芹沢多摩夫
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料理はうまい
裁縫もうまい
洗濯もできる
気も聞く上によく他人を理解してくれる
何よりも人に優しい
「普通じゃあ、ありえねぇ女なんだよなぁ」
そう言いながら最近一人暮らしをし始めた恋人の家の中で食事をしながら言った
卒業をして数ヶ月、仕事をしながらも家族のこともあり街からはまだ少しだけ離れずにいた、高校2年になった恋人の翔はバイトを掛け持ちしており、一人暮らしをすることにしていた
理由は全部自分ともう少しだけでいいから時間が欲しいからとのこと。
「多摩雄さん、お茶ここ置いとくよ」
「おう、悪ぃなお前飯食えよ作ったのに」
「もう少しでバイトだし…少しだけ食べてから行くわ」
笑いながら前に座ったこいつに迷惑をかけてる事は自覚していた
それもそのはず、ほぼ同棲状態だが高校生の…それも17歳の女の子の家にタダで転がり込んでるのだから。
バイトは居酒屋とカラオケ屋を掛け持ちの上に部活のボクシングもかかさず、足りない分は実家からの仕送りでしている
勿論一人娘を男手一つで育てた親父さんはそれを断固拒否、だが何ヶ月も話し続けた結果説得は成功
電話のない俺の家まで走ってきて報告をしたほど
「今日休みにしろよ」
「無理だ、金曜の夜だし特に忙しいしさ」
「…俺よ、ちゃんと職ついたからお前のこと養うくらい問題ねぇんだ」
安心させたくてそう言ったが翔は困った顔をした
彼女の言いたいこともわかる、あいつが別に金に困ってるわけでもなければ、俺自身を縛り付けたいわけでもないことは痛いほどわかっていたがプライドは崩されそうになる
「先月の給与明細がこれな」
結局自分がヘタレで何ヶ月もその仕事をもうしていて新人扱いも少なくなってきたというのに、給与明細に書かれてる通りの額で
それなりの額をもらって仕事をしているのだから心配はない筈だ
「…多摩雄さんは、自分にどうしてほしいんだ?」
「ワガママいっていいのかよ」
高校三年生時代散々困らせていたのに、更に甘やかせるこの女に感謝しない日はなかった
初めであった頃と比べて髪の毛もだいぶ伸びた翔がボクシングよりもバイトをとりだしているのは見て取れることで
正直自分よりも2つ下で青春真っ最中の恋人に対して奪いたくはない、それこそ自分のしたいことをしてワガママを通せばいいと思ったのになかなか言わない、謙虚かそれとも遠慮かなにかわかりもしない分かりたくもないその感情。
「多摩雄さんのワガママくらい聞いてやれるつもりだ」
「ならバイト辞めてくれ」
そう言われた途端に固まった翔の言いたいことはよくわかってる
「理由がわからない、別に稼いでるのはわかるけど自分の生活費なんて自分で」
「ならよ、結婚した後もずーっとこうなのか?嫁さんに金全部払ってもらって何も言わず俺は遊ぶ金だけ稼げばいいって?」
「そうじゃ」
「変わんねぇんだ、半同棲状態なんだ…結婚する前もあとも変わんねぇんだよ、お前が俺のこと養うって言いてぇなら悪いが男として断る」
だからこそ嫌われても構わない、どう言われようが興味もない
「お前やガキくれぇ養うことできる…俺の親父じゃねぇんだ」
俺の貧乏な生活に嫌気がささなかったか?と聞かれると正直に言えば時折あった
耐え切れそうにない時だってあって、苦しい時期ももちろんあった、だからこそ自分の愛する家族に大してそれを体験させたくはない、苦しませて周りに笑われたくはない
学校なんてどこでもいいが金がなくて苦しめることだけは嫌だった、農家の息子といっても胸を張って誇れるほどのやつじゃない。
制服だって中学のサイズの小さすぎるものだった
それとは真反対の大家族であるが普通の生活を送っていた恋人にそうさせるくらいなら、悲しい話別れた方がマシに思えた
「それかいっそ、同棲するか?」
ある種自分の願望だけれども本気の考えだ
幸せにしてやるなんてそんなのあいつの捉え方次第で一瞬で不幸にもなる、それが恐ろしいと思ったこともある
けれどそれ以上に今の時間が何よりも大事で今このままで進みたくはないという男の意地がそろそろ出てきた、短気だが耐えた方だろう
いつまでも反応がないのが耐えれなくなって見てみればまるであいつは初めてキスした時みたいに真っ赤になって死ぬんじゃないのかってほどだ
「おいなんだよ!どこにそんな反応するとこあった!」
「そっ、それってさ……その」
ポツポツ話し始めるのも癖みたいになってる、普段ハキハキモノをいうから苦手なそれも聞く当たりもう俺は到底神様が切り離しても切り離せないほどの愛ってやつで埋められてる
「一緒にずっと…いれるってこと、でいいんだよな」
「ん?まぁ、そうだな飯も風呂も仕事や学校以外の時間は、飯や家事くれぇ俺もできるし心配すんな」
そういや顔を覆い隠して下を向くもんだから、これはなにかやばいことしたか?と思うのは彼氏として当然で
嫌というわけじゃないのはわかる、そこまで鈍感なバカじゃない
「なんもない私でもいいのかよ」
「あ?」
「私は…ただの学生だ…朝起きるのは得意じゃないし家庭的とは言われても普通の…本当に普通の」
「なんもねぇわけねぇだろが、普通でいいだろお前も俺も…それに、お前は俺に持ったいねぇくらいの女だよ」
1年前からずっとずぅっと思ってることだ、隣に座って渡すのも躊躇ったモノを手の中に握らせた
「やっすいアクセサリー屋のだけどよ…これはその、まぁ二人の約束っつー事だ、わかったらその女の武器しまえ」
隣をみれば泣き出した翔の頭を膝に乗せてなでた
普通こんなの女の役目だと思ったがどうでもいい、俺たちの関係に男や女以前に家族という一つの言葉が何よりも大事だからだ。
頭を撫でると子供扱いされると思って嫌がる女も少なくない、けど翔は素直な女だ幸せなら幸せ好きなら好きそういえる
だから聞きたかった
「俺のこと愛してくれるなら、卒業までは俺に身を任せろ」
そしたらあとは好きにしたらいい
別の男に行こうが仕事しようが仕方ない、縛り付ける社会の鎖は解けるんだから
「卒業した後もあんたに半身は預けてもいいかな?」
そういって笑ったものだから思い切り抱きしめれば嬉しそうに笑った
仕事のことなんて忘れてて翔は遅刻したがバイトをやめることはその時言った、またある意味新たな出発かもしれない
いいことだ、小さく光った翔の手の指輪だけが今は俺たちの関係を証明し続けてくれるのんだからな
「ってそのこと言いに来たのか?」
「おう、親友のお前には一番に報告したくてよ」
「無事同棲するのもいいけどよ、多摩雄お前翔に無理させるなよ」
「ばっか野郎ンなことさせねぇよ」
「ご相談メールが来てんだよ、アイツも若いけど百獣の王に食われるとなりゃキツいんだよ」
「…………ぐぬぬ」
どうやらまだまだ同棲生活は始まったばかりだ。
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