トラファルガー・ロー


※オメガバース ロー:β
・消すかもしれない



ナマエはこの船で唯一のΩだ
弱く小さくけれど"女"としての魅力に溢れた体をしている、この世界でΩは絶滅危惧種に等しい、それ故に薬は高価で何処にでもある訳でもなかった

ある日ハートの海賊団はとある島に上陸した、それこそ大きな街があり物資を補給するにはいい街だった、久しぶりに娯楽に溢れた街で皆が浮かれ自由時間を楽しんでいた
とはいえ船長であるローは浮かれるような男ではなく個人の買い物して書店や武器屋に行く程度であとは薬屋等で必要なものを買い漁り船に帰ろうとした時だった
路地裏からふと香る甘い香りに目を向けた、暗いそこはあまりに見えないが奥の方で男女が言い合いをしている声が聞こえた、普段ならば何も興味などわかず無視をしたはずだったがローには何かを感じ取り足を伸ばした

「いやっ!やめて」

女の声が聞こえた、ようやくみえた光景は今にも強姦される女と2.3人の男だった
ローが口を開いたのはすぐだっただろう「ルーム」と彼の声が届く頃には男達は不思議とばらばらになって地面に転がっており、押さえつけられていた女は目を丸くした

「大丈夫か?」
「…ご、ごめんなさいっこわかった…怖かったの」

出会ったばかりのローの胸に飛びついた女はまるで子供のように泣きじゃくった、ほのかに香る甘い香りをローは嫌いじゃあないと思った
とにかくお礼をしたいという女に流されるがまま家に連れられた
正直綺麗なアパートではなかった、街から少し離れた場所は如何にもな貧困層の町になっており彼女は家に帰るや否や慌てて薬を飲み込んでいた

「おい、なにか病気なのか」
「え…あーいや」
「聞かれたくなかったら悪いな、生憎俺は医者だ…治す方法くらい分かれば教えてやれる」
「私ね、Ωなんです…それも先天性の」

だからこれはピルみたいなもので定期的に飲む薬だといった
初めて見るΩはこんな物なのかとローは少なからず驚いた、確かに言われれば彼女の体はそこいらの女よりも魅力的な身体をしていた、それは身体が彼女を本能から女にさせるからだろう

「Ωだから仕事もまともなところってなかなか難しいし、今みたいなことも少なくは無いし、一人じゃなかなか生きるのもしんどくて」
「家族はいないのか」
「……みんなΩだったから、私だけでも生きてるだけ凄いことなんです」

その時ローは書物で読んだΩのことを思い出した、彼女達は生まれついての奴隷であり人の性を奪い子を産む悪魔の生き物だと
現実問題、絶滅危惧種程度にしかいない彼女達は男も女も扱いは奴隷と変わらない、後天的になる人間によっては自害をする者までいるほどこの性別は苦しい生活が決められている
目の前の女の苦しみに思わず彼はいってしまう

「それなら俺の船に乗ればいい、俺の船なら寂しい思いはしないだろう」
「え」
「…2度は言わねぇぞ」

呆気を取られた彼女は目を丸くしたあと慌てたように手を伸ばした

「わ、私ナマエっていいます、あなたのお名前は!?」
「トラファルガー・ローだ」

手を振り払うことも無くナマエの小さな手をローが掴んだ時、彼女は嬉しそうに微笑んだ


カツカツと広くも狭くもないポーラータングの中を早足で歩き1番下の階の1番奥の部屋に向かい荒々しくドアを開けた
酷い熱波にむせ返りそうになりながらもドアを開けたまま熱を逃しベッドの上の大きな山を崩していけば真っ赤な顔のナマエがいた

「きゃぷてん」

甘い声に濡れた瞳、下着にタンクトップだけの薄着姿の彼女の体は薄らと汗ばんでいた
発情期だった、本来これは毎月来るものだが如何せん不定期にやってくる場合がある、どれだけ毎日抑制薬を飲んでいたとしても抑えられるものではなく原因の解明もされていなかった
船の中のメンバーはローを含めβである為実害こそ出ないものの、強く匂いを察知するメンバーはソワソワと落ち着きがなくなってしまう
慌てて近くの大きめの島に到着させ仲間たちを下ろしたのが先程だった

「平気か」
「暑いし喉乾いたし…シたい…」
「ダメだ、欲に流されるなそれはお前の意思じゃない、ほら首だせ」
「ンっ、ね…元戻ったらアイス食べに行きたい、です」
「分かってる、ストロベリーだろいくらでも食わせてやる」

だから我慢しろ。といったローはナマエの首に手を添えて用意が出来た注射器を彼女の首に打ち込む
発情期を強制的に抑える抑制剤は売っている店もなければ値段も普段の抑制薬よりも2.3倍はした、ぐったりと寝てしまったナマエのベッドサイドにあったくしゃくしゃの新聞紙を気になって手に取ってしまう

ドンキホーテ・ドフラミンゴ

という文字と共に掲載された男の写真、かつて自身が仕えていた男であり恩人の仇だった
ローの中で最悪なことが頭の中で浮かんでは消える、あの男はαだむたということを思い出した
そしてナマエの突然の発情期、そして頭によぎる"運命の番"という言葉
ロマンチックだという者が多いがそんな優しく甘いものでは無い、パートナーのいないΩが出来ないように本能付けられているそれは運命という甘い言葉を使い人を誑かした
その2人が出会う時必ず結ばれてしまう、うなじを噛みつき完全なる番になるのだ

「いや…そんなはずねぇ」

新聞紙を丸めてゴミ箱に投げ込み膝の上で寝てしまったナマエの頭を撫でる、どうして自分はαでは無かったのかと思うのをどうにか押さえつけるように

「キャプテン昨日はありがとうございました」

朝から挨拶に来たナマエの顔色は元に戻っておりいつも通り体のラインの分かりにくい大きなつなぎを着ていた
コーヒーを飲みながら新聞紙を読んでいたローは「あぁ」と短く返事をした、1週間は最低でも滞在しようと考えていた為みんな出払ったポーラータングは静かであった、普段ならこの食堂も人で集まっているというのに今は2人きりだ

「朝ごはん食べますか?」
「あぁ」
「すぐ用意しますね」

キッチンにかけていたエプロンを身に付けたナマエが冷蔵庫を漁りながら朝食を作っていく様を横目に新聞紙を眺めた
じゅうっとソーセージの焼ける音が聞こえ心地がいいものだ

「卵焼きか目玉焼きどっちにします」
「卵焼き」
「はぁい」

2人だけの時間は伝えることこそないが心地よかった、ナマエは平均的な女で会話も好きだがうるさくは無い、おまけに食事も美味しく手際がいい、着々とテーブルの上に並べられた朝食達に新聞紙を片付け箸とコップを置いた
広すぎるテーブルも2人ならば寂しいものだった

「あの…何か言いたいことってありませんか」
「何をだ」
「いやそんな顔してるから」
「…昨日読んでだ新聞に何か感じることがあったか」

隠していても仕方ないと悟りローは素直にそういえばナマエは少し考えた、何を言われるのだろうかとローは内心焦りを覚えながら言葉を待っていた

「この近くの島でシュークリームが美味しいお店があるんですって、それに行きたいなぁって」

全く予想のない言葉だった、ナマエは隠している様子もみられずローは「そうか」と短く返事をして食事を進めた
子でんでん虫で仲間に連絡を取り船番を交代してもらい、抑制薬を飲んだナマエと2人街に繰り出す、隣を見れば平凡な普通の女がそこにはいたが彼女の首には決定的に違うチョーカーと言うには頑丈すぎる首輪が付けられていた

船に乗る前、いわば出会った頃からナマエの首には薄いチョーカーが着けられていた、仕事は賃金が安くあまり頑丈なものを買うことが出来ず一般的な安価で手に入りやすいものを買ったのだと言っていた

「これどうしたんです」
「気に入らねぇのか」
「いえ…でもこんな頑丈そうなやつ、高くないですか」
「お前は番が誰でもいいのか」
「そんな事ありませんけど、私だけプレゼントもらっちゃ悪いなぁって」
「お前の立場だ、あいつらもわかってる」
「じゃあお言葉に甘えて、キャプテンつけてくれますか?」
「海楼石が入ってるから無理だ」
「能力者に狙われるのも考慮してるんですね」
「一応のためだ」

シンプルなシルバーにタイガーアイを1粒付けられたそのチョーカーの値段をいえば彼女はひっくり返ることだろう、態々Ω用の首輪を専門的に作っている変わった職人に作らせたかいがあったものだと彼女の首を見ていつも思えた
大きな首元まで隠れたつなぎの下にある細い首を支配する首輪、それらがいかにローの支配欲かなどナマエは勿論、ロー自身も分かってはいなかった

「ストロベリーとミントとチョコレートと」
「腹を壊すから1つにしろ」
「じゃあストロベリーだけで」
「ミントも」
「キャプテン!」
「食べたかっただけだ」

嬉しそうに子供のようにアイスを食べる彼女の横顔を見つめた、この顔を守る為ならば何だってできそうな気だってした
それが恋心だとは気付きながらも押さえ込んでいたはずだった


「キャプテン」

甘い声が呟いた、真っ暗な部屋の中でまた布団に潜り込んでまるでマスターベーションでもしているのかと思うような隠れ方だった
腕を伸ばした彼女の体は小さく細く、けれど無数の傷跡が存在した、抵抗して付けられてきたものだろうあんな街にいたのだから仕方がない
熱い瞳が潤んでいた、熱に浮かされた体は今にも雄に食らいついて欲しいとばかりに反応を示す、ローがベッドに腰掛ければ甘えるようにローの膝に擦り寄り、手を太ももに置いた

「ねぇ…キャプテン、わたし」
「口を開くな」
「でもね」
「黙れ」

ベッドサイドに置かれたくしゃくしゃの新聞紙は伸ばされていた、そして1枚の懸賞金の紙がそこにはあった、見たくもないあの男のものだった

「運命の人かもしれない」

ナマエの口がそう零した
ローはナマエの口を己の口で塞いだ、歯列をなぞり舌を絡め唾液を求めた、甘い甘い香りは頭の中を支配していく
抵抗する様子もなくナマエはローの背中に腕を回した

「あんなやつが…お前の運命なわけねぇ」

だからといって、自分が運命の人間になれないことを彼は嫌という程わかっていた、ナマエの瞳から零れた涙を拭って何度も何度も口付けた
それでも熱を欲しがるナマエはローの服を乱そうとするものだから彼女の肩を掴み離した

「運命なんてものは呪いだ、お前は俺の大切なクルーだ、そんなクソみてぇな運命に抗え」

目を見つめてそういえばナマエは柔らかく笑った
ローはもう一度抱きしめて彼女の首に注射器を刺そうとした時だったナマエはどうにか重たい体を引きずるようにベッドの上に正座をして、ローを見つめた

「わたし…ローがいい、運命の人よりローが好き」

その熱は発情期故のものではなかった、明らかにローに浮かされていた、カチャリと音を立てて外れた首輪が柔らかいベッドの中に沈んだ
欲に浮かれながらも真剣な彼女の瞳に捉えられ思わず身体は固まってしまう

「お願いロー、私を噛んで貴方だけのΩで居させて欲しいの」

おねがい。と彼女は酷く甘えた声を続けた
ごくりと唾を飲んでローはナマエをみつめた、彼女が冗談を言っている訳では無いことは分かっていた
それでも素直にうんとは言えなかった、本当に自分でいいのかこれから先彼女を縛り付けていいのかと様々な思考が渦巻くなかナマエは背中を向けて自身の髪をかきあげた
真っ白な誰も触れることの無いうなじはまるで肉食獣が与えられる餌のようにみえた

「おねがい」


翌朝ローは食堂に足を向ければそこにはナマエがいた、相変わらず船員は空気を呼んでいるのかいないのか街に出たっきりまだ帰っては来ない

「おはようキャプテン」

明るく笑うナマエが味噌汁を作っていた
彼女の首にはいつもの首輪が着けられている

「おはよう」

短く返事をしたローはナマエに近付いて髪の下の首輪を見つめればそれは今日もしっかりと輝いていた

「なんですか?あっそれより目玉焼きとだし巻き玉子どちらにします」
「目玉焼き」

はーいと言ったナマエは忙しなく動く、食堂のキッチンにある新しい今日の新聞紙にはまたあの男が載せられていたがローは何も言わずページをめくりながらコーヒーを飲み始めるのだった。

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