暖かい夜に

確かに成人女性になっても一人旅行が趣味でその旅先でポケモンバトルをしたり歴史を知ることが好きなことは
世間一般の人がいえば、寂しい趣味だと理解している
26歳に差し掛かり四捨五入すれば30になる歳、結婚をして身を固めるのが親孝行だということも分かっていたがそう思えないまま過ごし、そしていつの間にか海外にまで来ていた

「こんにちは、智華さん」

「カブさんこんにちは、今日も特訓ですか?」

第2鉱山にて出会ったジムリーダーのカブと仲良くなったのは同じ炎ポケモンをメインで使っていたからだ、勿論炎一色とは言えないが、智華自身はジョウト地方出身でありカブはホウエン出身だが旅行でいったこともあってか昔話に花をよく咲かせてしまい、そこからは仲良くなったものだった

それから飛行機に乗って遠くのガラルに来てからは毎日のようにカブと過した、彼がずっと年上だから余計なのかもしれないが安心感がそこにあった、食事をしたり時折彼の鍛錬相手としてもバイトをして旅の軍資金にした

「最近ここいらもポケモンが増えてきましたね、おまけにカブさんの事覚えるのかみんな野性味がなくなってきたというか」

「そうかな、傷付いたままで捕まえないと可哀想だし一応ポケモンセンターに連れて行ってあげてたらこうなってしまったんだよ」

「そういう優しいところをポケモンも見てくれているんでしょうね」

そう言えば彼は不思議な顔をする、君もずっと優しい女性だよ。と言った彼にどう反応するのか時折迷いながらも感謝を述べる
今日は夕飯を一緒に食べないかい?という誘いに二つ返事で頷けば、じゃあ夕食は負けた方が勝った方の好きな物をご馳走ということで、と言う彼はまるで少し子供のような顔で言うものだから負けてられないと思いながら彼の弱点である水タイプのウパーを出した


鉱山から出る頃には2人とも汗と泥でベタベタになっていた、結局負けてしまった
当然の結果といえば当然であるが1トレーナーとしては悔しさも無くはない、はぁっと大きくため息をついた

「あんまり高いものとかやめてくださいね、旅人の身ですから…悲しい話お金が」

「ふふ、流石の僕も材料費ぐらいは出すよ」

その言葉にあまりパッと直ぐに意味を理解できずにいたが連れていかれた八百屋や魚屋に嫌でも気づいた、作らされるのかと仕方なく諦めて何を食べたいですか?と言えば君の手作りならなんでも。と優しく言うから不味くても知りませんよ。とだけ言った
カブの家に来るのは初めではない、ホテルで泊まるよりも安いんだからこの広い部屋くらい貸すよとも言ってくれるがそこまでは甘えることは出来なかった、買ってきた材料で適当にホウエン地方の方で食べた記憶のある料理を作っていく、ポケモンの分もと少し多めに用意してあげる

「出来ましたよ」

そう言えば真剣に夕刊を読んでるカブが顔を上げた
ガラル地方は他よりも随分と悪いと思える軍団等がいない強いていえばエール団だが話せばわかってくれるいい子たちでもあった
テーブルに皿を並べてポケモン達の分もと用意すればカブのポケモン達が出てくる、智華くんの所は食べないのかい。と言われお言葉に甘えてと告げて手持ちの3匹を出してあげ食べさせた

「うん、懐かしい味がする」

「料理得意じゃないんですけど、郷土料理とかは気になって教えてもらうんです」

「とっても美味しいよありがとう智華くん」

「いえ、こっちこそ私みたいな子に優しくしてくれてありがとうございます」

「当然だよ、君は僕にとって特別だから」

まるで赤子をあやす様な声色だからかその言葉に敏感に反応できずにいた、異性と思う反面彼の父性に溺れてもいたから何となくそんなことは無いと線引きしていたのかもしれないが、そうでは無いというようにカブは時折爆弾を落としていく
夕飯を食べ終えて風呂掃除をして用意して洗い物をしてる間にカブが風呂に入っていった

「…はぁ」

正直にいえば好きか嫌いかと聞かれれば智華は即答で好きと言える、だからこそ悩んでいたのだ
下心なく良心でしてくれてる人間にこんな気持ちを持つのは最低だと、基本的にホテルで泊まるようにしているが金銭面を考えればずっとは泊まってもいられなかった、いい歳して他人に甘えて。と親にバレれば何を言われるやらと心配になる

「智華くん」

「はーい」

「タオル忘れたから取ってもらえるかい」

「分かりました」

彼の声に意識を戻されて乾かしていたバスタオルがしっかりと乾いているのか確認してから持っていく
洗面所に入れば先に洗顔用の小さなタオルで頭を拭いていたカブがいた
思わず見てしまったその光景に急いでタオルを置いて逃げ出す、心臓がバクバクと音を立てていた

「さっきはごめんね、不愉快な思いをさせたかもしれない、僕の後は嫌かもしれないけどお風呂どうぞ」

「そんなに言わないでください、私本当気にしてませんからじゃあ借ります」

顔を合わせるのが無性に恥ずかしくて顔を背けて逃げるように風呂場に行った
湯船につかりながら先程のことが頭をよぎるせいで逆上せそうになりながら身体を洗って頭を洗った、カブは出身が近いからとても良くしてくれてるのだと分かっている、自分自身はそう分かってながら勘違いしそうになるのがとてつもなく失礼な気がして苦しかった
彼の優しさに触れられるのは自分だけでないことは分かっていた、溜息をこぼして上がって身体を拭く
カブが置いてくれたであろう客人用の寝巻きは少し大きめだがそれがまた彼の他人に対する優しさに感じて心地よかった

「上がりました」

「智華くん、そこ座ってもらえるかな」

「え、あはい」

真剣そうなカブがリビングの真ん中で正座していた、なにか大切なことだろうと少し身構えながら向かい合うように正座をした

「君が迷惑だと思うなら僕が言うことは忘れてくれていいから、今から言うことを冗談だとか色んなことを抜きに極端にはいかいいえで答えて欲しい」

その言葉に何となく察したのは智華の人生経験と鈍感でないからだろう、だからこそ身構えた
唾を飲み込む音が聞こえそうな程響いた気がして心臓が叫ぶ

「君のことが心底好きだ、僕の人生を捧げたい、そして君の人生を僕という男が欲しいんだ」

それはあまりにもこの人の性格を表すような告白でありプロポーズであった
赤い炎のような情熱的な瞳で、強い熱の篭った声で、まるで彼が本当の炎のように感じられるほど体は熱くなるばかり
すぐに答えが口から出なかったせいで無言の時間が進んだが彼は答えが出るまで1歩も動かず急かさなかった

「はい」

ようやく絞り出た答えはまるで虫の声で聞こえたかも怪しいものなのに彼はどこまでも優しい顔をして手を握った

「ありがとう」

その言葉にポロポロとようやく涙が溢れるものだからカブは困ったような嬉しいような顔をしてその熱い身体で抱き締めてくれた
その日の夜初めて2人はおなじ布団に入った、少し狭くて暖かい夜だった。


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