perfume


天才だと言われることは慣れている、努力を惜しんだことは無い、こんなに完璧な個性を持っていて、こんな強い力を持ってるのだから使わないわけがない
ヒーローに憧れないわけがなく、そう考えれば何だって努力したら手で掴めるような気がした
夢も、願いも、人の心だって

7つ上の幼馴染は赤ん坊の時から世話焼きで五月蝿い姉貴の様な存在だ、長い髪の毛がいつも柔らかいシャンプーの匂いがしていてその匂いに安心する

「かっちゃん何してんの」

「なんもしてねー」

「帰らないの?」

「帰らねぇババアが帰ってくんなつったから」

「じゃあ私も帰らないでおこうかな、かっちゃん居ないと寂しいもん」

親と喧嘩をした頃も起こるわけでもなく黙ってそばにいてくれる手を引いて歩いてくれる、勿論全てを肯定的に生きてる訳では無い、彼女は時に親のように怒ったし優しくもした、飴と鞭が得意なのだ
7つ年上のその人に初恋が芽生えるのは必然的なことだったのだろう、優秀でかっこよくて綺麗なその人に誰もが憧れる
友達や同級生にいつだって囲まれて中心で笑うのに、それを置いてまで自分のところにやってくる姿に優越感に浸らないわけがない、自分以外にも幼馴染のあいつだって恋をしてる、誰にかなんて言わなくてもわかる、何処までもライバルなのだ

「高校遠くなっちゃうんだよね」

「遠くなるのかよ」

「うん、したい事とかはあんまり無いんだけどそれなりにいい高校行っといて損はないってお母さん達言うから」

「そうかよ」

小学生にはあまり興味もなければ理解できる話でもない、けれどあまり会えなくなるのかということは少しだけわかる7つも上だと小学生の頃から学校はいつだって被らない、先を歩き続ける彼女の背中を追い続けていた
中学2年のお年玉を貰った時にふと、誕生日の近いあいつに何をやるか…なんて考えながら学校帰り商店街を歩いた
女は甘い匂いがして、その匂いが好きじゃない、シャンプーの匂いしかしないアイツもいつか別の匂いになるのか?なんて考えながら百貨店に入り匂いのきつい化粧品コーナーに足を踏み入れた
キラキラと輝いて色んな形や匂いをさせる香水専門店、21歳にもなるのに化粧も薄く香水もしないアイツには丁度いいか…なんて少し値段の高いシトラス系の匂いの香水を買った

「久しぶりだねかっちゃん」

「やるよ」

「えーなになに、かっちゃんから貰えるなんて嬉しいなぁ」

いつの間にか自分の追い求めているオールマイトの事務所の事務員なんかになっていた、縮むハズの距離はいつも離されていく、心が虚しいだなんて感じながらもどちらかの私室で会うこの時間だけはいつも昔と変わらないのだと感じられて心地よかった
あの幼馴染だって知らない2人だけの時間はまるで悪いことをする気分だ
香水の蓋を外して手首にワンプッシュすれば、選んできた時のその匂いが強く香り、今までのあの柔らかいシャンプーの匂いが消えてまるで人が変わるように思えた

「気に入ったかよ」

「うん、凄くいい匂いだね、かっちゃんはどう?」

顔をそっと近づけて首元に付けた香水の匂いを嗅がせる女の匂いをさせた彼女を押し倒した

「…かっちゃん?」

「あほ面してんじゃねぇよ」

見上げてきたその顔に思わず心臓が大きく跳ねた、思わず固まった後にデコピンを食らわせれば情けなく声を上げてまた起き上がった
それからだろう年々彼女はまた女に変わっていく、メイクの雰囲気や髪の毛の色や香水の匂いだけはあの時とずっとおなじ

プロヒーローになった後も誘っては見たが断られたのは悪い思い出だろう
大人になって実家を出たのに家は高級マンションの隣同士だった、挨拶に行った日はよく覚えている
酒をよく飲んで結婚やら恋人について悩む姿を見てはいつも何も言えずに世話を焼くのはいつの間にか逆になった

「ねぇかっちゃん」

名前を呼ばれる度にある日の過ちを思い出す、身体の寂しさを埋め合ったあの日、朝起きてから「ごめんね」と謝った時の顔はあまりにも馬鹿らしく思えた

「んだよ」

「ありがとうね」

自分の作った夕飯を食べながら智花はいう
俺の知らない女に変わりながら、答えを教えてもくれないずるい大人になって
香水の匂いだけは変わらないズルい女

「泊まっていく?」

その甘い言葉に返事もせずに、同じベッドで同じ熱を分かち合うのはまるで互いの傷の舐め合いだ
部屋に香る香水の匂いはあまりにも悲しい匂いに感じるのは自分が大人になったからだろう。


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