やさしい人






目覚めたのは早朝だった、屋敷内は相変わらず空気が冷たく人がいるのかさえ怪しく思えるほどで太陽が一つも入らない
荷物を適当に詰め込んでいき、渡されたばかりの案内状を見つめながら高鳴る心音わ落ち着けようと胸を叩く。
広い屋敷内を歩くことはなく影の中に潜みまるで溶けるように下の階に落ちる、ソファーに座って朝からお茶を嗜む母と新聞を読む父親に表情はない


「おはようママ、パパ」

「おはようリーリェ」

「今から出るのか」


部屋の中には他に一つの黒い物体、それは部屋の隅に立ったまま何をするわけでもない、同じ存在であるがこうも違うのだから宿主の違いは大事だと考えたのはいつか
一応のための挨拶に来たものの特に深い意味はなく、この屋敷に女は母親という人間を作る機械があればいいだけだった、それ以外は不用品、だからこそリーリェは誰の目にもかかることなく必要最低限の部分だけを知らされた


「うん、いってきます」


暗い顔のリーリェはそのまま玄関前に立っていれば、奥の広間の階段の上で兄が見つめていた、感情の無いその瞳で何を語ることもないその兄が好きにはなれなかった。
この家の人間はまるで人形のような何のために生きているか、本当に生きてるのか死んでるのかさえ分からないほどに何も感じれなかった

それが嫌でたまらなかった、1人表情をコロコロと変えて笑ったり泣いたり苦しんだりそれをし続ける自分は可笑しいような気がしてたまらなかった
自分が男でなかったゆえに確かな力を持っても誰も認めても見てもくれない世界、悲しくてたまらなかったのだ
それでもそばにいてくれたのは人でもない自分を喰らうはずのモノだった、親のように兄弟のようにただ傍にいて支えてくれるそれが大切な一部となった


「もうすぐですよ」

そういった案内人の青年の言葉に顔を上げた、都会と呼ばれるであろう街は人だかりも多く見る分には大変楽しく感じた、いよいよ本当の試験が始まるのかと考えたときにはどこか心臓は大きな音を立てて待ちわびていた
試験会場に着く前に船に乗り、山を登りこの案内人の青年をみつけることまでの道のりは果てしないものだった、簡単ではないもののなかなかスリルがあるそれは仕事とは違う

「さて、ここでさようなら..あ、合言葉[ステーキ定食]で焼き方は?と聞かれたら[弱火でじっくり]だよ」

「...はい、ありがとうございました!」

「うん、君はいい子だね...気を付けて、ハンター試験の人間はみんな優しいわけではないからね」

そういって背中を押されて定食屋の中に入り言われた通りのことをいい奥を案内される、どれだけの人が来ているのだろうか...と思い、出されたステーキ定食と一緒に女の子だからおまけと言われ、甘い杏仁豆腐を口にする
目の前に当然のように座った黒いソレは肉を噛み飲み込む、食欲は何とも強いソレは嬉しそうに餌を食らいつく


『なんだ、それ食わねぇのか』

「杏仁豆腐はダメだよ、お肉は...うんいいよ、キルアに会う前にあんまり食べたくないの」

『恋する乙女か?』

「変なことをいうね、私キルアは好きだよ?」

『それは恋じゃねぇだろうがよ』

そういわれたことに苦笑いして肉の乗る皿を渡してやれば皿事飲み込まれてしまうのをみて、お店の人間に怒られないだろうか?と思った矢先音を立ててエレベーターが止まったのをみて、階数はB100と書いてあった
随分と深い場所まで下りたのだと思い、開いたドアに向かい出てみれば、薄暗いそこには数十名の人間がいた、係の人なのだろうか緑色の顔のビーンズのような形のスーツを着た人はなにか番号札を持っていた

「はい、66番です」

「ありがとうございます..あっあの、ここに私と同じくらいの歳の銀髪の男の子ってきましたか?」

「うーん、まだみていませんねぇ」

「そっそうですかぁ...」


はぁっと思わずため息をついたリーリェに係員の彼は優しい声をかけてくれた、そんな彼に笑顔を向けてまだ日数はあるらしく、暇をつぶすものもなく端に腰をかけて座ってから余計に感じる人々の視線、それはまるで馬鹿にしたような目であった
女であり、子供である、それに対しての馬鹿にしたような眼差しは嫌気がさす、続々と人はエレベーターから降りてくる、そのたびにその瞳が増えるのはまるで家にいるときと同じ感覚に思えて吐き気をおぼえる
腹痛と頭痛を同時に味わうような気持ちになり、足の間に顔を入れて地面をみつめた、自己嫌悪に浸りながらも何度もキルアの顔を思い出す


「大丈夫かい?」

その声に思わず顔をあげれば男が一人優しい顔で立っていた、ほかの人間と違う興味やそんなものではなさそうに立つ男

「うん、大丈夫です」

「試験前で緊張かい?顔はみかけたことないし新入りっぽいな」

「はい、友達に誘われて..でもまだみたい」

「そっか、早く来てくれるといいな俺はトンパってんだよろしく」

「リーリェです、よろしくおねがいします」

そういった男に思わず安心して様々な話をした、とはいえ道中の話や試験の話ばかりで特に深い内容といったわけではない、話し込んだ先にトンパは鞄を漁りだしジュースの缶を二つ取り出す
コーラか何かのようなジュースを渡されプルタブを開ける

「これは俺からのお祝い、女の子がよくここまでこれた!じゃあかんぱ...」

『こりゃあ、いけねぇ手が滑っちまった』

そういって缶を当てあう前に缶は半分になり中身を出して地面に落ちた、ぼたぼたと手に付着するそのジュースからは変なにおいもしないが小さく耳打ちをされる『こりゃあなんか変なもの盛ってるぜ、気をつけな...こいつは臭い』そういったソレは姿を現すこともなかった
トンパからすれば何をされたのかさえわかりもせずに、その場で声が聞こえて缶が半分になっただけだ

「...ごめんなさい、友達がこれを飲んだらダメって」

「俺は飲みたいなぁ」

その聞き覚えのある声に思わず振り返ると隣には見慣れた銀髪の少年がいた、昔見たときよりも少し視線は下になっていた、変わらない銀色の髪の色にアイスブルーとグレーのような氷のような瞳の少年

「...キ...キルアちゃあん!!!」

試験会場には似合わない声が響いた、思わず入口にいる係員に目を向ければ嬉しそうに微笑んでいた
嬉しそうに抱き着くリーリェの背中に手を回したキルアと呼ばれた少年は嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしてはトンパをみた

「ねぇ、そのジュースも一本あるなら俺にくれない?」

「えっ...あっあぁもちろん、開けたのじゃ悪いし新しいのをあげるよ、じっじゃあリーリェちゃんも気を付けてね」

そうひそひそと背中を丸めていってしまったトンパをみた