Les chats ne r*vent pas



教師と教え子
そんなまるで女学生が漫画で読んではときめきを感じる関係は一歩間違えれば互いの人生を破滅へと巻き込む
それでも互いを求めたのは何処か心の糸が1本掴んで離さないからだった

「ミケそろそろ先生帰ってくるよ」

ペルシャ猫のミケランジェロは膝の上でブラッシングをされて気持ちよさそうだ、先程届いた連絡を確認したところようやく仕事が終わり今から帰る。との簡易的な文だった
この家には複数の猫がいる
ペルシャのミケランジェロ、マンチカンのレオナルド、ロシアンブルーのラファエロ、ベンガルのドナテロ、サビ猫のモネ
全て保護施設から貰ってきた子達や拾った子だ、外で買えば何万円とするが里親になればただな上に可愛さはこの上ない、人間に虐げられた者、仲間と上手く生きれなかった子、親とはぐれてしまった子、様々な猫がいる中で見つけた
プロヒーローを引退して早2年、彼女はプロヒーローデビューして3年目で活動がほぼできない存在になった、敵との戦いの際の薬を打たれ個性暴走、そのせいで個性は思うようにでなくなった、それは心の問題だとされた相まって彼女は愛する者との間に子を宿せない体だとも言われた、何をすれば彼女がここまでの絶望の淵に突き落とされなければならないのだろうかとパートナー相澤消太は思ってしまった。

猫達が鳴き始め鈴の音が玄関に向かう、もう帰宅かとソファから立ち上がり玄関に向かう

「おかえりなさい」

「あぁ、ただいま」

昔と違いただいまがすんなりと出るようになった
教師であり、ヒーローであり、夫である彼は何も出来なかった、個性が暴走する中その数日前に病院で言われた言葉を受け止める彼女の姿をみて思い出したのだ、自分の存在価値を
それからの2年間はお互いに厳しく険しいものだった生徒達も事件を知っていた故に声を掛けられても返事をできず、挙句休暇まで取らされたほどだった

「おう、お前らも帰ったぞ」

「今日ねミンチ安かったからハンバーグにしたの、それとモネの病院行った後すぐ元気で走り回ってたんだよ」

「そうか、飯変わるからお前皿の用意してくれ」

「平気なのに消太って心配性だなぁ」

そう言いながら火の元を変わってテーブルの上に皿を置いていく彼女の背中を横目に見た
傷はまだ言える気配はない、教師として恋人として誰よりも一番近くで彼は見ていたからこそ彼女の事故は辛いものだった

「いただきます」

それでもヒーローの時のように彼女は笑顔を消さない、いつだって当たり前のように笑っている
安心させるように、怖がらせないように、迷惑をかけないように、2人の空気を吸ってか知らないが夕飯を狙いに来たであろうドナテロが相澤の膝からハンバーグを狙おうとするのを退ける

「猫との生活どうだ、しんどいか?」

「ううん全然、楽しいよ可愛いし消太居なくても寂しくなくなった」

「そりゃあいい、俺がいなくても泣かないなら」

「なっ、泣いてなんかないよ」

勉強はよく出来る子だった、実技もよかった、欠点としてひとつ言えることは嘘が大きく下手なことだ、隠し事もできない
今も目が少し赤くなっていることを知らないフリをした、近頃は更に敵も活性化してきたおかげで下手な傷も増えるそうすればまた彼女は泣くのだ、狭いベッドの中で名前を呼びながら声を押し殺して泣き続ける

「今夜は一緒に寝よう」

「…わかった」

同級生の山田ひざしは2人のことを『不器用』だと表した、言葉数も少ない、態度を大きく表さない
互いを見て見ぬふりをしようとした、良き友人だと相澤は何万回も思ったことだろう
シャワーを浴びて浴槽に浸かる、シルエットからしてレオナルドが風呂場の前で座っているのが分かり扉を開けてやれば少し太っているせいかドシドシと効果音が付きそうな足で風呂場に入ってきてお湯を眺める

「智華を頼むぞレオ」

まん丸と獲物を狙う目をしたレオナルドに指鉄砲を食らわせれば驚いたように走って出ていったが、風呂からあがる時にはまた陣取っては相澤の顔を見て小さく鳴いた
服を着てリビングに行けば智華はもういない、月に一度のセックスは2人を緊張させる、子供が出来ないのにこの行為に意味はあるのかと考えしまう時がある
その時は無性に彼女に謝りたくなってしまう、拒否をされたことは無いいつも笑って頭を撫でて愛してると伝える彼女にそれ以上何をいえばいいのかも分からない。
寝室に入る前に猫達の餌と水を確認して1匹ずつ頭を撫でる、寝室のドアを閉めてベッドの横に立てば細い腕が伸ばされる

「智華、今日は体育祭が終わってからの初の職業体験だアイツらの成長ぶりには正直驚かされてるがまだまだガキだなお前の学生の頃思い出しちまうな」

ぽつぽつと話をしながら彼女の手のひらを揉んでいく、ヒーローの手ではない皹の多い少しシワの増えた手になった水仕事が増えたからだろう。話しをしてからベッドの横の時計は7分進んだ

「消太、もういいからさ」

来てよ


乾いた声だ、布団が小さく開けられて顔が見える
楽しそうな顔をしている、いつだって彼女は雄英が好きだ、そこで活躍する生徒達の話も感想を言う相澤の話も、彼の声も
全てをなくしたとしてもそれさえあればやって行けると思えるほどに心地がいいもの
それを聞いて彼の腕で指で足で口で舌で鼻で耳で、敵を支配するその瞳で全てを支配される時どうしようもない心の温もりを与えられる気がしていた

「愛してる」

1度だけ彼はベッドの中、セックスをしているときに言うのだ
低い声で、真剣な目で、震えた手で
その後に彼は抱きしめてすぐ朽ち果てる、彼の長い髪を撫でながら智華はいつもヒーローの時の自分を考えていた、もしもなんていう人間のたられば思考に行き着く
その時無性に相澤を思い出す

「消太、大好きだよ」

だから終わってからそう呟くように言うのだ、返事はないただ髪が1度だけ撫でられてもう寝ろ。と言うようだった上に乗って胸の真ん中で小さな寝息を立てて寝る彼を見て小さく目を細める
1歩ずつ踏み出していこうと、それを聞いているかのようにベッドの上にラファエロが飛び乗り二人を見た

「おやすみなさいラファ」

そう呟いて目を閉じればラファエロの毛が指先に当たる、相澤消太の寝息とラファエロの喉を鳴らす声を聴きながら彼女は深い眠りに落ちる、きっともう夢など見れないとしても。


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