ポートガス・D・エース




カランカランと音を立てて繁盛しているらしい店に男が1人カウンターに座った、有り得ないほどの量の食事を頼んでやってきたモノを皿ごと食べるのでは。と思う程の勢いで平らげていく

「…これ、あげるよ」

隣で1人食事をしていた女はそんな男に胸焼けでもしたのか手のつけていないパスタを渡してやればハムスターのように口を満タンにさせた男は目をキラキラとさせてみつめた

「ひひのふぁっ!!」

「あぁいいよ、すまないが触らないでくれ…あと水でも飲んだらどうだい」

嬉しそうの手が肩に乗れば女は静かに男に注意をした、まだまだ満腹にはならないのか男は更に注文をし続けた
それが約1時間前、途中寝オチをしつつも食事をした男についに奥のキッチンにいた亭主が現れもう料理を提供できない旨と支払いが出来るのかと問うた
男は案の定曖昧に笑ってテーブルの上のものを慌てて口に突っ込んだ、これは無銭飲食だと察した亭主は慌てて捕まえようと手を伸ばし男は立ち上がったがその間にドンッと音を立て女が手を置いた

「カード払いは出来るかな?」

といって、亭主は渋々と言った顔でカードを片手にレジに入り隣の男は目を丸くしたあと「あんた本当にいいヤツだな!」といって肩を触れた途端だった
男、エースの視界はいつの間にか天井を見つめており、女はエースを見下ろしながら声を荒らげて叫んだ

「だっ、だから触れるなと言ったじゃないか"火拳のエース"!!」

女のポケットからは手配書が落ちた、そう目の前の男"火拳のエース"の顔が写った手配書が
そしてカウンターにいた若い女が「ナマエ中将、火拳のエースって…」というものだから、あぁこいつ海軍かと察し戦闘態勢に入ろうとしたが亭主はそんなことを気にせずに「ナマエさん、来月カード会社にクレームを入れるなよ」と言い残して先程受け取っていたカードを渡した

「お前良い奴だと思ったのに海軍か」

「生憎私は今日は非番だ、君を捕まえるつもりもこんな市街地で戦うつもりもない…それよりいう言葉は無いのかい」

「……アリガトウゴザイマシタ」

「さぁ適当に帰りなよ、デザートが食べたいならこれで店出た広間のアイスでも買って帰りな」

そういってナマエと呼ばれた女はエースにコインを投げた、どこまでお人好しなのかはたまたお節介焼きなのか分からないがエースはそれを受け取り教えられた場所でアイスを買って船に戻った
何ともまぁ奇妙な出会いもあるものだな。と思って


ある日、ナマエに雷が落ちた
それは恋という名の雷でありサイクロンである
目の前の手配書に載る男"ポートガス・D・エース"こと火拳のエースは噂はよく聞いていた、元スペードの海賊団であり現白ひげ海賊団、若く入団したばかりの新人だが2番隊隊長であり実力はそこいらの新人よりも圧倒的なものだ
そしてなによりナマエは思った

この男、顔がとてつもなく良い

と、そうナマエはエースが好きだった
それはもう堪らなかった、彼の甘いかわいらしい顔立ち、少し重ための垂れたような瞳に、真っ直ぐで子供のような純真な笑顔、チャームポイントのそばかすに少し癖のある黒髪
全てがナマエにとっての好みであり、若くして中将になった彼女にとっての大きな嵐のような恋であった

彼女の行動は早かった、慌てて白ひげ海賊団を調べ彼らをメインで見張っている担当の者と話をつけて担当替えをし
行動を見守り、時に戦い、時に見つめた、周りはナマエが白ひげに対し何かの恨みや何か大きな情報を手に入れたのかと気にかけたがそれが恋だとは誰も気付くことは無かった

「なぁナマエいい加減海軍なんざやめて俺たちと来いよ」

「それは出来ない」

「はぁ…でも毎度決まって月に2回襲撃に来てんだからいいだろ」

「関係ないんじゃッ、よしッそろそろ引き上げさせてもらうよ、皆撤退するぞ!!」

ナマエの一声で慌てて海軍の輩は船に戻る、白ひげ海賊団とはいえこうも海軍に乗られていいものかとエースは思ったがナマエのことを察したらしいニューゲートこと白ひげは何も気にせず
さらに言えば彼女の襲撃だと分かれば出陣もせず見守るほどだった、そしてナマエは特に言わなかったが船のナース達へと言いながら海軍の物資を少しだけ白ひげ海賊団に分け与えた
あくまで一般人として乗っている彼女たちへのものだが明らかに酒やら肉やらフルーツやら多く入れてくれているナマエに彼らも感謝した
これもそれも全てはエースの為だった、自分が海軍でなければ…と悩んでしまうがこれもまた運命かと自身にいい聞かせた


「よぉ!みつけたぜナマエ」

「あまり海賊が声をかけないで欲しいね」

「非番だろ」

「だとしてもだよ」

ナマエの非番の日は必ず白ひげ海賊団から近い島や停留している島の酒屋で1人酒を飲んでいることをエースは知っていた
決してナマエに奢ってもらう気で来ている訳では無いが隣に座り出逢った頃のように食事を頼んだ

「なぁ、ナマエ本気で俺たちの船に乗らねぇか」

「だから私は海軍だから」

「なら海軍なんか辞めちまえよ、俺ァお前とあの船で色んな景色がみたいんだ」

いつになく真剣な顔のエースにナマエは彼の話など右から左へ流れそうになったがギリギリ蜘蛛の糸のような細さの理性を残した
顔が近付けられる度に胸の音が聞かれやしないかと心配になってしまう

「まるでプロポーズみたいな台詞だね」

この子供をからかうために言ったつもりだった
だがどうやら何かを踏んだらしい、ふと横を見れば顔を俯かせたエースが居てこれはからかい過ぎたかと慌てて謝ろうと顔を覗き込めば彼は目を見開いて真っ赤な顔をして唇を噛み締めていた
ナマエは馬鹿ではない、鈍感でも、鈍いわけでも、恋愛経験がない訳でもない、目の前のこの男の反応を見て察した
もしかしてそういう事なのかと。そしてそれと同時に雰囲気を壊してしまうが今すぐカメラが欲しいと思った、そして出来ることなら映像でんでん虫で映像を残していつでも見直したいと思った
耳や首まで赤くした彼の顔があまりにも愛らしくやはり最高に顔がいいな。と感じる

「エッエース、その」

「あぁそうだよ、そう思われてもいい…から、ナマエと一緒の海が見たいんだよ、ダメかな」

観念したように彼の手が重ねられる、少し垂れた瞳がいつもよりさらに眉も全て下げられた、真っ赤な顔で彼は甘い言葉を熱っぽく吐いた
あぁメラメラってここまでの威力なのかと、過去に何度も戦ったはずなのにナマエは感じた、慌てて振り払ってテーブルに現金を多めにおいて走り出したが彼は追ってはこない、つまづいて転びかけて息が切れるほど走りそしてつまづいて海に飛び出してナマエは叫んだ

「惚れるに決まってんだろォ」

訂正しよう、惚れてる
あの甘い顔に、低くセクシーな声、無邪気な笑顔はまるで子供のようで、そのくせ体はしっかりと男として出来上がっている、白ひげ海賊団のタトゥーは彼の体と海によく似合って輝く
そして彼は目を見ていつも嬉しそうに呼ぶのだ「ナマエ」と、敵だと何度言っても彼は勧誘してきた、周りの人間にバレても構わない


「恋はいつでもハリケーンなんです」

偉大なる誰かも言っていた
ナマエは目の前に座る直属の上司、大将赤犬にそう告げて正義を纏った真っ白なコートと帽子を返却した
部下達は涙を流してナマエに花束を持たせた「結婚おめでとうございます」とよく分からない言葉と共に彼らはナマエの門出を祝った、退職の話はどこかで話がねじ曲げられたのか寿退軍になってしまった
海軍本部への道を歩き、そして1歩外に出て深々とお辞儀をした
数十年過ごしたこの仕事は心地よく、楽しかった
だがしかし、ナマエは今からがもっと楽しそうだと胸を高鳴らせとある島の海に退職祝いの花束を抱えて立った

「なぁ!本当に俺たちと来てくれるか?」

「…うん、私をあなた達の家族にさせて貰えるかな」

エースの言葉にそう問えばみんなが柔らかく微笑んだ
そしてナマエはその船に足を伸ばした、新たな門出を祝うように花は風に乗って花弁を散らしていった。


「懐かしいよなぁ海軍でさ、ずっと誘ってんのに来ねぇし」

「仕事だからね、海賊に行くのも大変なんだよ…って近い近い国宝級の顔を近付けないでよ」

「相変わらずお前俺の顔好きだな」

狭い部屋のベッドの上でエースの顔が近付けられてナマエは相も変わらずの反応を示すものだからエースは呆れたような顔をして離れた
その後少ししてから呟いた

「ナマエが好きなのって俺の顔だけ?」

拗ねたような彼が隣に少し顔を隠して寝転がっていうものだからナマエは鼻から赤い液体を流したがそれにも慣れたエースは彼女の鼻にティッシュを詰めてやる

「顔が好きなのは勿論だけど、性格も魂も全部エースだから好きなんだよ」

格好がつかない彼女がそういえばエースは嬉しそうに微笑んでナマエの唇にキスを落とした、もう何度目かと思っていれば宙に赤い液体が飛び散り池を作るものだから慌てて今日も看護師やら船医を呼びに走った
ナマエの手にはあの頃と変わらない手配書があった、少し変わったのはあの頃よりもシワがついたことくらいだろう。

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