かっ飛ばしてホームラン


「やったやったよ、見た?今のホームランだよ」

人気の少ないバッティングセンターで大声を上げて喜んだ彼女は大きな電子音を聞いて満足そうだった
同級生の和泉智花はヒーロー科に所属しても可笑しくないようなヒーロー向け個性持ちの子だ
明るくて元気でクラスの中心的な姿はそれはもう将来はヒーローだと言えるほどだし、噂程度だがヒーロー科にスカウトされた話も聞いていた、そんな彼女と用事があってたまたま夕方に教室にいた心操は特別話す訳でもないのに声をかけられた

「心操くんってさバッティングセンター行ったことある?」

「いや無いけど」

「じゃあさ、一緒に行こうよ」

拒否権は無いと言うような言い方で満面の笑みを見せる彼女に否定することも出来ず、テスト期間中に珍しく勉強もせずに早く終わった学校帰りにやってきたバッティングセンターはガラガラだ
コツを掴めば何となく球は当たるようになり力をつければよく飛ぶ、ヒーロー科に移動しようとしてる現在力を付けるにはいい練習にもなると感じてひとつ奥で大きく空振りした和泉をみた

「はー、難しいねこれ」

30球を何とか終えて買ったばかりのスポーツ飲料を飲んだ和泉を見ていれば欲しているように見えてたのか手渡される、関節キスとかこの子気にしないんだな。と少し思いながら有難く受け取る
和泉智花はよくわからない人だ、明るくて楽しくて誰にでも人気なのに折角チャンスの大きい高校に来てまで普通科にいるなんて勿体ないとしか感じられなかった

「心操くんってヒーロー科目指してるんでしょ」

「うん和泉さんは何でヒーロー科に行かなかったの」

「私ヒーローなんか向いてないってわかってるもん、誰かの為に傷付くのも誰かの為に戦うのも私には無理だよ」

だから、そんな風に考えて目指せる心操くんはカッコイイね。
なんて彼女は大きく笑ったのが印象的だった

それからたまに放課後どこかに出かけるようになった、基本的にスポーツが好きらしい彼女はバッティングセンター、ボーリング、卓球、バスケ、テニスなんて色んなものを2人でやった、ルールを知らなければわかりやすく教えた
相澤先生に教えて貰う時間が増えたが彼女は変わらず誘ってくれて息抜きをしてくれた、ヒーロー科に決まった時は自分以上に泣いていた

「明日からはもう一緒のクラスじゃないんだね」

「…嗚呼、別にでもまた会えるし」

「今日の帰りバッティングセンター行こうよ、ホームラン打ったら私伝えたいことあるんだ」

少し赤くなった彼女の頬に胸が高鳴った
こんな個性を持っていてあまり人に好かれるようなことは無かった、良い噂ももちろんのことだ、だから純粋な友達付き合いをしてくれる彼女に少なからず何かを思うのは当然だろう
放課後になって、いつもより口数少なく隣を歩く、頭1つ分程小さい彼女の伸びたまつ毛とか薄いメイクとか全部を意識してしまう
券売機で30球の400円の券を1枚ずつ買ってホームに立つ、グリップを握る手は今日はえらく力強いと感じた、いつも通り110キロのコースに入った彼女が券を機械に入れてバットを握って構える背中を見てれば喉が鳴った
大きな電子音と共に自分の所にボールが打ち込まれて何度も球が飛んでいく
真上の方のホームラン判定の入る機械はまだ大きく音がならない
球数はあと2球、あとから始めた智花はまだまだあるだろう、ボールはいい音を立てて前に飛び出すもホームランまでは届かずに終わりのベルがなって出ていって彼女の背中を見つめるように110キロコースの部屋の中を見つめた

小さな体と不釣り合いなバット、あと6球と表示があり調子は悪く無さそうだ
球数がへっていきあと2球の時だった、ボールは綺麗に真ん中にあたって高く打ち上がりホームラン判定のそこに当たった、人の少ないバッティングセンターじゃその音はうるさすぎる程だ

「やったやったよ、見た?今のホームランだよ」

目を輝かせた子供みたいに言って後ろを見すぎて最後の球は虚しく背後のクッションにあたって地面に落ちていった

「心操くんあのね」

帰り道の道路はまるで真夏のように暑い、緊張して手の中が汗で蒸れている
悟られないようにいつもの低い声で「うん」と声を出した

「人使くんって、呼んだらダメ?」

顔を覗き込んでそう言った彼女が可愛くて、あっこれが好きなんだと理解した時には先に手が出て彼女の鞄を持っていた筈の手を汗で蒸れた手が掴んだ

「いいけど、俺も聞いて欲しいことあるんだけど」

「…うん」

「和泉さんのこと好きなんだ」

そういったら彼女は顔を真っ赤にさせて溶けそうなくらいそう、完熟のトマトみたいな赤さでいう

「ホームラン、打ったらね」

その日から時間があれば彼女を誘ってバッティングセンターに連れ出した、馬鹿みたいに必死に打ち続けた早くホームランになれよと大きく叫んでしまいたい程強く打って
けれど知っているそうして足掻いてる自分の背中を彼女が特別好きなことを、だからまだどうやらホームランという奇跡は少しだけ足をおそめてるらしい。


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