ピル


「これ、飲んどいてくれよ」

そういいながら交わった重たい体で寝返りを打ちサイドテーブルを見れば小さな錠剤があり、性行為を終えた男女が渡してくるような薬なんてどんな物か社会に出たばかりの智花でも分かった
上司であり恋人になった筈のその男が特定の女を作ることなど智花の予想で言えば当然の事で何かあった時の逃げ道になれるからだろう

「ピルですか」

「嗚呼副作用とか酷くないみたいだし、避妊以外にも効くんだろ?もしあれなら貰っといていいよまた貰っとくし」

「分かりましたでは」

スポーツ飲料と一緒に飲み込んだ薬はなんの味もしなかったが、虚しさを心に残した
ベッドの横に置いていたゴミ箱には薄蛍光色で透明なゴムに白濁の液体が混ざって頭をくくられてティッシュと共に捨てられている
広いベットから体を起こして足を地面につける頃にはパートナーは用意を終えたのか携帯をみて一言お金と共に残して出ていった

霧の深い夜、ラブホテルから出てしまうとネオンと霧の混ざった街の景色は不気味だがどこか魅力的に見える
家に帰ろう。と溜息をこぼして瞼を少し閉じれば先ほどの行為を思い出す、愛を囁くわけでもなく愛されると実感する訳でもないセックスに寂しさが積もった


「じゃあ僕と付き合うか」

上司の部下という関係で飲みに連れ出された霧がまた一段と濃い日、スティーブンはいつもと違い少しお酒を飲み過ぎたように赤い頬をしてその魅力的な首元を緩めていた、答えを出せぬまま酒に飲まれたと嘘をついてそのまま飲んでいたはずのバーの裏通りから歩いた先のヒューマー向けのしっかりとしたラブホテルに流れ込んだのが初めだった
暴かれてぐちゃぐちゃにされて甘やかされて囁かれて噛み付かれ全てをさらけ出した

「天国見れただろう」

そう言って笑う彼はまるで悪戯をする10代のような笑顔だった、その顔は自分だけが知るものだとその時の智花は思ったがその関係が2.3ヶ月続けば何となく察した
大人の付き合いというのはこういう物なのだろうと、同僚には言えない関係を持って胸を張って付き合ってるとも言えない、そもそも恋人であるのかもわからないその関係に智花は少しずつ疲れ始めた
毎月渡されるピルも飲みなれて生理が来なくなるのは有り難いもので焦りながら妊娠検査薬を買った日に何も無かった時、寂しいやら嬉しいやら分からない気持ちになったことは最近の記憶だ

「薬あってる?もし合わないなら言ってくれ別の貰ってくるから」

「大丈夫ですよ」

心配せずとも迷惑掛けませんよ。と智花は思ったスティーブンと関係を持つのはこれはセフレ以上部下未満であり恋人以下なのだと認識した
仕事人間の男に恋をしたのが間違いだろう、智花はある日の夜一人で行ったバーで声を掛けられた鷲鼻の少し癖のある黒髪の足の長いスタイルのいい男についていった、沢山の愛を受け取りながら

「これがよかったの」

なんて言葉を漏らせば男は心底楽しそうに嬉しそうに智花の頬にキスをして奥に突き進めた
次の日の朝、家のチャイムが壊れそうなほど鳴り響いたぼろ家のチャイムは近所にも響きやすい為に寝惚けながらドアを開ければ大層機嫌の悪そうなスティーブンがスーツ姿もボロボロに伊達男なんて言葉を忘れそうな姿で息を切らして立っていた
智花が彼の名前を呼ぶ前に部屋に押し込められて手を引かれてワンルームの中を占領するベッドに座った

「浮気は酷いんじゃないかハニー」

青筋を浮かべて怒る彼に心底理解できず智花はクエスチョンマークを浮かべたことに更にスティーブンは怒り無茶苦茶に抱いた、泣いて叫んで謝り続けても止めずに今までよりも激しく酷く抱いたバックで騎乗位で駅弁で犯し続けた
重たい体のせいで体は起こせないで身体に違和感を感じて下半身を見れば白濁に汚れており、スティーブンは智花の持っていたピルを全て凍らせた上で窓から投げ捨てた

「何してるんですか」

そういった彼女にスティーブンは嬉しそうに微笑んでいった

「孕みたいなら早く言ってくれたら良かったのに、僕には君だけだってのに酷いなぁ」

どうやら私は勘違いをしていた、この人の愛は歪んでいたからせめてもの彼なりの自衛行為だったのだと気づいた時には彼の血は濃すぎたようだった


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