クリスマスツリー


あ、俺今余計な事してる。って気づいたんはその部屋入ってからやった
いつもみたいに寒いし蘆笙の家であったまって待っとこ思ったのに玄関に踏み入れた瞬間聞こえた甘い喘ぎ声
あいつも男やなぁ思ったのに蘆笙の声に固まってもたんや

「智花好きやぞっ」

「うんっ、うちも」

頭を殴られたような感覚やった思わず忍者みたいに足を抜き足差し足狭い1LDKの部屋の声のするとこに行ってドアが薄く開いてる所から覗けば余裕も無いほどに乱されて抜け落ちた下着が目に入る
女物の黒に濃い紫の下着に見覚えがあって、ベッドから見える蘆笙の下の黒髪は紛れもない自分の友人で、片想い相手だった


出会いは確かに同時だった、智花はピンの女芸人でその辺の下手な見た目だけで笑いをとるよりも口で人気を取った、お笑い芸人なんてなる予定なかってん。という割には勉強熱心で気難しい相手でも必ず笑わせるか実力で納得をさせた
中々売れない芸人たちの中でも智花はそれこそよく売れたがいつの間にか芸人をやめて劇団の座長からお笑い事務所の社長にまで上り詰めていたのは知っていた
そんな彼女の実力と笑顔に惚れないわけがなかった、楽しく笑い全力をだしきって裏表もないように振る舞う

「さーさらー、何しとんよ」

「え?智花やんどないしたん」

「ウチは仕事終わり、蘆笙くんの家行くねん」

「俺もやわ、お土産買うてきたからみんなで食おや」

「そう言うなら…ほらどや?酒ぎょうさん買うてきてん!」

「ナイスやないっすか」

「うわぁ寒…ほんま自分おもろないわぁ」

寒空の下で2人してけたけた笑って子供みたいに蘆笙の家に向かって、待っていた蘆笙の家で鍋を囲んで話をしてテレビを見る
3人では狭い1LDKの家が心地よくていつだって目を閉じれば思い出せた、下着姿の智花を見た日には2人して蘆笙の家なのに叩き出されて怒られたし、恋人が出来ないからチャンスはあるか。なんてなんとなくも思っていた
どんな道を進んでも智花だけは背中を押してくれた、いつだって2人を思ってずっと3人でトリオのように生きてきたがいつまでもそんな日々は続くわけがないと理解していた

「うちさ、劇団潰して事務所作ろかなー思って」

「嘘、そんな金あるん?」

「パトロンが付いてくれとるしその人が作った方が儲かるし金なら出したるって」

「誰なんそれ」

「…〜さん」

ピンになって人気が出てから智花と会う回数を減らしたが、会う時は個室や家や車やらできるだけ狭く2人きりになれる場所にした
智花から出た有名人に目を丸くして背中を押せば嬉しそうに笑った、大阪の夜景を見ながら話をして運転するのはいつも智花だ

「簓は気になる子おらんの?」

「今はなぁうれとるし変なスキャンダルはなぁ」

「ウチ相手でも危ないやん」

「智花は友達やないか」

「うん、そやなスキャンダル取られたらお互い面倒いけど周り殆どうちら仲ええの知っとるしなぁ」

「そやそや、心配せんでもええやろ」

昔呟いたはずの友達という言葉が今更胸につっかえていた気がした
ギシギシと鳴り響くベッドの音、聞いた事ない甘い智花の声、痛いほど持ち上げる自分の股間が吐きそうな程最低だった
頂上はいつだって1人だ、昔誰かがテレビで言っていた言葉その言葉通りに事が進んでいる気がした
抱かれてる智花と目が合えば思わずびくついて部屋を出ていく、あそこにいると気が狂いそうだ
泣きそうな自分と性に素直な自分と蘆笙に酷い嫉妬を抱く自分と、色んなものがせめぎ合う

暴れん坊将軍の着メロがなった、智花からの電話だ

「ど、どないしたん」

思わず声が仰け反った

『見てたやろ、簓のえっち』

枯れたような声が嫌にセクシーで嗚呼事後かいな…なんて冷たい感想が頭に浮かんだ
流石に蘆笙は居ないのか声はしない、ライターの着く音が聞こえてベランダか…と思いながら自分のポケットをまさぐった

「ビビったで自分らそんな仲なら言うてくれたら良かったのに」

『驚かそ、思ってたんやん』

「そか、蘆笙の事好きやったんやな」

『普通より好きなくらい…別に簓でもよかった』

その言葉は何処までもこの女をクズにさせる言葉でもあるし、最高にさせる言葉なのだろう
ポケットの中はカラで飴玉もタバコも何も出てこずに苛立ちを覚える

『でもうちら"友達"や言うから、蘆笙の告白に答えたよ泣きながら大事にする言うから…うち蘆笙と付き合ってん、だから…またね簓』

ぶつっと聞こえなくなった携帯の音に思わず馬鹿みたいに画面を見つめても変わらない
ポケットは空のまま戻りもしない、いつだってクリスマスツリーとおなじ1番上には星はひとつしか存在しないのだろう。


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