血よりも濃く骨より固く

※オメガバース


この世界には2つの性と別に第2の性がある
α β Ω その3種の第二の性はオオカミのような階級性を持っている、αはより優秀な者たち、βは一般的な者たち、Ωは人界の異端者だった
Ωは独特のフェロンを持ちαを惑わせる、時にβでさえも惑わせてそれは一言で言えば狂わせる様なものだった
人界での差別化は激しい物でΩには何をしても許されるとまで言えるほどのものだった
Ωは社会的地位も低く、3ヶ月に1度発情期がやってくる、それを抑えるための薬もあるが決して安い訳でもない、完全に治すには番が必要だった
項を噛むという動作だけで契約されるそれは結婚よりもはるかに重たいもので、αに一方的に噛まれ捨てられるΩは強いストレスに当てられ精神を病む、そして二度と番が出来なくなり果ては発情期はやってくるがその後誰に抱かれても何があっても満たされないまま生涯孤独の身を抱えてしまうのだという。
そしてαとΩには『運命の番』がいる、本能から来るものはお互いを運命だと認識させ番まで持ち込む事もあるだろう


話はある日のことだ
銀色の猿ことSS、ザップ・レンフロはHLの中でも1番と言ってもいいほどに女好きのαだろう
彼の日課はβやΩの女を抱くこと、Ωがフェロモンを振りまいて抱く時の女の股の締まりっぷりは何とも堪らないのだとか、男相手には流石に彼も勃たないとは言うもののそこまでは詳しく聞けないものだろう

そしてザップ・レンフロの職場である秘密結社ライブラは普通の場所よりもはるかにαが多い職場だ
クラウス・スティーブン・KK・ザップの4人もαがいる、普通は大手企業の社長がαかどうか…位のレベルだがこの街ではそんな事は関係がない
βはチェイン・ギルベルト・レオナルドくらいなもので、人界とも異界とも言えないツェッドには第2の性など無かった、そもそもライブラにΩは一番邪魔になる
何処までも優秀なΩが居れば別ではあるがそうも言えないだろう

その日のザップの鼻は朝から異様に好物のような匂いで満たされていた、何かと例えると大変難しいがそれでも彼の腹を空かせるような匂い
発情期のΩとのセックスを楽しみに楽しんだザップは礼として貰った金を今日もまたスロットに溶かしながらライブラに向かった、そして匂いが強まっていくのも感じた

「初めまして、和泉智華と申します」

ドアを開けた時にその匂いはザップを殺す程に刺激した、今までΩと娼婦達とヤッてきた彼が耐えられそうにない程その匂いは刺激した
他のαであるメンバーは何も気にしてなどない、今にもあの黒髪で隠れた項を噛み付いて子を孕ませてやりたい、そう本能が叫んだ
これがザップ・レンフロの人生の中で初めて知る【運命の番】であった

「…お、おう」

「貴方が、何ですね」

そういった後智華と名乗った女は背中を向けて奥の部屋に行ってしまった
ライブラにいればその匂いが消えることは無い、鼻が詰まりそうなほど甘い匂いに酔わされた、その匂いはマリファナでも異界からの薬でも味わえないような幸福感を味わせたが身体を刺激して仕方がない
頭のどこかでチラチラとあの女の顔が映り込んでは消えていく、ザップは自分が自分でなくなるような気がしてしまった
最後に残された意味ありげなあの言葉は嫌でもわかる、互いに運命だと本能が言うのかと

「ああっっ!いいっ気持ちいいわザップ」

「…っせぇよ」

どれだけ腰を振っても、どれだけ好みの女を抱いても、どれだけΩを喰らっても、あの熱だけは忘れられなかった
いっその事他の匂いを嫌悪しそうなほどで、まるで自分が変わっていく感覚に陥る、ライブラにいけば智華は高確率で居ない、基本は自宅作業で済ませるとスティーブンが言っていたが其れはΩの自衛本能だろう

「なんでΩなんか入れたんっすか」

αの多いライブラにΩが来れば狼の群れに羊を入れるようなものでいつか過ちが起きてもおかしくは無い、そうなれば彼女はボロボロになるだろう
あの大きな赤い瞳に涙を溜めて我慢をして必死に抗おうとするだろう、スティーブンはザップの問に対して珍しいような顔をした
和泉家は牙狩りと呼ばれるものを母国の日本でしていた、向こうでは鬼狩りとも言われていたらしくその力は血界の眷属を封印する事も可能にさせる、今現在クラウス1人にやらせているのが二人になればどれだけライブラは楽になるのか。そう聞いた時にザップは疑問があった

「そんな家の奴がなんでΩなんすか、可笑しいでしょ」

「彼女は和泉家だし、次期当主だが母親は愛人だ…その辺の道端で死にかけていたΩだったそうだよ」

スティーブンは智華に詳しかった
珍しくザップが根掘り葉掘り聞こうとするからだろう、仕事の書類の手を進めながら答えていく様は哀れんだようにも思えた、才能は誰よりもあっても所詮Ω
αの子を授かるのは難しく兄弟は居るとしても皆βだという、だからこそこのαの多い街で修行をしている最中なのだと



「避けんなよ」

「…別に避けてはいません」

「じゃあこっち見ろよ」

ライブラで出会っても外で出会っても智華はザップを大層避けた、逃げるように彼女がどこかに消えるのをあの男がむかっ腹を立てないわけがなかった
路地裏のその場で腰に獲物を付けた女相手にザップは苛立っていた、甘いような苦いようなよく分からない匂いが鼻について仕方がない、本能で早く女と番えと言う声が聞こえる
目も合わせることも無い智華は早く行かなければいけないと言い逃げようとすることにより苛立ちは最高潮に増した、自分だけが余裕をなくした獣のようで哀れに感じたが止め方がわからない身体を勢い良く掴み背中を向けさせ壁に智華を押し付けた

「うぜぇんだよ」

「辞めてください、貴方は私の運命なんかじゃない」

「知ってんだよんなこと、運命なんかある訳ねぇだろムカつくんだよ」

ザップの血法が智華を縛った、長い黒髪を横に流せば現れた白い項に目を奪われるそこに噛み付けばこのΩは自分のものだと暗示をかけられたように
鼓動が早くなり、涎が溢れそうになる、早く噛み付けと言う中で口を大きく開けて触れようとした瞬間だ

「鬼倒34術影踏」

大きな声を張り上げると同時にザップの動きが固まった、智華は一瞬緩んだザップの血法から逃れ足早に消えた
1分程経てば動けるようになった後、自分の情けなさに大きくため息をついた
ふと見えた彼女の顔はあまりにも苦しそうだったからだ。
女にあそこまで執着することはザップには無かったが元々動物的本能で行動する男だ、納得せざるも得ない愛人と寝ても商売で寝ても何も満足されない他のΩの匂いが気持ち悪く感じられるほど

「ザップお前Ω臭すぎるぞ…少しは配慮してくれ」

気分が悪いと言いたげなスティーブンの言葉に軽く流すように返事をする、仕方がない満たされないから満たされるまで何かを食べようと必死なのだ

「スターフェイズさん言われてた書類お持ちしました」

「嗚呼、ありがとう助かるよ本当君って優秀だよな」

「ありがとうございます、でもそんな事ありませんよ」

執務室にやってきてスティーブンとそう話をした智華の頭を撫でる、その姿はまるで信頼し合った恋人のようにも感じる
苛立ちを感じながら部屋を出ていけば智華は少しだけ目を伏せた

「いい加減素直に言ってやればいいのに」

「私にその資格はありませんから」

ザップが出ていったあとにそう言われ智華は小さく微笑んだ、彼女だって理解してる
あの男が自分の番であると、けれど彼女は家から出てきた無垢な少女とも取れた、だからこそザップに苦しめられない様に必死だった、HLで薬を飲んでも発情期はやってくるその度に堪らないほどあの男を求めたくなるどれだけ自身を慰めても収まらない熱に涙を流して何度も枕を濡らした、こんなに苦しいのなら出逢わなければよかったと
そしてあの日、あの路地裏で契約されていればよかった…なんて少し最低なことを考えた

「また発情期が来るので1週間はここに来れないので必要書類と終えた仕事全てデータで送っておきました」

「ありがとう、何かあればクラウスを呼んでくれ彼なら番がいるから問題もない」

「はい、申し訳ございませんがよろしくお願いします」

珍しくライブラに全員がいる中、仕事の話と同時に言っていた智華の言葉がふと耳に入った、Ωだから仕方ないといえど反応がない訳では無い
けれどザップは智華を対等に扱おうと努力していた、傷付けないようにそしていつか認めてもらおうと、何も知らないランチもいったことない女にまるで思春期の子供のようにも思えたがそれだけ本能が求めてきたのだ。

HL中に匂う甘い香りは智華の香りだ、どこにいても何をしても鼻に付く、求められたその熱にあいつはどうしてるのかなんて不埒なことを考えながらその熱を目の前の女にぶつける

「あーくそ、全然満足しねぇ」

部屋を出て足を匂いのする方に進めたのはザップ自身の意思だろう、異界人向けのボロい団地のような建物に一歩入れば匂いがさらに充満してザップのモノは痛いほどに反応する、これ以上行くと危険だと言いながらも身体は求めて仕方がない、匂いの1番する部屋の前でザップは立ち止まりチャイムを鳴らした

「おーい、開けろよ」

一応の礼儀だと言えどザップは耐えていた、いつもならこんな面倒なことはしない中の匂いが少しだけ変わったことに気付きふとドアノブに触れて回せば簡単にドアは開いた

「イヤっ、いやっ、たすけて」

狭いワンルームの部屋で智華は泣きじゃくっていた
そしてそんなか弱い女の上に乗った人間に見えなく無いが少しだけ違う見た目をした異界人は智華の服を乱して、目は狂気を孕んでいた

「テメェ、何してんだよ」

「はぁっやべぇよ最高だろなあお前もこの匂いだろ、後で分けてやるから待てよ、はあ」

荒い呼吸の異界人は智華の胸を強く掴んだ、発情期のΩに力などない、ただ喰われるだけの存在になったそれは弱いだけで、ザップは泣きじゃくる智華をみた
こいつを守らなければならないと即座に思った

「刃身ノ六・紅天突 」

その言葉と同時にその異界人だけに無数の刃が突き刺さった、悲鳴をあげる前に肉の塊になっていったそれを見つめたあとベッドの上で幼子のように泣きじゃくる女の上に乗った

「智華、俺と番え」

「嫌です、貴方なんか」

「ンだよ、イケメンで高身長でお前を守れんだぞ文句言うよりもそれ抑えてぇんじゃねぇのかよ」

「貴方が思うよりもこの契約は重たい…遊ばれたくなんてない、あなたの愛人の1人になんてなりたくないんです、貴方が誰よりも好きだから」

本能が告げるのだ
互いを求めて朽ち果ててそれでも愛し合うのだと
智華は初めて出会った頃からザップを欲した、けれど彼の性格を知ればそれを隠そうとするのは必然的だろう、遊ばれたくないと泣きじゃくりながらも好きだというその女を見ればザップも男だ、興奮しないわけがない

「お前だけだよ、お前だけ愛するからお前以外抱けねぇんだよ俺はもう…だから頼む、俺の女になってくれ」

懇願するように言ったザップの言葉に智華は何も言えず、ただザップの首に手を添えて引き寄せた

近頃ザップの顔に傷を負うことが増えたとレオナルドは思った、元々女好きのクソろくでなしだから今更だが何故か異様に多い
そして異様に智華と距離が近いと

「おらよ、これで満足かよ」

「考えなくないです」

そう言い残してまた出ていった智華は少しだけ嬉しそうな顔をしていた、何もわからずにレオナルドはザップに声をかけてみた

「何かあったんすか?」

「あぁ??あいつと番為に愛人と縁切ったんだよ、最後のやつとも終わったからこれで満足だろっつったらあの返事だよあのクソ女」

その言葉にもレオナルドどころかツェッドもチェインも間抜けに口を大きく開けた
これはHLの中でも1.2位を争うほどの大事件だと
今日もこの街は騒がしい、智華はそう思いながら首を撫でたその首は前と違いシルバーのチョーカーが付けられている、項あたりにZapp Renfroと記載があるが彼女には見えない
あと少しでこのチョーカーとも別れを告げるのだとかんがえながら早く繋がれと頭のどこかで言う声を必死に消そうとするのだった。


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