丑島馨
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近頃体の様子がおかしいと感じた。
吐き気は多く、立つことも困難、生理は途端に来なくなり、人と会うことも減った気がした
何が原因かわからずに恋人であるはずのパートナーに相談は出来なかった。
そして引っかかる事は二つの文字"子供"
そう考えた途端に冷や汗が背中を濡らした
金融屋と半分ヤクザの入っているギャンブラー
互いに闇を生きて、そして平凡な幸せは決して手に取ることは出来ない
「……どうしたらいいんだろ」
全く気づくこともなかった、ただ恐ろしさだけが支配した、あの男が心から喜んでくれる気がしなかった
それ以上に彼の足を引っ張る気がして恐ろしく、認知など要らない、ただ互いにまだ20代で早い気もした
成長していく彼の金融屋としてのスキルは勿論高い、そこにもし子供が入り家庭が作られては彼の時間はゆっくり壊れる。
トイレの中できっちりと陽性反応を出している検査薬は嘘をついているように見えなかった
一気に世界は黒く滲んだ気がして吐き気が彼女を襲った
「最近様子変じゃねぇか…」
「そう?」
「隠し事あんなら言え」
それは彼の優しさで言われているのをわかっているからこそダメな気がした
隠すにしても丸く大きくなっていくお腹は隠し通すことも難しい、まだ小さいからきっと丑嶋も気づいてはいない
「妊娠したらしいんだ」
「誰が?」
「私、……ウーちゃんとの…子供みたい」
匂いさえダメでわざわざ普段いることも無い自分の家に招いた幼馴染みの戌亥は目を丸くした
それもそうだ、柄崎も加納も戌亥もみんな幼馴染みであり、ずっと丑嶋とナマエを見守り祝福してくれていたのだから
なのにナマエの顔は真っ暗で、今にも死んでしまいそうだった
「産みたくないの?」
「産みたい…けどね、ウーちゃんの邪魔になりたくない」
「ならどうする気なんだよ」
「わかんない…どうしたらいいんだろって、ザッキーやカノちんに言ったらきっとウーちゃんにはすぐバレる」
ソファーに座ってるナマエをみて戌亥は困惑した、何があっても彼女はいつも新しいプランを考える、冷静な頭をしていて回転だって早い
なのにそれが出来ずに子供のように答えを求め続けるのはそれだけ恋人である彼を愛しているからだろう
戌亥もそれを理解しているが男の気持ちとしてみればもちろん丑嶋と相談するべきだが、ナマエの気持ちを考慮すれば少し間を開けるべきなのかもしれない
「産めない体ならウーちゃんのこと困らせないのにねぇ」
そういった彼女の顔はいままでの中で一番悲しい顔をしているように見えた
女としての自分が恋人としての自分か、大事なのは後者で邪魔になるくらいならいっそ自分事殺しかねない
少しだけ距離を開けたいから、身を隠させる場所が欲しい
そしてそこで子供を産んでゆっくり消えていきたいと、彼女は戌亥にいった
「戌亥、ナマエのこと知らねぇか」
「どうして?」
「1ヶ月以上連絡が取れねぇンだわ」
「…丑嶋くん、少しだけ今日時間ある?」
電話越しの戌亥の声にあァ何かあったのかと理解して、二つ返事に電話を切った
ある日から電話が繋がらなくなった、そしてカウカウに顔を出すことも毎日帰ってくる丑嶋の家にも連絡はなかった。
浮気か、はたまた愛想が尽きたか、と予想したが何一つ当てはまる事は無かった
気分転換の旅行をしているにしても長すぎるそれは心配という感情が出てきて当たり前のことだった
戌亥に任せればナマエが何処にいるかわかるのかと思ったがあの様子では共犯者のようだった
責め立てるつもりはもちろん無い、自分の女だとしても自由に生きてくれればそれでよかったからだ
こんな男の隣で笑って隣に立つなら例え裏稼業だとしてもどうでもいい
特にナマエという女だけはそういった感情が強かったからだ
「ナマエやっぱ今日もいねぇみたいっすね」
「悪ぃな柄崎…戌亥ンとこ今日行ってくるわ」
「わかりました」
仕事を定時退社して、戌亥の元に車を走らせる
あの様子では戌亥がナマエについて何かを知ってるのは聞いてわかることであり、正直今回の件は全員が困惑しているほどだった
「ナマエちゃん少し悩みがあるみたいでさ」
「仕事関係か?」
「まぁ、ある意味あってるけど丑嶋くんも関係あるからさ…けど暫くはほっといて欲しいって落ち着く時間上げたけど無理みたいだから…やっぱそういうのは彼氏の特権だろ?」
そう言って渡された鍵は現在ナマエが隠れ住んでいる場所で、丑嶋の家から遠くない場所であった
夜中に突然の訪問で寝ているかと思って扉を開ければ明かりがついているのは洗面所だった
酷い嘔吐音が聞こえて早足で向かえば苦しそうなナマエがいた
「ナマエ」
「っ、なんでここいるの」
「……その腹」
変な膨らみを見せる腹部はどう見ても普通の太り方と違い、ナマエをみた
「私と、別れて欲しい…けどそんなのいう勇気ないから離れたのにさぁ…なんで、なんで来ちゃったの?」
グズグズと鼻を鳴らして泣き始めるナマエにとって不安で胸が張り裂けそうなのだろう
当たり前のことといえばそうだろう、初めての妊娠である上にただの恋人である彼との子を宿したことが恐怖心になったのだから
洗面所から連れ出して寝室のベッドに座らせた、椅子を持ってきて顔を合わせるように座っても目を見ようともしなかった
「なンで別れてぇの」
「子供、出来たから」
「そんで?」
「嫌われるし邪魔になるって…」
「俺はそれいったか?」
いつも以上に迫力のあるその瞳に圧的があり、何も言えなくなるが目をそらさせないようにと丑嶋は見つめ続けた
ナマエの手を握ってやり丑嶋はそっと額にキスをしてやる
「ガキならよ、愛する…ナマエとの奴ならな」
「でもさ、仕事とかできっと邪魔になる」
「嫁とガキ守れねぇ亭主に見えるか?」
「…みえない」
いつも以上に優しくいつも以上に口数の多い丑嶋が口元を緩めた
客に見せるサービス的な笑顔でなく幼い頃と変わらない優しい顔だった、そっと腹部をなでて丑嶋はいう
「明日役所行くか…式はしてぇなら手配してやるだから、俺の隣にいろ」
「うん、いる…いたい」
泣きそうな顔でそういってギュッと膝の上で繋がれた手に力を込めて笑った。
「男の子、だって」
「…安心だ」
「なんで?」
「お前のこと守れる存在が増えたってことだ」
「…嫉妬しないでね。」
「さぁな」
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