いい大人にならせてよ


先生は言った

「正直君に言いたくはないけれど、君はセックス依存性かもしれないね」

低い心地いい声、長い美しい髪に綺麗な切れ長な瞳、椅子に座る先生は長すぎる足を組んだ
この病院に来るのは何回目か、婦人科ではないが婦人科の先生よりも優しくてわかりやすくて安心できるがために関係ない筈のトップクラスである彼に救いを求めた

「依存なんてしてないです」

否定的な言葉に先生は柔らかい整った眉を八の字にした、先生は様々な面で詳しく人の精神も体も治療出来た、この世界でラップが上手い男は価値がある、ヒプノシスマイクの所有者に選ばれるのは大層価値ある事だ
だから彼は直そうとしてくれた、なのにいつも失敗する気づけばまた知らない朝を迎えて、枕元にはクリスマスプレゼントみたいにお金が置いてある
16歳の価値は大きい、若い女の価値は昔から高いと聞いてはいたが男相手にするとここまでなのかと正直思った

「君は心に傷を負っているんだよ、だから価値が分からない和泉さん、君はセックスしなくても生きていける」

「別にしたくてしてるんじゃないです、求められるから…私の夜を欲しがるから」

ただお金で上げてるだけ、お金が欲しい為に抱かれるわけでなく夜の暗闇が怖かった、気づいた時には母の彼氏に性的な事をされて外に出れば痴漢に不審者と人よりもはるかに性的な事に遭遇してきた、だから今更で目の前の医者の腕が伸びてきた

「じゃあ今晩からは私が君の夜を貰おう、それならいいかな?」

これは治療なのだ、哀れんだ神宮寺先生が私を救ってくれるのだろう
人は彼を神や天使、ナイチンゲールだなんて例えるだろう、幼いながらも智花も同じように思えた広い新宿のマンションは見るからに高そうで16歳の自分があまりにも小さく感じられるほどで隣に立っている仕事終わりの彼は気にせずに自動ドアの奥に入る
夜を欲すると言うが彼の言う夜は平穏だった、けれど智花は飢えに飢えた今まで毎夜求めあった動物的なあの行為がしたくて堪らずに自分で慰めようともしたが隣で眠る寂雷は智花を優しく抱きしめて頭を撫でる

「辛かったね、慰め者にされて、酷い大人に利用されて可哀想に」

まるで母のように父のように兄のように、ただ一筋の光を彼は与えた、1人で外にいると堪らず男を誘いそうになる、学校へは行っているが友達といれば一時的に忘れることが出来る、学校を終えて遊び終えれば寂雷の居る病院に行く、時折チームを組んでる男2人とも顔を合わせた、彼らは優しく頭を撫でて妹のように扱ってくれた
大人が優しいのは夜のベッドの中でだけだと信じていた、頭も悪い自分など相手するのは摂取する側だけだと理解していた

「最近遊んでくれなくなったね」

目の前で珈琲を飲む小太りの男が言った、そう言えばこの人37だっけ?とふと思いながら目の前のオレンジジュースのストローに口をつけた

「智花ちゃん欲しいものないの?」

「うんないよ」

「もう飽きちゃった?」

「…そんな事ないと思う」

「セックス好きでしょ」

淫乱だもん智花ちゃん。彼の口元が嫌なくらい歪んだ、この人がいちばん長い客だった、たまたま学校帰りに再会した彼に付き添ってカフェでお茶をした、寂雷先生と年変わんないのに汚いな。なんて残酷なことを思いながらも目の前の男に言われたセリフが子宮を刺激する、正直欲しいこの際もう店の中でもトイレでもなんでもいい抱かれたいもう2ヶ月近く我慢した、短いはずの時間が永遠に感じた

「ね、智花ちゃん俺のこと好きでしょ」

好きなのはセックスだ
誰でもいい慰めてくれるなら、寒い冷たいベッドが嫌だ、殴られるのはもっと嫌だ、黙って静かにしていれば暖かい夜を迎えられる
歌舞伎町の北方面のホテル街の前で手を繋いだ所を先生が見つけた

「智花さん何してるんだい」

「寂雷さん…」

「え?え、どうしたのって神宮寺寂雷って智花ちゃんの知り合い?あっお客さんかぁすみません今日僕の番…で」

初めて見るような先生の怖い顔だったが一瞬で消えた

「申し訳ございません、お借りしても?」

「えぇ、勿論」

伊達にヤクザとか不良高校生とかと絡んでないんだ。なんて雑誌での情報を元に思い出したデータ
先生の足は長くて早い、新宿の街がコロコロ変わるように感じる、先生は無言だったいつも通りの住み慣れ始めた部屋の中で先生はベッドに座りみつめた

「身体が寂しいかい」

「分からないです、ただ私やっぱりセックスしか出来ない馬鹿な子なんです、だから先生に良くしてもらってるのに上手くいかない、オナニーしようとするし男の人見るとセックスしたい頭がバカみたい」

「…おいで」

寂雷先生の白い肌が見えた、ベッドの中で互いに裸なのに確かに彼は勃起しているのに求めない
ただ静かに抱きしめて頭を撫でるのは子供をあやす親のようだった、トクトクと心臓の音が聞こえて生きているのだと実感する

「これでもまだしたいかい?」

「…ううん、今は寂雷さんとお話したい」

「君はセックス依存性だというのは私の間違いだよ、君は寂しがりだけで寂しさを埋めるためしてるだけ」

まるで本を読むように彼は優しく語り掛ける、1度足りとも確かに求めたことなんてなかった、誘われてその誘いに乗ってお金を横目に朝を迎えるだけの日々
長くて艶のある髪が顔をくすぐった

「ねぇ寂雷さんは、私としたくない?」

若くてスタイルは悪くない、顔はまぁその人次第の価値観だが
そう言うと彼は目を丸くした後に言う

「いつだって智花さんを抱きたいよ」

太ももに触れるのは確かにいつも味わう熱だ、けれど…と彼は続ける

「智花さんが大人になる時、その時に初めて君を欲しいと言うよ」

だからそれまでは何もしない。まるで優しく残酷に彼は言うがそれだけでも嬉しくてそっと彼の暖かく白い胸元に顔を埋めた
ぐちょりと音を立てたのは、きっと気の所為なんかじゃない。


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