菅田和志
▼▲▼
武装戦線のことはできた当初から知っていた、5つ上の兄は今ではアメフト選手として活躍しているが、初代の武装戦線頭である鈴木恵三含め全員から強い勧誘をされていたのに全てを断った
その分、何かあった時にはすぐに動いて手を貸してやるようなそんな影の男になった
だから昔から武装戦線はよく知っていて、4代目の九能龍信という男とは中学生時代からの良きライバルでもあった
「龍信、今日飯食ってくよな!」
「いや、今日は兄貴が」
「兄貴って秀臣さんと一聖さんだよな!私も会いてぇ」
「…いや、その」
最近出来たボクシングジムには幼い子から大人まで誰でも最初は来たが、半年も経てばもう大体の人間は減ってしまう
その中でも毎日楽しく行くのが龍信と翔だった、男女の差というものを気にもせず毎日必死にコーチから教えてもらう
龍信も##を親友として大好きで、家に食べに行ったりしていたが、どうも自分の兄は紹介したくはなかった
##の家庭は大家族で笑顔で満ち溢れているが、龍信は違う、毎日朝も昼も夜も仕事の母親に一度も顔も見たことも聞いたこともない父親、兄はろくでなしなのをよく分かっていた
「ん、よぉ龍信!なにしてんだ!」
「和志…いや、帰りだ」
「そっちは?」
「はい!水上翔です!龍信と同じボクシングジム行ってるんです!」
「元気いいなぁ」
そういって原付から降りた和志と呼ばれた男は翔の前に立って頭を撫でた
「俺は九能兄弟の幼馴染してる菅田和志ってんだ、よろしくな」
「はい!!!」
それが偉大な二代目頭となる彼との出会いだった
結局あの日龍信は翔に兄の紹介はしなかった、したくなかったのだ、自分が言われるのは黙って聞けたとしても大事な仲間を言われると兄だろうと手を出すかもしれないと思ったからだ
それに彼女に嫌な気持ちになってほしくなかった、けれどそう簡単には行かずに結局は武装戦線という存在に翔は関わってしまった
「和志さん、今日も後ろ乗っていいですか」
「おっ、メット買ったのか」
「はい、どうですか!カッコイイですか?」
「似合ってるけど、無くすなよ」
翔は言わばみんなの妹のような扱いをされていた、武装の連中の家族はみんなの家族である
元より初代武装の面々は元から##を知っていて余計によくしていた。
見習いとはいえ兄が武装にいると思うと龍信は気が気じゃなかったが、彼女は優しい兄のように接してくれる和志をいたく気に入ってしまっていたのだ
「なんだよ、尻尾振ってる犬みてぇだな」
「秀臣いたのかよ」
「キャンキャンそこのメス犬が騒ぐから気づかねぇんだろが」
そう言って現れた秀臣とは、龍信が心配する前に残念ながら知り合いで
翔は優しい龍信や和志とは打って変わって自分に酷い当たり方をしてくる彼と双子の兄である一聖が苦手だった、一聖はまだ優しいが秀臣はまるで親の敵でも見るような目を時折した
それが心苦しく仕方ないのだった
「すっ、すいません」
「謝るくらいならくんじゃねぇよ」
「おい!秀臣!」
「あぁ?ンだよそんな良くもねぇガキがいいのかよ」
「和志さん、いいですから…その、今度また乗せてください、すみません」
和志にとって秀臣たちは大切な親友であり幼馴染でどんなクソ野郎だとしても切っても切れない縁が心の底にあった
そして##に対しては大切にしたい気持ちが大きい、だからこそ秀臣の言葉は許されないが、結局はそれ以上に##が辛くなって逃げてしまうのだ
「翔、帰りか」
「りゅーしん、学校帰り?遅かったんだ」
「センコーにタバコが見つかって掃除させられてた」
「へへっそうなんだ」
龍信はそんな翔が妹のように大事で仕方なかった、血の繋がりが本当にあるのかわかりもしないような兄達よりも
心の底から笑いあって泣きあえるような翔が大事だった、なのに彼女は自分の兄の幼馴染と兄に毎日涙を流す
「俺は、お前の味方だ」
「龍信ありがとう、やっぱお前が親友でよかった」
「俺もお前が親友でよかった」
お互いに笑いあって帰宅していればあの日のようにパイクがやってきた、あの時の原付とは違うもの
見知った顔に繋いでいた手を離してみれば目を丸くして見上げた
「帰りか?」
「え?あっ、うっす」
「龍信…借りていいか」
「おう、あんま泣かせんでください」
最後の言葉は聞こえないように男の会話にした、翔の声を無視して歩き出す
きっと気づいてないだけで彼女の本心は知っている、あの菅田和志と言う男に惚れてることくらい
だから心底応援していたいのだ、大事なたった1人の親友だから
「メット被れよ」
「あの、和志さんこれでかい」
そういって大きなヘルメットに苦戦する##
前に乗っていた和志は振り返って少しだけベルトをきつくしてやる
この男がどうしてこんな少女に構うかなんて一つだった、だから秀臣は気に食わなかったのかもしれない、人の感情には敏感な男だったから
腕を腰に回して走り出したバイクの行き先も聞かなかった、このまま家に帰る気があまりしなかった
門限を過ぎて怒られるかもしれない…なんて思いつつも今更降りるなんて言いたくなかった
「和志さん…」
「なんだ!!」
風に混じった声は聞こえるか聞こえないかだった
「好きです」
聞こえないようにと思って小さくヘルメットの中で呟いた
バイクはいつの間にか高速に乗っていて本当にどこに向かってるのか、なんて思っていれば知らない夕焼けがもう消えかかる丘の公園に着いた
「俺も、好きなんだ」
ヘルメットを外した途端にバイクに降りて振り向いた途端にそう彼は優しく笑った
消えかかる赤色の夕焼けは彼の金色の髪の毛を余計に光輝かせた
夢なんじゃないのかと思うほど彼は優しく穏やかであった
「…夢、みてるんですかね」
なんて言った途端に視界は肌色と黒色の見慣れたシャツがアップに映されて
背中に回された腕がハッキリと感覚一つ一つ意識して、耳元に息が吹きかけられて言われる
「これが夢なら、俺は朝には死んでるな」
なんて言うものだから顔を上げて見上げれば彼の顔は耳まで赤く染まっていた
同じように思わず熱が顔中に集まったから恐ろしくて見ていられなくなった
「お前がいいんだ、好きだ」
そんな言葉は幼い彼女にはいっぱいで、顔を上げることさえできなくなる
このまま夕焼けと同じように二人して消えれれぱ幸せなのに。なんてそうロマンスに溢れた脳は囁きかけるのだった
▲▼▲
- 17 -