒー」
ふと顔を上げて、疲れきって営業スマイルも出ずに見つめた
バーテンらしい服装に派手だけどその人にはえらく似合う綺麗な金色の髪、チラリとサングラスから覗くキツめの瞳
「…えっと、ホットですか?アイスですか?」
「え?あー、ホットブラックで、あと…ここで甘いヤツってなんだ?」
見た目と裏腹に優しい声でそう声をかけてくれた彼は少しだけ恥ずかしそうだ
「苦いの苦手なら今季節のフラペチーノでストロベリーしてるんです、ホットがよかったら紅茶がありますけど」
「アンタはどっちが好きなんだ?」
真面目な顔をしてそう聞いた彼の瞳としっかりと重なり合うと同時に耳が熱くなる感覚が伝わる
声がかすれそうになりながら必死に答えた彼は、ブラックコーヒーとストロベリーフラペチーノのホイップ追加のチョコソースというカスタマイズをしっかりしていった
「それ!絶対自動喧嘩人形の平和島じゃん!」
「なのかなぁ?」
カフェでお茶をしながら大学の友達がそう叫ぶように言った
この街の噂は多くてよく耳にする、狭いはずなのにそんなものを実際に見かけなくて、仮につい先日やってきたあの金髪の男だとするなら、全くその噂とかけ離れたような表情をしていたな…などと思えた
「気をつけなよ…いきなり暴れ始めてその辺のもの全部ぶん投げて草ひとつ残らないって」
「ゴジラみたいだね」
嫌いじゃない気がした、優しい顔の金色のお兄さん
時計を見れば4時過ぎ、バイトの時間だと思い腰を上げて明日は大学何時からだっけ?なんて思いながら着替えてレジに立つ
今日もまた営業スマイルは消えた
「昨日ありがとう、すげぇ美味かったから持っかいその…飲みに来たんだけどよ、教えてくれた例にこれ」
「…プリンですか」
「嫌いなら悪ぃ」
まるで叱られた犬のような顔をした彼に少しだけときめいて、小さく感謝を述べてレジテーブルの上から受け取る
いくら店員側の方は段があって高いがそれでもこの平和島と呼ばれる男の方が身長が高いのだと感じる
小さく触れた手がゴツゴツとした男性の手だと認識してまた少しだけ耳に熱がこもる
「おすすめは?」
「今日は寒いんで甘めの抹茶ホワイトチョコレートラテなんてどうですか、ホワイトチョコのソースとチョコソースが乗ってて抹茶も苦くないんです」
「じゃあそれ、と忘れるとこだったコーヒー、ブラックで」
平和島静雄、池袋の自動喧嘩人形、ありえない馬鹿力で非常に短気
好きなものは甘いもの?苦手なものは苦いもの、それくらいが知る情報でもそれで十分でバイトの時間のものの5分もないそれが嬉しく楽しかった
「おかえしの110円です」
「なぁ」
「なんですか?」
あれから毎日来てくれる彼に特に長い雑談するほどの仲でもない
普通の客と店員の関係で終わると思った
「…今度俺とデートしてくれねぇか」
「……………罰ゲームだったとかなしでお願いします」
信じられなくて思わずそんな可愛げもなければ、まともという訳でもない返事だった
頭の中はいっぱいで浮かれていた、そんなある日だったバイトの帰り道大きな爆発音のようなものと怒号、それにからかう様な声
「臨也ぁ!!!」
「おおっと、もうこんな時間じゃあね」
「てめぇ殺してやる逃げんじゃねぇ!」
自販機が飛んで道路標識が引っこ抜かれてガードレールは歪んで、車は逆さを向いて人々は怖がって逃げて
黒いジャケットを着た黒髪の男が逃げたことに追いつきもせずそこに座って深いため気をついた彼は、確かに周りのいう喧嘩人形のようで普通の人間とは離れているような気がした
タバコに火をつけてビルのさらに上、星空が小さく見える空を見ていた、走り出して1分ほどでついたバイト先
「ストロベリーホワイトキャラメルモカフラペチーノホイップ追加でチョコソースでストロベリーソース追加」
早口で言ったそれに目を丸くしながらも手馴れたように打つ、自分より後に入ってきた後輩バイト、声をかけてこられても何も返事もできずに貰うと同時に走り出し
まだタバコを吸う金色の彼を見て一度足を止めてから深呼吸をした
「こんばんは」
「…おう」
「いちご好きですか」
そう言って差し出せばまるでまた子供のような顔をして嬉しそうに受け取った
隣に座り込んで一緒に頼んだ普通のカフェオレ(にカスタマイズでミルクとキャラメル追加)を口にする
微かに香るタバコの匂いにちらりと横をみた
「タバコ吸うんですね」
「嫌だったか?」
「いや、なんか意外だなって甘いの好きだから」
「なんでだろうな…こんな馬鹿力あるからそれ抑えてぇのかな」
特別うまい訳では無いという彼の手に軽く触ればやはり暖かく、ゴツゴツとして関節が太く肉感が好かなかった
「見てたんだろ…俺はあんなやつなんだ」
怖がるような言い方だった、きっと今までだって周りの人間は彼から逃げたのだと察した
興味本位、からかい混じり、きっと彼の周りにまともにいてくれた人間はたったの一握りなのだと思えた
サングラスから小さく見える瞳は路頭に迷った子供みたいに悲しい瞳で、触れていた手を上に持っていき金色のそれを撫でた
しっかりとケアされているからか案外手から落ちていく金色の髪は夜を照らすようにきれいだった
「それでも、平和島さんは平和島さんだし…悪いようにその力を使う人じゃないの、私分かってますから」
じゃなきゃ、プリンなんてくれないし
おすすめのドリンクを聞いても来ないだろし
何よりもその場で一口飲んで嬉しそうに笑ったり苦そうな顔をしたりいろんな表情を見せて感想をくれないだろう
「平和島さんは、平和島さんでいいんじゃないですか?周りがいうほど、あなたが思うほど大したことないんじゃないですかね…私にはわからないけど」
ぼそぼそと呟いてそういった、黙ってしまられてはお互いに困るだけで
恥ずかしいことをいった……等と小さく思いつつもあとに引き返せずに髪を撫でる手を止めることも出来ずにいれば、その手首を掴まれる
優しい温もりが伝わってくる、心と同じ温もりと優しさに口を開く前に彼の綺麗な唇が語った
「やっぱお前良い奴なんだなナマエ」
「…名前しってたんだ」
「名札見てたから」
見当違いの答えを出してしまいながら、あぁこの人相手だしいいや…などとおもえた
指がゆっくりとその大きな手のひらに包まれて指が絡められるのを見て、熱がこもるのが分かる、耳から溶けだしそうな熱さに音が聞こえなくなるのじゃないかと不安になる
「おすすめじゃないのは知ってる、けど俺はナマエが気になってんだよ」
「なんか、強引ですね」
「まどろっこしいの苦手でな」
「私も平和島さんが気になります」
そういえば彼は子供みたいに笑った、そうあなたのサングラスの下の素顔なんて本当に子供のようだから
可愛くて可愛くてたまらないのだと言えばきっと貴方は否定するのだろう
けれど、夜空の下で輝く金色の髪もその眩しい太陽のような優しい笑顔も全て気になってしまって仕方ないのだから仕方ない
絡み合った指を見つめながら熱くなる耳のことなんて忘れたくても忘れられずにそう小さく呟いた。
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