ルシフェル
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懸命に神に祈る人間はどの時代にもいる、信仰が深く神への愛に満ちているそれは力となる
ステンドグラスが光り輝き教会の中を美しく魅せる、一人の女はそこに片膝を着きながら祈りを捧げていた、女は天使の成れの果てであった
その天使は神を何より愛し、神のために生き、神のために朽ち果てた、次に作られる時には天使でなく、人として生まれ女という性別を捧げられた
「アーメン」
一日の最後の礼拝を終えた女は重たい音を立てて立ち上がった、金属の音に重たい武器
騎士として女でありながら力をつけたことを知り興味が湧いただけだ
「…誰ですか」
月が真上にある時間、普通のものならば現れることのないそこに人がいるのだから警戒心を強めた女
教会の入口からは一人の男がやって来た、見た目からして変わっていた彼女のいる現代では見かけることのない一風変わったその服をまじまじと見て、男の首から上を見つめて感じたのは目で見るにはあまりにも美しい構造のされた顔のパーツ、雪のような白い肌に、まるで血の色のような紅い瞳
「あぁ、驚かせたかな」
「いえ、このような時間にはあまり人は入ってこれないので」
「…ん?あぁ確かそうだったな、邪魔をする気はなかったんだ」
親しみのあるような話し方で男は笑った
その表情一つ一つさえも美しく見入ってしまいそうになる、手には棒状の変わった武器にも思えぬ透明な何かで張られたもの、あまりにもおかしなその男であるのに警戒心は何故か薄れた
「にしてもまぁ、神もよくここまで同じに作り上げたものだ」
「神?貴方も信仰者なのですか」
「私が?あぁまぁそうかもしれないが、天使と言えばいいか?」
そういった男に彼女は目を丸くした、黒い髪に白い肌、赤い瞳に人を惑わせそうなほどに美しい顔立ち
「…天使、様?なのですか」
「信じるのか、君は案外簡単な人間なのかもしれないな」
「いえ、貴方様のお言葉は信憑性がありましたので」
話す言葉遣い、その妙に何かが引っかかる様な危険な言葉達、天使といわば人間が思うのはブロンドの神に白い羽を持ち神のそばに存在するものだとばかりだった、だからこそ普通の人間ならばこの目の前の男を天使などとは認識などしない
逆に冗談をいう奇妙な男で終わるところだが、この女は違った、その場に片膝をつけて頭を垂れた
「私はナマエと申します、天使様自らがお見えするなど」
「そんな堅苦しいのはやめてくれ、私はフレンドリーに生きているんだどの時代でも」
「えぇ、分かりましたでは無礼をお許しを天使様、貴方様の名前は」
「ルシフェル、気軽にそう呼んでくれたまえ」
その言葉に表情を固めた彼女に何が言いたいか瞬時に察しさ、ルシフェルはこの人間界の話では堕天した天使達の筆頭悪魔であり、神である者達の敵対者であるのだから
空気を変えた女に男は両手をあげて降伏を告げるように笑う
「生憎私は天使でね、君の思う存在ではない」
「あ、そっそれは無礼なことをお許しくださいませ」
「それにしても、変わらないな」
ゆっくりと足を歩ませてその美しい金の髪に触れる、抵抗することもなく黙って受け入れる彼女に男は素直な人間は、他のものに食われないかと内心思った
瞳も、唇も、鼻も、体のパーツ一つ一つ全て神は魂を込めたのか、美しく、そして何よりも力を感じた
天使としての力でなく人としての生命力であるのか、されど数十年の命は人でない男から見れば一瞬の出来事、1分1秒程度の時間は瞬間である
巻き戻しても結末は変わらない変えれない、だからこそあの天使は神の手の中で朽ち果てたのだから
「私は天界の誰かに似ているのですか?」
「あぁお前は私がたった一つ大切にしていたからな」
「ルシフェル様は『愛』を知るのですね」
「愛?あぁ、愛か…愛、まぁ人間らしく言うならそうなのかもしれないな」
何がおかしいのか笑った彼に彼女は目を丸くした
まるでカラスのように危険な瞳だった、獲物を狙うかのように輝く緋色の瞳
真っ黒な美しい髪色、指先が触れる度に溶けていきそうな程
騎士であるゆえ女とは自身を感じず、目の前の天使の前では何を身につけても無に感じて、魂の中身までをさらけだすような気持ちだった
「死を感じた時に、愛を知った」
「…その者を大切にしていたのでしょう」
「まるで君は聖女だ」
「私はただ剣を振るう事しか出来ない愚かな騎士です、女を捨て家族を捨て全てを捨て神を取った愚か者だと…人々は笑うのです」
重たい甲冑を身につけながら走る彼女を皆が笑うのだろう、神の声だということを皆笑い、そして最後に朽ちた時彼女を慈しむのだ
あぁ可哀想に、彼女は神の使いだったのだと、火をくべて燃やしながら苦しみ泣きながら神に祈り続ける娘を焼き殺すのだ
人々はいつもそうだ、自分たちの範疇に置けないモノを全て消してしまう、そしてすぐに後悔してしまう、ならばしなければ良いのにと全てを見通す天使は呆れた
それでも娘はそれが彼らの願いならばと受け入れて恐怖など無かったのだと信じて、心を押し殺しそして砂の人形になる
「それでも構わないのです、私が守れるのならばこの剣をこの腕で振るいましょう」
「…そこまでなぜ人に思う?神は人を望まないかもしれないだろ」
「天使様私は、独り善がりなのかも知れません、時折夢を見ます私は砂のように消えていく中、たった一羽のカラスが見つめていたのです…悲しそうに、何かを伝えたいのに、私はそれもわからず砂になるのです」
その言葉に男は小さく顔を顰めた、分かっているからだそのカラスのことも砂になった彼女も、すべて見てきた
何度時間を戻しても砂は元には戻らず時計の針は進んでいき、時間は終わりを告げてしまう、全てを落とし砂が溢れ砂時計のガラスが壊れても、決して元には戻らないのにカラスはそれをつついてしまう、砂を反対に向ければ戻ると思ったから
「私ならば神よりも愛することだろう」
「…天使様の慈悲を頂けるのならば我が心臓を捧げてきた事への十分なものです」
男は女の手を繋いだ、ボロボロになったその手は何度地面の土を掴み嘆いたのだと思えた
なのに彼女はまだ笑う、神は天使に言っていた
《あまりに上手く作りすぎたものだ》
その声はまるで人間が子に向けるような声で悲しみにもよく似た嬉しさを出した
金色の騎士は笑いながら跪いた、黒い天使の前で何も無かったようにいう
「我が身はあなたと神のために」
きっと彼女の願う事など一度も起きることはないのに、それを分かりながら人間をカラスは狂わせていく
まるで蛇のように偽りを隠すような瞳で笑いながらその果実にそそのかせていく、2度と戻れないようにと。
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