ウボォーギン









狼さんと呼んであげた
いつも満月の夜にやってくる人だから、毛深くて大きな体、大きな声にいつもママは起きちゃうかハラハラドキドキけどいつも豪快に笑ってパパのビールを内緒に飲んじゃう


「お前がでかくなる頃には俺が団長に紹介してやるよ」

なんてそういうからあなたはサーカス団の狼なのかときいたとき怒られてしまった
だって団長だなんて聞かないものだから、数年前に行った大きなサーカス団を思い出したの、それならあなたはきっと火の輪っかを潜る猛獣だわと言えばまた怒られたのを覚えてる

「ねぇ狼さんはどうしていつもここに来てくれるの?」

ここは寒い国だ、毎日雪が降り積もり寒くて薄暗い、何もなくて氷の国なんて言われるほどだ
あるものなんてたかが知れてる、盗賊をしてると聞いた時に余計にここに来る意味が理解出来なかった


「お前を食うためだ」

「それは、どうしてお口が大きいの?って聞かれた時に取っておかないのね」

「何言ってんだ??」

はぁ、っと大きなため息をついた
赤頭巾にしては白い肌に頭巾のようなものもない主人公じゃ意味もないかと改めて感じた、狼の指は爪は長くない、逆に短い深爪を所々していて痛々しい
それに時折見える生傷も痛くて耐えれたものじゃない、狼の力加減は上手い
髪の毛をいじってやるよと初めて言われた時は恐ろしくて断ってしまったのがもったいないほど
お風呂上りに狼はビール片手に私の長いラプンツェル(より長くはないが)のような髪の毛をドライヤーとタオルで乾かしてしっかりとケアをしたあとに髪の毛をブラシで梳かしてくれる

「それと俺はウボォーギンだっつってんだろが」

口の悪い狼さんはそういった、忘れたことなんてない
ウボォーギンなんてあまり聞かない名前だ
発音が好き、ウボォーギンのボォーの伸ばす部分が好き、まるで狼の遠吠えみたいだから

「知ってるよ、けど狼さんなの」

狼さんはとても強い、とても気高くて仲間思い
団長の次にノブナガって人、そっからフィンクスとかフェイタンとかシズクとかマチとかパクノダでしょ、それにシャルナークにそれに…それに、沢山彼には仲間がいる
友達であり家族であり仲間なのが羨ましかった時彼は見透かして言った

『お前も俺の大事なダチだぜ』

その言葉は嘘がなくて狼さんを余計に好きになれた、優しい狼さん
彼だけが世界と言っても過言じゃない、この世界は広い家とその家の中にある大きな図書館、それだけなのを塗り替えて仲間を優しさを温もりを全て教えてくれた

力は怖いものじゃないと教えてくれた、触れるもの全てを壊したこの手を握りながら笑ってくれた、だから世界は優しい色に塗り替えられていく
きっと物語の狼さんだって本能に抗えなかっただけなのに、猟師さんは撃ち殺した
きっとそれを嘆く人はいないからと決めつけて、悪には正義の鉄槌をと言うのならばその悪を正義と思った人たちも悪になるのか


「ねぇ、狼さん、お外につれてって」

「おうよ」

嬉しそうに楽しそうに白い歯を見せて笑ったんだ
綺麗な歯並びで、きっとテレビの俳優たちだって負けちゃうくらい、綺麗な真っ白な歯
大きな腕の中で風を切る音が聞こえる、屋根の上を飛んで飛んで、このまま何も知らない本当に二人のことも知らない世界に行ける気がして、甘い夢に溺れていたくて、痛いくらい狼さんの腕を掴めば痛いと怒られた


「綺麗だね…ねっ、狼さんあれ見える!?」

「あー?どれだ?」

「あの光ってるのなんだろ…」

暗闇の中一つだけ光るそれを指差せば目をうっすらと細めた、まるで獲物を狙う姿みたい
あれが欲しいとかいえば捕まえてきてくれるのだろうか?それならばきっと暗闇に飲まれて狼さんは消えてしまう気がしたから言うのはやめた


「ありゃあ、船だよ…民間人のちっせぇ、こんな時間ってこたァ魚釣りに行ってんだろ」

「…へぇ、狼さんは物知りだねぇ」

「まぁな、俺もあんまり知らねぇけどな」

「でも怖いね、暗い海の真ん中でひとりぼっちだ」


今いる鉄塔の天辺もうっすらと光がある、夜中なだけあり雪は降ってはないが寒くて少しだけ狼さんの腕を引き寄せれば強く抱きしめられる
安心するようなその温もりが心地よくてたまらないでいた

「1人じゃねぇさ、仲間がいる…死ぬ時だっている、1人は寂しいんだぜ」

まるで狼さんは知っているようにいった
一匹狼なんて言葉もある癖にあまりにも悲しそうにいうものだから悲しくなり狼さんの手を繋げばいつも通りの顔をして平気な顔をするものだから、狼さんの膝まで上り踏み台にして目線が同じになった


「狼さんと私はずっと一緒だよ、うん…そうだ…これ付けてあげる、私の能力の一つなんだよ、相手に何かあった時この紐は消えちゃうんだ、私と狼さんにしか見えないの」

そういえば嫌がることもなく黙って薬指に赤い念糸を付けさせてくれた、これからの運命に狼さんになにかがあるのならば、私が守って見せよう、私がこの悪と呼ばれる力を全力で使って誰もに嫌われても最後に残ってくれるのがこの人であるならそれでいいの


「俺達の約束だなリーリェ」

「……なま、名前しってたの!」

「おう!団長の次のターゲットだからな」

豪快に笑うその声は街中に響いたのではないだろうか、けれど嬉しかった名前を知っていてくれて
こんなちっぽけな名前も狼さんの言葉ならば変わってしまう気がした、優しい優しい狼さん

「…ねぇ、そしたらいつか連れ出してくれるの?」

「ん?まぁな、お前の好きな親からも離れさせて俺達と来させる」

「…そしたら、私は狼さんとずっといれる?」

「おう!これからもな」

その糸がある限りと約束してくれた優しい狼

不気味な満月の日黒いカラスがやってきた


「ウボォーギンが死んだ」

まるで手紙を読むように簡略化されたようなことをいった
そんなこと知っている、糸は切れてしまったのだから、カラスは満月の夜に隠れそうだった


「狼さんは、なにかいってた?」

カラスに従う狼なんて滑稽だ、けれど彼が服従するならきっとそれだけの知恵者なのだろう
カラスの瞳は真っ黒だった、不気味だが美しいそれに魅了されそうになる、そういえばカラスは美しいものやキラキラしたものを好きだと本で見たのを思い出す。
きっとこのカラスもそうなんだ、だから狼さんを言葉で惑わせた、カリスマ性の高い優秀なカラスだろう


「お前にか」

「うん」

「……俺が直接迎えに行ってやる…といってたな」


満月の夜、狼はいなかった
狼を待つ白い少女は雪の中、花も咲かないそこに一人立ちすくみ待ち続けた時カラスは鳴いた

アイツはお前を置いてったんだよ。と

少女は何も悲しくなかった、立ち上がり空っぽのカゴを持って飛ぶカラスを目印にそこから飛び出すように行ったのだ、狼を見つけるために



「ねぇ、あなたが団長さん?」

「あぁ」

「私ね、狼さんの後になってあげる」

人をも捨てて獣となり。
大きな狼を夢見て








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