夏の暑さに殺されろ

死という概念とは何かと縁が深い仕事に就いている
だからこそ死を怯えて驚くことは無かった
8月27日、某所
和泉智花は死んでいた、湧き出た呪霊を倒すだけの任務は成功だったが失敗に終えた、五条悟は和泉智花という女を敬愛している、無邪気に笑い人の為によく泣いて怒ってそして笑う悪さを教えるのはいつだって彼女だった

和泉智花は死んでいた
真夏の太陽の下で何週間も放置された末に発見されたその姿はウジが少し湧いていて、ハエが集って、痩せこけて、腹に大きな穴を開けて、色の薄くなった瞳が大きく開かれている

報告は上がっていた二級術士の智花が1人で任務に向かうも任務は達成したが帰りしなに宿儺を手にした特級に腹を突き破られ殺されたのだと
その後特級の処分は五条の手によりされるも発見された智花の姿は酷く、彼女を知る人は皆悲しそうに目を伏せた



「五条みっけ」

「うわつめてぇ」

「甘いの好きでしょ半分こしよっか」

真夏の暑さにやられて建物の日陰で授業にサボって居眠りしようとしたのに相変わらず気配を殺すのがうまいひとつ上の先輩和泉智花は悪戯に成功した子供の顔で白い歯を見せて半分になったパピコを渡してきた
甘ったるいコーヒー味は久しぶりで暑すぎるその体を一瞬だけマシにさせる
サボることもサボり方も力の出し方も全て智花は教えた、彼女は不真面目な人間だからだ
真面目に生きるとこの業界はしんどいからと、7割力を抜いて生きるのがいいと五条に言ってやったよく焼けた肌も少し見える八重歯も好みじゃないけど智花がしてるととても似合うベリーショートも
五条悟は智花が好きだった

「先輩任務ねぇの?二級って暇なの」

「ばーか特級様たちとは別で忙しいわ…けど強制じゃないからね、私は今月もう決めたぶんやったから残りは休みなの!」

「ふぅんなるほどね、つか智花さんさこないだ貸した漫画は」

「あ、まだ読んでないや」

悪びれもなく舌を出してごめん。なんていう彼女に呆れて物も言えずに2人して日陰の下で空になった容器を膨らませたり吸ったり繰り返す
悟にはちょうど良い相手だ、親友でも同級生の女子でもそのほかの強い先輩でもない弱くてけれど芯が強くて何処までも自由に羽ばたけそうな人、恋心が1滴だけ混ざった純粋な憧れなのだろう

2人きりで夜中にホラー映画を見ることや、花火をすることも、時折キッチンを借りて食事を作ってあげれば子供みたいに喜んで食べる姿
つまらないB級ラブストーリーに泣きわめく姿を見て馬鹿みたいに恋しくなった、キスをするこも手を繋ぐこともなく映画を見て時々自分の肩に彼女の頭が寄りかかるだけで気持ちよくなった

「…楽しかったね」

散々泣いて鼻も目も真っ赤にさせた女が言うセリフがそれなのか。と思いながらもぶっきらぼうに面白くなかったと思いつつ返事をすれば映画を熱く語る彼女はまるでオタクそのもので、その楽しそうな横顔すら何だか心地よくて酒も飲んでないのに酔ったような心地になれた
3年になったばかりの頃智花が隠れて酒を買ってきた日があった、2人で部屋の中で1本を半分にして飲んでベロベロに酔ったのを感じた日に自分は酒がダメだと直ぐに認識したのに智花は負けじと苦いビールを飲み続けるようになった

「悟ってさぁ好きな子いないの?」

「好きな子ってここじゃ限られるだろ」

「私さ、こないだ原宿まで買い物行ったらナンパされてさぁめっちゃイケメンだったんだよ」

「俺のがイケメンでしょ」

「うーん」

悟のサングラスを外して智花がじっくりとその瞳を見つめた、じろじろと顔を見られるのは恥ずかしいが自分の事は他人よりもずっと整った顔だと認識をしている、少しの嫉妬だろうが負けたくはなかった

「やっぱり悟の方がずっとイケメンだね」

そういってまた白い歯を見せて彼女は笑った、毎夜二人で何かを過ごして、毎日何かイタズラやサボりをして笑った
子供の頃なんて好きではないが和泉智花と過ごした時間は大人になろうとする成長途中の悟に大きく影響しただろう


真夏の暑さにやられて廊下の真ん中で寝そべった
和泉智花は死んだのだ
親友であった夏油傑も消えていった
毎日のように誰かが死んでいるように感じる程だ、黒い服は太陽の熱を孕んで暑さを増やしていく、額から垂れる汗、体から溢れる汗が気持ち悪いのに動く気も起きない、サングラスの奥で彼の瞳から零れる涙は彼にしかわからない味だ
こんなにも夏が憎く苦しいものと知りたくないのに知ってしまったその味を苦虫を潰したように味わって喉の奥に流して、そして彼は呟いた

「…暑いよ、智花先輩はやく俺を」


たすけて。
とまるで置いていかれた子供のように悲しい声を出した、その声は蝉の声にかき消されてゆっくり消えた

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