門田京平
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オイルの臭いに時折なる鉄の音にバイクのエンジン音、長い髪をそのままに汚れることもお構い無しに大音量の音楽を鳴らす倉庫に足を踏み入れた
「言われてたの買ってきたぞ」
できるだけ大きな声で言ったつもりも音によりかき消されて、相変わらずだと小さくため息を吐いた
仕方なしに音楽を止めれば、ようやく人が来たことに気づいたのかバイクから目を離した
「言ってたの買ってきたぞ」
「あれ、京平だ」
「お前が急にジュース買ってこいつったんだろ」
「そうそう、なかなか終わんなくてねぇ本当に扱いがなってないわ」
顔についたスミも泥だけの作業着も女のくせに何1つ気にせずに、逆にそれを誇らしく思うほどには彼女はこの仕事を好いている
所謂暴走族のようなバイカー集団のリーダーを張っていた頃からの車やバイク好きは抜けないもので、結局仕事になったが毎日文句を言うばかりだ
仕事の不満ではなく、バイクを持ってくる持ち主たちに対してだが
「今日はいつものメンバーいないんだ」
「あぁ、遊馬崎と狩沢はイベント?だ、渡草も今日はいつものあれだ」
「で、自分は暇だったからわざわざ来たと」
暇な男ねぇ、なんて小さく笑いながらも手を拭いてジュースを受け取った彼女に恋心を抱いてから早数年
学生時代に告白というものをしてから彼女の返事は未だ無く、それでも一途に思いながら彼女のためならいいかと深いことは特に考えなかった
「お前だけだ」
「知ってる、じゃなきゃ殴ってるから」
身体を伸ばしながら手馴れた様子でタバコに火をつける
オイルを使ってたんじゃないのかといいかけるが、そう言っても無駄なのだと思い出して近くの椅子に腰掛ける
昔と違い明るいミルクティほどに染められた髪の色も胸まである巻かれた髪の毛も、相変わらず容姿端麗なその姿に息を呑む
「こないだね、お客さんに結婚前提でどうって真剣に言われてさ」
思い出したかのような口調で話し始めるが、内心は苛立ちが起きていた
それでも何も気にせずに話を続けて、相手の客がどんな相手でどんな仕事かどんな性格かと話していた
「食事に行こうかなぁっておもって」
「やめてた方がいい」
彼女がそう言い切る前に遮って言った言葉はいっぱいいっぱいな気持ち、心拍が上がっていた
今目の前にその男がいたら殺しそうな程に感情は高ぶって、それ程までにこの女が好きなんだと思っても手にはできない
「ねぇ、どうして?」
心底嬉しそうに楽しそうにそう聞いた、性格が悪くてその部分がとてつもなく好きで
足を進めて近づく、座っているからか上目遣いになる彼女の表情にときめきを奪われ
「お前のその趣味についてける男なんて誰もいねぇよ、話も聞くやつなんてなればおれしかいねぇ…だから楽しくない食事なんかに行くな、どうせお前は高い飯より安いハンバーガー屋のが好きだろ」
誰よりも知っているのだと声高らかに言ってやりたくてたまらずにいる
好きな話も好きな食事も、話を興味無しに聞くヤツらよりも自分ならばどこまでもお前の話を聞いてやると、そういう
唇を塞いで何度も角度を変えながら交わり合う舌、閉じた瞼から伸びる長いまつ毛が綺麗なことも知らないのだと言ってやりたい
「それにお前を満足させれるのは俺だけなんじゃないか」
そこだけ小さく自身もなさげにそういった門田に小さく笑いながら女は頬を少しだけ赤くしていた
「あー、うん…多分ね」
恥ずかしそうに、けれど決して彼の告白にはyesとは答えないで
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