クロロ






言葉なんか覚えるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんの少しの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙の中にたちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで掃っていく



「言葉なんか覚えるんじゃなかった」

そうクロロは詩を読んで悲しそうに見つめた
どうしてそんな顔をするのか残念なことにリーリェ・シャルドーラには分からなかった
幻影旅団の団長であるはずのクロロという青年に軟禁されていた、なのに彼はそういった
部屋にはどんな細工をしたのか念は発動できず、だが出ることは可能、だが出たとしても追跡が出来てしまいすぐにバレてしまう

だから毎日やってくる彼の話し相手になった、本を片手に会いに来る彼に此の方何かを思ったことはなかったが、様々な話をした
仲間の話に家族の話、恋をした話や、ほしいものの話
その度にクロロはいった

「愛している」

いたく真剣にいうものでけれど相手のその感情に向き合うにしても残念ながら未熟な少女には無理なことで、クロロを拒絶した
案外紳士的な旅団の団長はそんな少女に乱暴もしなければ、罵詈雑言を浴びせることもなく黙って小さく頷いていつも手を繋いで夜を明かす


「俺が言葉を知らなかったら、こんなこともいえない」

「それでも、その詩は言葉なんて覚えたくなかったと泣いてるんでしょ」

「あぁ、そうだその詩は言葉を知らなければ目の前で泣いている人、血の意味を知らずにいれたのに…と嘆いたのさ、人を知りたいが知りたくないんだ」

「…変なの、言葉がなきゃ人の気持ちなんてわからないよ」

まだ幼い少女には難しいのかその詩に対していった
クロロはそんな彼女に対して小さく笑って本を閉じた、外は夜景で美しく輝いて人々は今も酒を煽り談笑していることだろう
そんな景色を想像して窓を見て、自分の仲間を思い出して少しだけホームシックに煽った


「やっぱり言葉なんて覚えなきゃよかった」

「どうして?」

「お前の悲しい表情を見ても分からないままで済む」


クロロは優しい人だった、乱暴的でも無駄な殺生はしなかった、普通に見ていればごく一般的な人で盗賊とは思えない、髪を下ろせば幼い顔立ちで余計にそれに心を許しそうになる
けれど彼は自分を軟禁している男であり、独占欲に駆られているような人だった
どれだけ優しい人だとしてもマイナスからは変わらない

「私は…クロロのことなんて何もわからない」

悲しい顔も嬉しい顔もする筈なのに彼の心理は未だ理解しがたいものだった
全ての言葉の意味がわからずに、なぜ自分がここに置かれているのかさえわからない、いつかここを抜け出すのに彼はそれを黙って待っているような
いつか迎えが来てこの二人だけの世界はスグに音を立てて崩れていってしまうというのに、それでも2人だけのハッピーエンドを待つかのようにクロロは毎日黙ってやってくる

本を一、二冊読んだらその感想を聞かせて、けれど読むようにと無理強いはさせない
クロロはジャンキーでもなければ狂人でもない、至って普通の人間であった、それに心を許しそうになる

「言葉は魂になる」

「言霊とかっていうように?」

「ん?あぁそうだなだからこそ言葉は人の心に入ってくるんだ」

「それでも、私にはクロロの言葉が入ってこないよ」

「あぁわかってる、構わないさ」

近づいてきては警戒することもなく黙って獲物を見るように見つめた
手を優しく包まれ猫が甘えるかのようにその小さい手に頬擦りをした、触れる黒い柔らかく細い髪はクロロを表すようだ


「俺の言葉は、俺が一番わかってる、それに酔うだけでいいのさ」

「…それじゃあ、まるで独り善がりだよ」

難しい言葉を発した気がした、1人で見つけた小さな明かりを大切にしてもそれはいつか風に吹かれて消えてしまうだけだ、なのに望むのならばクロロの願いがわからないばかりだ
人は大なり小なり幸せを望むものなのではないのかと思えたから、クロロの幸福はコレクションなのか、手に入らないなにかなのか


「俺はお前の魂がほしい、リーリェの心だ」

「クロロのものにならないのに」

何度も言ってやる、彼が現実を受け止めないかのごとくいうものだから意地になっているのかもしれない
いつか彼に対して心が曲がっていきその歪みを受け入れてしまう気がした、恐ろしくなっていきその邪な心を愛した時に人は壊れるかもしれない


「やっぱり、言葉なんか知らないままの方がいいだろ?」

見透かしたような鴉のようなその瞳が見つめた、深海のように奥の見えない黒が侵食するように感じて怖くなってしまう
繋がれた手が溶け合いその内二人だけになるのではないのかと思えてしまう、恐ろしいほど悪夢を見てる気分だ


「私は、貴方からの愛を受け取らないといえるなら、言葉を知れてよかった」

「……あぁ、俺はそれでもお前に対してどこまでも貪欲に愛を語ってやるさ」

嫌だと泣いて喚いても、体を繋ぎ合わせる等と単純ではなく、心を繋ぎ合わせて互いを求めて依存しあい互いの醜い部分ばかりを欲するようにとクロロは語る
言葉など覚えなければよかった、けれどきっと人はその言動の意味を知らなくても心はそれを理解して叫ぶだろう

愛してくれ、愛している

と呆れるほどに












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帰途:田村隆一

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