片桐拳









片桐拳が消えてから一週間ほどしてからだった、翔の心はポッカリと穴が空いた
2人の友人としている源治にとってそれは酷いものに見えた。
彼女の家に行っても家に帰ってないという上に逆にどこに行ったんだと普段冷静なはずな彼女の父親が取り乱すほど。
そんな翔を見つけたのは数日後、聞き回ってヤクザから教えられたボロアパートで、鍵はかかっていなかった、いつも通りの見た目の翔でいると思った


「翔っ!!!」

数日間家出をした彼女はあの片桐拳が行ってしまってから食事も何もとっていなかったらしく衰弱してしまっていた
体はスポーツマンであったのにボロボロに細くなってしまっていた
部屋の真ん中で片桐が渡したであろう指輪を固く握りしめていた翔は倒れており、救急車を急いで呼んだ
1日後、彼女は目を覚ましたのは病院の個室であった、父親や5人の兄達が心配をして声をかけても彼女は「大丈夫、平気」その二言だけだった、源治は彼女の見舞いに適当なフルーツを持ってきてやった
白い患者服を着ていた翔の顔は窶れていた


「拳さんが、ね、電話くれたんだ」

翔がポツリと話し始めた

「"お前にはもっといい男ができる、俺の事なんて忘れろ、けどこれだけは勘違いせず覚えてろ…俺はお前を誰よりも愛してるお前の家族や周りの連中よりも、愛してる"って、拳さんね、泣きながら言ったんだ、拳さん私にその数日前デートしたんだ…その時指輪…渡してきたんだぜ?ずるくねぇ?」

ズルいよ…そう小さく言って彼女の泣き顔は初めて見た、押し殺してけれど収まらない涙は止めどなく彼女の衣類も布団も汚した
源治は何も言えなかった、愛する人を失う痛みはわかっても慰めれるほど気の利いた言葉が出ない。


「愛してるなんて…いままで1回だって聞いたことなかったんだ、私…拳さんのためにさ、魚3枚下ろすのが得意になったってのにさ、拳さんが私に何もかも教えてくれたのにさ…この指輪が安いアクセサリーじゃないのくらい私知ってんだ」


ボロボロに泣いてる翔の肩を抱くことしか出来なかった
源治は知らないわけじゃなかった、なぜ片桐が消えたのか
自分を守った末の行動で、そのせいで彼の女はここまで朽ちようとしていたのが心を押しつぶそうとしているように思えた
今現在はどうしているのかは分からないが、生きているような気がした、それさえ言えずに翔の泣き顔を見つめた
女としても強いはずの彼女が泣いてる姿を見てあの男は何も思わないのだろうかと思ってしまった。




あれから何ヶ月もずっと立った
ベリーショートの翔の髪の毛が肩より上くらいだった、前よりも男らしい見た目は減ったが相変わらず中性系の彼女の女性ファンは増えて、恋愛的な目で男も寄ってくることは少なくはなかった
翔は女らしく生きることにしたという、男家庭で育つ中で男のように育ったがもうそれはやめると。


「お前まだ、拳さんが好きなのか」


定期的に聞いてしまう言葉に嫌悪もなく微笑んだ


「あの人以上愛せる人はいないんで」

そういった彼女の言葉を聞くのも悲しくなった
1枚のメモ用紙を渡してやった、この街で片桐拳が死んだのは有名だが、事実は違う
片桐拳は死ぬことは無かった、最後まで人に愛されていたから彼の熱い男の魂を人は大事にしたから
そのメモ用紙を見た途端に源治を##は見つめた、驚いたように目を丸くして


「1発くらいビンタしてやれよ」

「いえ、ビンタなんかしない、この指輪の責任取ってもらうんだ」


そういって笑った翔の目頭が光った、泣くほど愛したその男のために彼女は走り出した
家に着いた途端に買い物袋を置いた


「おい!翔どこいくんだ!夕飯は!」

「親父っ…私、会いに行かなきゃいけない人いるんだわ」

「…いたらよ、一発俺の分殴っとけ」

「いやっ!親父の頼みでも断る!その分抱きしめてもらってくる!」


そういった娘の顔はイキイキしていて、バイクのキーを投げ渡した
16歳なんて一番幸せで楽しい時間だろうに、それを捨てても選んだ男だというのならば、それでよかった、けれどそれならば最後まで心から愛してやれと。それだけが願いのようなものだった

バイクを走らせて1時間半程だろうか
隣町より少し離れた海、船がよく見て漁師ばかりだった
作業着にずっと見てきた刺青をした男の背中が見えたバイクから降りてゆっくり近づいた


「片桐拳!!!!」


叫ぶようにいえば驚いて彼は吸っていたタバコを落とした
面白おかしくて久しぶりに会うのに変わらない彼が愛おしかった
足を1歩ずつ踏み出して彼の前に立った、何か言いたそうな彼のことも無視した


「拳さん、私、綺麗になれたかな?」

「バッカッ、綺麗に決まってんだろっつかどこでここにいるって、それにいっただろうが俺の事なんて」

「そんなの言われて、忘れれる女なんているわけねぇじゃん、ばっばかだなぁ」


ポロポロ泣き始める翔に片桐は苦笑いを浮かべて涙を拭ってやる、気の利いたハンカチもない
腕を伸ばして頭を撫でてやった
この時ばかりはこの娘の高身長を恨みそうになるがそれでもいいと思えた


「わたしっ、拳さんが、すきです」

「あぁ」

「だから、そばにいさせてください」

「…もっと危なくなるかもしれねえぞ」

「いいです」

「お前の思ってるような男じゃねぇよ」

「私もあなたの思う私じゃない」

「迷惑、かけちまったな年下のお前に」

「あんた以外好きになれない私がダメなんだ」

「翔、卒業しちまったらよ、結婚するか」

「え」

「俺ァ死んでることになってるから戸籍上は無理だけどよ」

なぁ?優しい声が心にズキズキと広がった、壊れ物を扱うように頬を撫でられたその手にしっかりとついている指輪が愛おしかった

「私、まだ待ってもらわなきゃ」

「お前が待ったなら俺もいくらでも待ってやらァ」

「……拳さん」

ボロボロに涙を流した、鼻水を啜って幼い子供のように何度も泣いた
大きな腕に引かれて抱きしめられる、身長差のせいで伸し掛るかのようになってしまう。それでも強く抱きしめて泣き続けたのを彼は何も言わずに優しく何よりも強くみつめた

「すきですっ、わたし…あなたが好きなんです」

「おう…わかってら、俺はよ…翔のこと愛してるんだわ」

「きっと、もっと素敵な女になります、なりますからっ」

「いつまでも待っててやるから泣くなよ」

馬鹿だなぁ、なんてそういって片桐は彼女の頬を両手で包んだ。
泣きじゃくる彼女の顔を見て笑顔がこぼれ、そんな彼女に背伸びをしてキスをしてやる。

「ありがとうな、翔」

遠いところに来てまで追い求めた男が自分だというのが何よりも嬉しくて、ここまで思いを寄せてくれる相手がいてくれることが何よりも幸せに思えた
手を握り直して片桐は翔の手を見ればそこにはきっちりと指輪がされていて、恥ずかしそうな顔をした
なんでこんな男に惚れたんだ。なんてもう思うことは無かった反対に感謝をしてしまうほど彼女の思いはまっすぐであったから








「源治さん」

スッキリとしたような顔の翔がいた、笑顔で鈴蘭の校門で待っていた##はいつもの白い制服だった。

「よぉ、どうだった?」

そういえばちらりと左手を見せた彼女に驚いた
まさかこんな結末になって帰ってくるとは

「卒業したら、あの人のところに完璧な女になって嫁ぐことにしたんだ」

「はぁ………なぁ、翔」

「なんだよ」

「お前今、幸せか?」

「源治さんが思う以上に私幸せだよ」

そう言って笑った彼女の顔は誰よりも幸せで輝いていた。
ならよかった、なんて思いながらそっと頭を撫でてやった
それだけをいって去っていく彼女の背中を見て源治も同じように笑顔がこぼれ落ちた


「…ったく、なげぇなぁ」

そういいながら移り変わる季節を見続けた。









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