動機>愛


貴方は知らないだろう、感情を知ってしまった時の困惑や恐怖、そしてそれを受け入れた時の心地良さと気持ちよさは何にも変えられないことを。

デトロイトの雨が降り続いた、止む気配も無くもう一週間近くずっと大雨だ
季節の変わり目だ、異常気象だ、人によって様々な意見もなにも気にはならなかった
デトロイト市警から車で30分程の距離の家は近くにコンビニもなければスーパーもないような少し田舎町そこで起きた小さな事件
大雨が降り続きまるで滝のような雨だった、差していた傘は雨の重みに耐えるのも厳しく折りたたみ車にしまい込んだ
現場を最初に見た家の女性は取り乱して叫ぶように何かを言っていたのを遠くから聞きながら歩く
裏庭にある死体は顔も分からないほどにボコボコにされて身体は至る所に刺傷や打撲跡があった
現場検証をしていけば簡単だった、家には親子3人暮しにアンドロイドが一体

外で叫ぶ女性は妻であろうカレン
夫、ジェームズであろう遺体は指紋を見たところ一致した
となれば息子は?アンドロイドは?というものだった
2人はいない、聞いても分からないの一点張りで帰ってきた時はこうだったと言う彼女を当てにもできない

「遅れました」

「こんにちは、智華」

「ハイ、コナーどうかしらもう何かわかる?」

声をかけてきた女性の声に後ろを見ればデトロイト市警に移動してきたばかりの警部補の女性でありここに来て早5ヶ月が経過していた
この街では未だアンドロイドと人間の問題は耐えないが、それでも他の州や街と比べれば遥かに優遇された土地でもあった、だからこそ警察も増やす他ない
若いながら優秀な智華を呼んだのもそのためだ

「犯人は、アンドロイドか息子のどちらかでしょう、または二人とも」

「それはシュミレーションの結果で?」

「えぇ、でも不明点ももちろんあるので犯人はハッキリしませんが」

「十分よ、わかったことは教えてもらえるかしら」

ニコニコと笑う彼女は警察という職業に向いていないように見えた、愛想がよく話もできて嫌な顔をしているところは全く見た事もない
デトロイトにはいない人間にも感じられた、暗い街に落ちた1つの光の柱のように感じるほどに美しく思った

「…成程、死体は死後1日は過ぎてるのね遠くに行った、デトロイトから出てる可能性もあるかも」

「えぇ、人質の可能性も少なからずはあるでしょう、今日一日では難しいかもしれませんね」

「そこは私と貴方の腕でしょ?さてと、お互い頑張りましょ」

彼女はアンドロイドを機械として扱ったことは1度もなかった、まだ若い彼女は家庭環境もあるのだろうが差別等は至ってないように思えた、嫌な噂話も聞かない
だからこそ皆が彼女を信頼するのだろう

「智華警部補、これをみてください!」

遠くから聞こえたクリスの声に2人して歩き出す、息子のアレックスの部屋だった
部屋の中はほかの部屋より荒らされ写真立てやポスターはめちゃくちゃで地面に落ちた小さな日記帳もビリビリにされている、まだこの広い家の全体を見ていなかったことを思い2人は足を踏み込む

「コナーはその日記を読みといてくれる」

「えぇ分かりました」

息子のアレックスと一緒に写るのは家族でも恋人でもない男性型アンドロイドだった、楽しそうに2人はいつも笑ってインカメラで写真を撮ったのだろうまるで友達のような
智華はそれを見ながら心を痛めた2人はどんな結果であれ信頼し仲良くしていたのだと思ったからだ、机の引き出しの中には避妊具の箱と拳銃を入れていたであろう箱があった、まだ若い高校生ほどの息子なら避妊具は恋人がいるのならわからなくは無い、だがこの拳銃は?と引っかかりを感じた

「これ後で購入日調べておいて私は奥さんと話してくるから」

「わかりました」

部屋から出ていった智華の背中を見てコナーはこの事件の真相がわかってきた、そしてそれは今この街で普通であり以上である変異体の事だ
全てのアンドロイドがこの街では変異体になった、それを受け入れたのは街であり共存し始めた
それでも未だ差別や嫌悪は消えることを知らない、人間は自分よりも優秀な生き物を認めることが難しい
それ故に怯え嫌悪し傷つけてしまう

5月13日
今日初めて頼んでいたアンドロイドが来る
すごく楽しみだ

そこから日記は始まった、今から2年近く前だった
今から2年なのだからアンドロイドは途中で変異体になったのだろう、けれどそれを受けれていたのか…等と考えた
日記を読み進めれば学校のこと、家のこと、友達のこと、様々のことを書いており
1行の日もあれば2行の日も、長ければ1ページに収まらないほどまで書かれている、特にアンドロイドであるジェイクについては

9月4日
僕らは一線を超えた、愛を知ったんだ
同性で異種族であるからといって僕達は互いを貶すことも拒絶することも無い、幸せだ
ずっとこうしていたい、二人きりで愛を育むんだ

9月27日
初めてセックスをした
やり方を知らない僕よりジェイクの知識の方がまだ安心できた、教えて貰いながら拙い僕を彼は可愛いなんて言うものだから悔しくなった
可愛いのは君なのに、君が好きだ、どうしてみんなは分かってくれないんだろう

10月29日
父さんが僕らの関係を知り始めた
母さんが不倫してることは知らないくせに、僕を責めたてるだろう
とっととこんな家出ていってる、こんな家大嫌いだ
大人になってジェイクと二人で家を出てそして幸せになってみせる


「コナー、拳銃の購入日がわかったわ」

読んでる途中で声が聞こえ扉を見た
なんとも言えない気持ちだ、少年の気持ちに同情してしまう自分がいるのは隠しきれない
この世界で変異体と人間が、アンドロイドと人間が、愛し合うのは少なからず増えた、それが原因で揉め事が起きる事だって少なくはないだろう


12月20日
切れた唇が痛い
扉を閉められた、ジェイクの声が外で聴こえる、やめろよ気持ち悪いやめてやってくれ…ごめんなさい、僕が悪かったからジェイクを殴らないでください神様、僕が悪いんでしょうか
愛が罪ならどうして僕らに感情を与えたんだろう

1月9日
頼んでいた銃が届いた、重たい
ジェイクは今僕の横で寝ている、機械だから痣なんかはあまりないけれどタバコの火で肌が爛れて殴られた箇所から血が出てる
大丈夫、僕が守るから、平気だよ
あんな奴死んだっていいんだ、殺したらいつもの廃タワーに行こう彼処から夕日を見て僕らは2人で生きていく


そこで日記は消えていた、コナーは顔を上げた

「廃タワー…夕日?」

自分の知識棚からすぐにデトロイトの地図を出して調べる間違っていてもいい兎に角その場所に行かなくては

「わかったのコナー」

「えぇ、殺したのは息子アレックスだ動機は父親にアンドロイドとの恋人関係がバレたからだ」

「…そんな」

そんな事であんなに酷い殺し方をするのかと彼女は言いたいのだろう、本当に彼女は警察に向いていない気がした
人の動機なんて汚く繊細な物なのだ仕方ない、どんなものであれ自分たちに犯人の気持ちはわからない、わかる気など無いのだから
目星をつけたコナーと智華は車に乗り込んだ、応援を即座に呼んで向かった、廃タワーについて1番夕日が見れる場所を考え歩き出す

「…コナーは彼らの気持ちがわかる?」

「それは私に愛があると、聞きたいのでしょうか」

「そ、そうじゃなくて貴方だって変異体で感情があるのならあるのかなって」

そういった後にやっぱりナシ、等といった彼女に目を丸くする
こういう所が心をくすぐるところだ、彼女は嫌味が無さすぎる優しくいつだって子供のような純粋な好奇心
雨が大きな音を立ててこの廃タワーに響く、まるで少年の心が砕けている音にも思えた、階段はついに無くなってしまい奥の部屋にただ歩いていく
楽しそうな少年の声とアンドロイドの声が聞こえる
智華に日記のことは車の中で全て話した、愛し合っているのだとそれを壊そうとするものを殺したのだと
だから彼女は寂しそうな顔をした、今から彼らを撃つかもしれない、逮捕はもう避けられない、アンドロイドだって理由によっては解体だ

薄いドアの奥で2人は幸せそうな顔をして話している、簡単に想像がつく
意を決して智華はノックした

「デトロイト市警です、ただちにドアを開けてください」

静かな場所でその声は響いた
部屋の中の声は静まっていく、逃げるか?暴れるか?
どうするのだろうかと二人は1分間待ったあとお互いの顔を見て頷きあった
ドアに手をかければ簡単にドアは開いた
その先に二人は白いシーツの中で座り、現れたコナーと智華をみた

「アレックス・ウィリアムとAX500別名ジェイクだな」

コナーの声が低く2人に聞こえた、まるで死刑宣告を受けるような感覚だろう
抵抗する様子もない

「ジェームズ・ウィリアム殺害の容疑で逮捕します」

2人は何も話さなかった、ただ互いの顔を見て小さく微笑んだ、そこには確かに愛があった
人間と何も変わらない、性別も関係ない美しいだけの幸せな愛がある、智華は手錠をかけながら少年を見た

「…許せなかったんです、逮捕されてもよかったけど、最後にここで見える綺麗な夕日を見せたかった、こんな大雨じゃもう二度と無理だ」

「雨はいつかあがるよ、今はその時期じゃなかっただけ、詳しい話は署で聞くからごめんね」

「最後にジェイクにキスをしたいんです」

あまりにも大人しい2人に智華もコナーもそれを許した目を閉じることなく二人を見た
まるで結婚式の近いのような美しい光景だった、外の雨はやまない、ずっと大きな音を立てていた




「日記を読んだなら分かると思いますが許せませんでした、父は殴る蹴る所かジェイクを陵辱した侮辱し続けた、何も出来なかったのが苦しかった捕まっても殺されてもいいから愛を認められたかったんです」

「アレックスを愛しています、だからこそ受け入れるしかなかったけれど彼は我慢できなかったんです、だから昨日殺したのを見てこうするしかないと思いました、廃棄されるのは覚悟の上です」

愛しています。

二人の動機はそれだけ愛していたから邪魔をした父を殺したのだと
反省はない、後悔もない、死ねるなら罪を償うことで2人だけの世界が少しでもできたなら満足だと


「お疲れ様コナー」

「えぇ智華も」

「私、あの子達の動機に同情しちゃうの…警察としてダメだね」

「そんなことは無いと思います、私も同じですから」

大雨が止んでいた、コーヒー片手に街を歩く、事件は何も来ない
疲れがどっと体に出てきてしまう、智華は下を向いた
アレックスの気持ちに同情し、理解してしまった

「私はあなたが好きです」

人々はアンドロイドと隣同士で歩くようになった、荷物を持たせることも怒鳴りつけることも無い楽しそうに友人や恋人や夫婦のようにみんなが歩く
コナーの言葉に智華はコーヒーを飲み込んだ

「私もよ」

小さく彼女は笑った、けれどそれ以上の気持ちを言わず何も無かったような顔をして先を歩く
まだ1歩も2人は動くことは無い、ただ少しだけ彼女の耳が赤いことを除けば

「えぇ、所でランチでも行きませんか?ハンクに教えてもらったハンバーガーショップがあるんです」

「いいわね、案内任せるわよ」

「勿論です」

もう少しだけ踏み込めばきっとこの気持ちを互いに理解し納得出来るのに、内心思う
けれどそれは今でもないような気がした、その気持ちを隠すために二人はランチに足を運ぶ、早くなる鼓動は隠してまだ気付かないふりをし続けて
いつかそれが溢れた時二人は抑えることは出来るのか、まるで少年達のように爆発するのか、愛のカタチは分からない






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