九能龍信






普段無口な男の愛の言葉ほど弱いものなんてないと思う
彼女の恋人、九能龍信はまだ未成年、タバコもお酒もする、好きなものはバイク、少しひねくれた素直じゃないお兄さんを持っている
そんな彼は武装戦線の4代目でありそれも頭である、そんな恋人を持つ普通の女子高生ならば自慢をしたりカッコイイと惚気続けるかもしれない

残念ながら、翔という女にはそれこそストーカー並みの女の子たちはついてきてくれても、冗談を言って小突けるような友人はいない
それこそその役目は男で、それも九能龍信が認めた男、残念なことに日頃女のケツばかりを追う坊屋春道だ。
今回の話にその男は関係ないが、何あともかく今の現状に悩む一方


「翔、本当にお前はいい女だ、よくできた恋人だ、秀臣達だって実際そう思ってる、綺麗だし可愛い、スタイルも最高だし初心なお前が好きだ」


一つ言おう、現在これは彼女を褒める選手権のようなものではない
彼のサングラスを取ればわかる、じとりとした瞳に赤くなった顔に熱い体
今日は武装戦線のメンバーで飲み会だ、とこの間話をしていたのは知っている、だが武装戦線のメンバーと仲はいいが飲み会に行く気はなかった
恋人の羽を伸ばせる唯一の場所に行くものなんかじゃないからだ

23時前、風呂上がりに少し高めのアイスクリームを帰ってくる時にスーパーで安売りしていて買ったものを食べていた時だった、突然家の中の黒電話は盛大な音を立てる
こんな非常識な時間に誰だ!っと思いもするが我が家ではよくあることであり、早く出ないとそれさえ煩くて怒られてしまう
そう思っていれば8人兄弟の6番目の兄が電話をとった


「おい、翔、十三からだぞ」


これまた意外な名前が出されて食べていたアイスクリームをテーブルに置いたまま電話に出る
村田十三は龍信の良き理解者である意味武装の保護者のような存在、1つ年上の彼は大変力になる男で、弟がいるからか仲間達の扱いもよく慣れている
そんな彼が武装のメンバーで飲んでるはずなのに何故だろう?などと思い電話にでる


「龍ちゃんがちょっとやばいことなってて、悪いが翔迎えに来てくれねぇか?俺は鮫やゲン達連れて帰るから、頼めないか?」

「大丈夫???すぐ行くけど場所って?」

「あぁ飲み屋街の〇〇って居酒屋だ、わりぃな」

「わかった、そこまでなら15分くらいでつくと思う」


わかった、じゃあ、と言い合って電話を切った
少し肌寒いと思いながら掛けてあったカーディガンを取って腕を通した


「出掛けんのか?」

「ちょっと龍信迎えに行ってくるわ、先寝てていいから親父にも言っといて」

「おうよ、変なのに声かけられたら鳩尾ねらえよ」


なんて元気に手を振ってくれる次男に苦笑いする、20歳も離れている兄からみればまだまだ末っ子のただ1人の女の子なんて子供同然なのだろう
だが龍信と聞けば一緒に行くと言わず気をつけてと言ってくれるあたりはもう少しは大人に見始めてくれることを改めて実感する

小さなコインケースに折りたたんだ1000円のみ、これではタクシーを拾っても自分の家までしかないか。っとため息をついて居酒屋についた
中に入ればすぐに待っていた十三に部屋番号を言われて彼は肩を貸している鮫島とゲンの二人を連れて先に行ってしまった

そして部屋に入った途端最初の彼の言葉に戻る。


「翔、最初出会った頃からずっと綺麗だと思ってた」

「龍信わかったから、この手放してくれ」


強く握ってくる彼の言葉は正直とてつもなく嬉しくて恥ずかしくて仕方ない
交際する際しか素面で言われなかった言葉だ、実際翔は愛を囁くのが得意じゃなく恋だって普通の子よりも奥手すぎる、龍信は見た目通り愛を囁くよりも行動のほうがまだ出やすいほうでこのような場合でない限り冗談でも言わない
だからこそ##にとっては今の彼は恥ずかしく、そして少しだけずるく思えた、彼は酔っていて今そう言えるのに自分は言えないのか。と


「離したら行っちまうだろうが」


いつもしているサングラスを外しているため彼の目が良く見える、目は口ほどに物を言うなんてその通りだろう
少しだけ寂しそうな彼を見て言いにくくなる、ここでキス一つできる女ならどれだけ楽なのだろうか、どれだけ男を魅了させれることか、けれど手を繋ぐことすら困難だった彼女にはハードすぎるだけだ


「翔、愛してる、お前が卒業してから結婚したい、お前の全てが欲しい好きだ」


酒とタバコとスッキリした香水の匂い
酒を飲むと彼はお喋りになる、なんて誰か言っていた気がする、彼らの前で何を話したのか恥ずかしくて聞けもしなくなる
同い年なのに年上に見える彼が頬を何度も指で撫でる、心地よさそうに
その度に普段あまり見ない幸せそうな彼の顔がみれる、目を細めて頬を緩めて愛を囁く
絶対に素面じゃ見れない、それは互いに気持ちが沢山ありすぎるから



「あっ、あの、龍信…わっ、私も龍信のこと、あっ……ぁ、愛してる」


きっと明日には彼は忘れてるから、そう思って顔中に熱が溜まるのを感じてながら、彼の両手をしっかり握った
今だけなら互いに素面じゃなくて酔ったふりをできる気がしたから、居酒屋の個室の中でこんなに言い合うカップルは周りから見ればバカに見えるかもしれない



「翔」


低い彼の声が聞こえて真っ赤な顔で必死になってみれば唇は塞がれる
滅多にそれさえしないから頭の中は理解を追いつかないとでもいうように様々な考えがよぎる、走馬灯みたいだな。なんて思いそうにもなるがすぐに離れて見つめ合わされる
これじゃあ酔いはすぐに覚めてしまいそうだ


「俺についてきてくれてありがとう」


いつだってそれだけは忘れず言ってくれる彼に泣きそうになる、頬を緩めて笑って彼のふらふらの体を半分抱えてタクシーを呼ぶ
明日の朝には互いの顔を見れることに小さく喜びながらそっと隣でもう眠る彼の顔を見て小さく微笑むのだった








次の日の朝目覚めた時、九能龍信は覚えていた
愛を囁いたこと、キスをしたこと、沢山彼女に普段言えないことを言ったのを
狭いシングルのベットの中で眠っていて、目を覚ましたら外はまだ暗かった

「……愛してる」

そう眠る彼女に普段言えないことを今度は素面で額にキスをしながらいう
まだ早いと思い彼女の背中に力を込めて抱きしめて眠りにつく
腕の中の彼女が小さく笑ってるように見えていい夢が見れそうだな。なんて密かに思い瞳を閉じるのだった






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