桐島ヒロミ
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初めて見たその雫が美しく
この世のものでないように見えた
まるで砂糖菓子のように繊細に美しくそして可憐に出来たものに見えた
屋上で1人で涙を流していた鴉に似合わない白い花
「っ見てたんだな、ヒロミ」
その女になんの感情も抱いたことは無かったはずだった
けれど心はいとも簡単にその涙を流すその女を印象つけた、涙の理由を知っていた
屋上から降りてきていたあの金髪のあの男が気まずそうな顔をしていたのをみたから
距離の近い男女の結末は分かっている、どちらかが感情にやられてしまうということ。
「何かあったか?」
「なんでもねぇんだ」
優しいふりをして汚い唾液と尖った牙を隠した
まだ零れる涙を指で拭って頭を撫でた、短くも柔らかく男と違う髪が手に触れた、一度見たその可憐な花を摘み取りたくなった。
まるで赤ずきんを狙う狼のような気持ちになった
「俺はお前の味方だからよ」
「なんでも言えばいい当たり前だ"友達"だからな」
「ヒロミ…うん、ありがとう」
単純な言葉に笑ったこの愚かな女を今すぐ剥いて噛み付いて犯してやりたいほど魅力的だった
未亡人の女を好きになる男や、今目の前にいるように失恋した女に惚れやすい男の理由がわかった気がする。
不幸な女ほど美しく見えてしまう、その美的感覚は少し歪みを持っていると自覚したとしても構わない
二度と戻れないようにその花を手折り、そして花弁を1枚ずつ落として最後の一枚になった時、その時本当の花の、女の、姿が見れると思えた
「春道は私を友達として愛してるって…わかってたんだ、けど欲しかった」
獅子を縛るには気絶させて無理にでもいうことを聞かせるか、幼子から調教するかだろう
其のどちらも彼女は出来ず、獅子は逃げ出してしまった、追うことも出来ずに一人立ちすくみ
そして悪い人間に獅子のように扱われ始めるのだ
自分がここまで最低だと思ったのは初めてだがその反面、心地よかった
優等生のようなその気持ちを潰して白を黒く塗りつぶせることを考えれば、まるでそれは絶頂に向かう気分だろうか
その気持ちよさだけを求めて周りが見えなくなる、そして最後にはそいつに喰らわれるかも知れない
「アイツは恐れてるだけだ、お前との関係壊したくなくて」
「…ならもう意味なくなっちまったな、悪いことしちゃった」
「気にすんなアイツはそういう男だ気にもしてねぇよ」
「…ヒロミは毎日こんな話聞いてくれるんだな」
エサはよく肥えていく、うまそうな匂いを美味そうな見た目に
牙が放っておけば出して彼女の喉元を喰らいそうだ、落ち着きなく指はリズムを刻んだ
時計の針が大きく聞こえてきて、そしていう
「ヒロミは、私のこと食うんだろ」
首元には鎖が繋がれていた。
冷静な男だと言われていたはずが薄らと額が汗ばんだ
白い花は形を変えて蝶になり、手折ろうとした花盗人から逃げてしまっていたのを気づきもしなかった
頭巾をかぶった猟師だとも気付かず嘲笑った罰なのか、彼女は微笑んだ
まるで牙を見せた狼のように
「匂いでわかる、だから、私がヒロミを食うんだ」
細く白い指が首元に触れた、薄紅を引いたような血色のいい唇が肌に触れた、そこに舌が這わされる
あぁ食される気持ちになる、心地よく下腹部の熱は大きくなり、期待したように狼は獅子をみた
「全部私の台本通りなんだよ」
赤い印は食われたかのように残る、微笑んだ彼女の顔を見つめて口元は緩む
「上手くやられたな…」
そういえば彼女は笑った、牙を出した獣のように。
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