ドンキホーテ・ドフラミンゴ





若様は可哀想な方だ
"家族"を求め"家族"を作り"家族"を壊してまた求めて
あぁ哀れな方だと心の底から同情し愛した

「父上、この奴隷がほしいんだえ」

牢獄のなかで薄汚い格好をする女を指さした少年はそう呟いた、美しくもない、能力もない、価値もない女を神である少年は求めた
父は大切に扱いなさいと言いながら初めての奴隷を買い与えた、奴隷は産まれた時から奴隷であった、牢獄で生まれ死ぬまでずっと陽の光も自由も分からないのだ

「フフフフフ、ナマエは今日もおもしろいえ」

「光栄です若様」

ナマエと名をつけられた女は少年を心底愛した
奴隷なのだからどんな酷いことをされるのかと思ったが初めこそ暴力に溢れていたものもゆっくりと落ち着きつまらないと判断すれば純粋な自分の遊び相手に変えた
ナマエは幸せだったここでは寒さも苦しさも空腹も感じない、残飯だってたっぷりあるし、安心して寝られる、こんなに幸せな日々はない
少年に弟が産まれた時もそうだ、こんなに小さな柔らかい生き物がこの世に生まれるのだと感動した、あぁこの家に飼われて幸せだとおもった

例え彼らが道を踏み外しても

ある日彼らは神から人間に成り下がると言い出した
そんなことは女にとってはどうでもよかった、これから先も変わらず"若様"と居られるのならばそれで幸せなのだから
だが現実は非情である、人間になれば神は彼らを見放し罵倒した気味の悪い存在だといって、そして人間は悪逆の限りを尽くした神に罰を与えた

「あんたアイツらの奴隷なんだろ??可哀想に守ってあげるからね!」

何も知らないくせに、とナマエは思った
目の前に見える壁に貼り付けられた主達に唇を噛み締めた、何度助けに戻ろうとしても人々は彼女を"洗脳された奴隷"だと思っていた
暖かい家に連れられてもう苦しいことは無いよと彼らは言った、その夜彼女はその家の人間を1人残らず殺した

「あぁ若様、私ですよナマエです、お迎えが遅れました申し訳ございません」

「ナマエ?どこにいってたんだえ」

「家を探してたんです、もう大丈夫です、さぁさ若様、ロシナンテ様参りましょうね」

主はこの少年だけだ、この子を守るためならなんだってしてみせる
町外れの民家を襲って何度もナイフで刺し殺した、跳ね返る暖かい血が心地よかった、ああ若様が昔ナイフを向けた理由がわかったと女は嬉しそうに微笑んだ
家の裏に死体を埋めて掃除をして彼ら3人を招いた、痛々しい傷を丁寧に看病して、ナマエは街に仕事に行き静かにひっそりと生きるはずだった
だがそんな簡単にも行くはずはなかった

「ほら、安全装置を外して狙いはここです」

銃声が響いた
ナマエも馬鹿じゃない、こんな男(父親)の首で元に戻れるわけが無い
だがしかしそれでよかったこれで幸せな時間が始まると確信した、何故ならドフラミンゴは王の才能があるからだ、同士を見つけて力を持とうとしたからこそナマエは自身の小さな空っぽの脳みそをフル活用して彼の力になった
泣き止まない泣き虫なロシナンテを抱きしめて頭を撫でて

「大丈夫、私が守ってあげますからね」

これはきっと"愛"であり"母性"なのだと理解した


あれからもう何十年だろうかと目を開けたナマエは思った
ふわふわのベッド、頑丈で広すぎる部屋の中、立ち上がって着替えながら右隣の部屋に入る

「おはようございます、若様」

「遅いじゃねェか」

「寝ておりましたので」

「俺との時間よりも睡眠か、いつの間に偉くなったんだ」

彼の指が動けばまるでマリオネットのように身体は動いて、彼の前に立ち尽くす、今日も変わらず大きな主を見上げていれば抱き上げられ彼の大きすぎるベッドに招かれる
膝の上に綺麗な短いブロンドカラーの髪と端正な顔が乗せられる、まるで寝癖を治すように彼の頭を撫でた

「おかしな方ですね私はあなたの奴隷ですよ?」

「あぁそうさ、そして"家族"だ」

「奴隷は家族ではなくてペットでは」

「ペットも家族さ、そうだろ?」

まだ散髪の許可の降りない長い髪を彼の指先が撫でる、彼が命じるならばどんなことだってしてみせるのだが如何せんもう歳なのか睡眠欲に負けてしまう、そのうち永眠してしまうかもしれないな。なんて冗談を思っていれば機嫌の悪そうな主の顔が見えた

「くだらねェことを考えるんじゃねェよ」

「これは失礼致しました、そうだ若様今朝はベビー5に紅茶を入れていただいては?最近お勉強途中だそうですよ」

「そりゃあいい、頼んでてくれ」

「本日は海軍の呼び出しに、国のお祭りがもう時期近いのと、カイドウ様からスマイルの発注についてのお話と」

「なぁナマエ、今はそういう時間か?」

その声に時計を見れば時刻は8:26を指している、どうやら営業時間では無かったようだ、そう考えるとなんだか眠気がやってきてしまうもので主人の前にもかかわらず大きな欠伸をこぼした
もう50になるのだから許して欲しいと思っていればその考えを理解してくれている優しい主人は怒らずに手を伸ばし頭を撫でて、ゆっくりとベッドに寝かしつける

「フフフもう少し寝てたらいい」

「あらこれじゃあどちらが主人だか分かりませんね」

「俺とお前は家族だ、気にしなくていい」

「そうですか」

ではお言葉に甘えて彼の胸に顔を寄せて目を瞑る
そっと大きな手が背中を撫でる、えぇあなたのものですよ
その傷もこのキズもあの傷もどのキズも、全部あなたが付けたものじゃないですか、と言いたくなった
それでもその傷を慈しむように確認するように彼は唇を背中に落とした、あぁ愛しの私の神様、素晴らしいこの世界に更なるスマイルを招きましょうね


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