Don't stop me!!
幼い頃に買っていた黒のゴールデンは人懐っこく大きくて可愛かった、少しトイレに行くなり新聞を取りに行くなりしようものなら直ぐに後ろをついて回って、ボールを投げれば直ぐに取りに行って頭を撫でてと大きな尻尾を振っては顔中舐めるのだ
「ふふ、だめだよ」
待てといっても顔を舐めるんだから困ったなぁと眉を下げた、それでも可愛いのは自分の大切な家族だからだ
大きな体を撫でてブラッシングしてやりながら匂いを嗅ぐ、ふと違和感に気づいた男性の香水の匂いがするのだ
犬に香水なんて誰が振ったのだ全く可哀想に洗ってあげなきゃ、そう思って立ち上がろうとするもふと飛び付かれて地面に急降下した
自分の上に股がった犬は嬉しそうにまた顔を舐めまわした
「だめ、だめって、だめってば、コナー!」
「いけませんか?」
低い美しい男性の声と同時に目をパチリと開けた、眼前に広がるは端麗な顔の人間…に限りなく近いアンドロイドだった
ベッドの上で寝てる彼女の上に乗っかり彼は唇をまた1つ舐めた、まるで犬が舐めるように
人工知能に自我が芽生えたのはいつからだったか、人々はそれを受け入れて手を取り合い、人間とアンドロイドの差が無くなったのだっていつだったか忘れてしまいそうになるほどだ、未だ差別は消えない世界ではあるがその中でもアンドロイド達は必死に生きてそして愛や温もりを知って行った
そして、この目の前の彼も同様愛とぬくもりを知った
「だめ、っていうかコナー起こしてよこんな時間じゃない」
「まだ平気ですよ、昼番でしょう」
「そういって遅刻させられたの忘れてない、怒られるの私なのよ」
「それは申し訳ない」
さぁ起きて、とコナーが立ち上がって手を差し伸べた
その手を掴み起き上がればそっと頬に口付けだけを残して彼はリビングに消えていった、今日も仕事かと大きく伸びをしてため息をついた
ここの所はデトロイトも落ち着いてきたな。と思いながら車に乗り込む、街並みは変わらない歩く人たちも変わらない、ただ対等になっただけそれだけなのに人は皆機械を恐れた自分達が彼らを作った神であるから
機械の反逆が始まる殺されるだと考えた人々は手を打とうとも考えたがそうでも無いと言う者もいた、だから耳を貸して彼らの考えに対応した
近年ではアンドロイドと結婚式をする者も増え、アンドロイドに戸籍等も与える案が出ている、それは勿論州事でありデトロイトは特に優遇された場所である故に人もアンドロイドも増えてきた
「そこ間違ってますよ」
「この事件コナーしらないでしょう」
「少しばかり、話を聞いていたものですから」
「どうしてこう周りはみんなおしゃべりなのか」
「報告を受けるだけですよ」
「過保護ね」
「恋人ですから」
運転しながらそういう彼の横顔は変わらないように見えるが何だか少し嬉しそうだった
彼女とコナーが出会ったのはコナーが所属された時からだ、人間のように扱う彼女に機械ながら変わっている人なのだと認識をした、変異体になってからが山だった
溢れ出る感情は抑えるには溢れすぎておりコナーは彼女に夢中になった、ハンクに頼まれたコーヒーはスープに代わり、報告書はアンドロイドのクセに誤字脱字塗れ、挙句の果てには名前まで呼び始めるくらいだった
「どうにかしてくれ」
そう泣き言を述べるのは珍しいアンダーソン警部補だった
それには新米刑事の智華は目を丸くした、コナーとはそもそもよく話す方だったが変異体になってからは急激に減ったと思った、溢れる想いのことを知らない訳では無いがどこか心の中で一線引いていたのも事実だった
人と機械に恋など、不毛では無いのかと
「私はきっとダメなんです、貴方を愛する資格はない、けれどこの気持ちが消えることも無いのです」
どうしましょう。なんて艶っぽい瞳でじっと見つめたコナーにNOと答えられなかった
美丈夫で一途に愛を語る彼に負けたのだ、どんなに男が寄っても仕事にいっぱいだったのに
「コナー降りないの?」
「えぇ、アンダーソン警部補の所に向かうので」
「場所は分かるの?」
「えぇ、早めのランチにしようと誘われましたので」
なんだか妬いちゃう。ハンクとコナーの仲は変わらない、前以上の信頼が互いに出来たのは確実だ、じゃなきゃハンクから食事に態々誘ったりもしないだろう
刑事とアンドロイドが組むようになったのは少なからず彼らのおかげだ、楽しそうに話をするのは人と人だけではない
それだけでこの国がまたひとつ自由に一歩前進したということだろう、椅子に座り大きな事件もなければ延々とデスクワークだ、とはいえそれなりに仕事に追われる彼女からしてみれば漸く片付けられる面倒な仕事たちだ、事件があれば走り回り、終わればデスクで睨めっこ
「なんだよあのロボットはいないのか?」
「ハイ、ギャビン」
「もうランチ過ぎちまうぜ?」
「私今来たばっかりだから平気、行きたいならそこの美人でも誘えば?」
そういって彼には目もくれない、そもそも彼は性格が悪すぎる差別的で横暴で嫌味ったらしい事ばかりだ
それでも時折いい所はあるのだ、だから婦警とはよく話をしている気がしなくはない
「俺は智華とランチがしてぇんだよ、わかるだろ?」
「そ、残念私コナーいるんで」
「機械よりも実物のがキモチイイだろ」
「…最低」
ニヤリと笑うギャビンを睨みつけてはさらに画面を睨みつけてタイピングの指を早めた
こんなのに構うから嫌な気持ちになるのだと自分を咎めて
「怒るなよ、ホントのことだろ?」
「かも知れませんが、貴方より彼女を深く知っているので結構です」
「あ?ンだよ王子様か…つまらねぇなコレだからアジア系は高くとまりやがって」
隣のデスクを音を出して蹴ってコナーが来たことに嫌気をさしてそそくさと出ていったギャビンに深い溜息を吐いた、嫌ならば絡まないで欲しいと切に願って
「ここ、間違えていますよ」
「あぁごめんね、助けて貰ってばっかり」
「気にしないでください、貴方のイイ所を知ってるのは私の特権ですから」
そう言われて思わず目を大きく開いてコナーを見れば彼は楽しそうに頬を緩めている、それがさらに彼女の羞恥を誘って思わず保存キーを押して立ち上がり早足で逃げるように出る
「またしたな」
ハンクの声が小さく聞こえた
「すみません、怒らせる気は」
「コナー何度も言うけどギャビンに対抗意識とかそういう物を持たなくても」
「無理です、私は彼が嫌いです」
つっけんどんな態度で彼は言う、こんなあからさまな態度を取るのも相手のせいではあるとわかってながらどうも治らないのだ
「何も誰でもな訳では無い、あの男があなたに構うから腹が立つんです、ムカついて仕方ない、あいつは私に苛立たせようとしてるのはわかるが私も同じだ、あなたに…いえ、智華に話しかけて反応を見るあの顔がムカついて、仕方ない」
駄目なことは分かっているんです
まるで懇願するような悲しい声色だまるで犬だと周りが言うが否定出来ない、実際にはないがしょんぼりと下がった耳としっぽが見えた気がした
小さなため息をこぼして智華は「もうわかったから」と言い残せば覗き込むように彼女を見る
彼なりに謝ろうと思っているのだろうが十分だ、デスクに向き直して報告書をまとめていくがコナーは動く気配がない、仕方なくハンクを見れば彼は肩を竦めて苦笑いした、彼のコナーを見る目は息子のようになっていっていないかと内心思いながら話しかけられる訳でもない故に放っておいた
「おいコナーいくぞ」
「はい、では行ってきます後ここ…間違えてましたよ」
漸く声を出したかと思えば画面に触れた瞬間に修正されていったのが見えた、最初からしてくれればよかったのにと悪態を着きつつ送り出して
通報された場所に行ったりまた戻ってきてはデスクワークしたりお茶をしたり、深い夜になったコナーが先に家にいることは分かっているために真っ直ぐと車を走らせた
「おかえり智華」
ただいまと言う暇もなく彼は抱きしめてそう言う、まるで今日も生きてくれていて嬉しいとでも言うかのように、数分抱きしめた後に離れた彼から落とされるキスは甘く溶けそうな程だ
「コナー、待って」
「待ちません、もう十分‘待て’はしたでしょう」
「まだご飯してないしお風呂も」
「構いません、私もまだですから」
ねぇ、ほら私は無理です
なんて人間のように熱くなった表面温度を感じた、上を見上げれば彼の瞳は潤んだように輝いていた、唇から吐き出された息が小さく鼻の頭にかかっていつの間にかその唇が智華の唇を奪う
「ね、だめ」
「嘘ばかりはいい刑事になれませんよ」
そういって笑ったコナーの顔はまるでいたずらをした子供のような顔だった
またひとつ、唇を噛み付いた彼には待てなど出来るわけもない。
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