あなたに優しい理由はね
「ぬァァー!死ぬんだぞ!智花がしぬ!」
「グリムちょっとま……ってって言ってるのに」
大きな叫び声と共に目を覚ました休日の朝、深いため息を第一声に吐くとは思いもよらなかった
この世界に来てはや1ヶ月近く、そういえばそろそろかと言う時期だった気にしてない訳では無いがこんな世界に来て頭を着いて行かせるのがやっとの事だった、一緒の部屋で暮らすグリムが大声で叫んで出ていったが彼の叫ぶ原因となった白いシーツの上に赤いシミを作ってしまったベッドを見た
別に女を隠している訳では無いが、女性を知らないらしい猫は大慌てで外に飛び出した、誰かを連れてくるか忘れてどこかで何かをしているだろうと思い目の前のシーツをとにかくどうするか悩んだ
「サムさんに聞いたらあるかなぁ…」
そう呟きながら姿鏡に写ったズボンを見れば灰色のズボンも赤黒くおしりの部分が汚れていた
どこの世界でもこの悩みだけは消えないのか…と嘆きつつシーツ片手にシャワーに向かい朝風呂を浴びた
お湯とともに流れる赤い血にこれからの1週間程はしんどいのかと思いつつこの後はどうするかと悩み体を拭いて下着の間にトイレットペーパーを挟んでいた時だった、部屋のチャイムが大きくなった
「はい?」
「俺だけど、今大丈夫か」
「トレイ先輩ですか、すみませんすぐ開けるので待ってください」
思わぬ先客に驚きつつもクッションやら何かで汚れたベッドを隠しつつドアを開ければコンビニ袋のようなものに何かを持ってやってきた自分を甘やかすことが好きらしいその男が来た
「グリムが朝から来てな、エース達に言ってたんだが俺のところに来たから必要そうなもの買ってきといたけど足りそうか」
「えっ、そんな申し訳ないです本当助かりますちょうど今買いにいくかどうしようか悩んでたところなので」
「そりゃあよかった、俺もあんまり詳しくないけどしんどいんだろ、薬とかあるから必要なもの飲んでおけよ」
相変わらずお兄ちゃん肌の強い彼に頭を優しく撫でられて袋を片手にもう一度トイレに逃げ込んだ、学校の購買には何でもあるとは聞いてはいたがまさかここまで揃っているのかと感心しつつベリッと大きなテープの音をたてた、ふと袋の中を見れば丁寧に黒色のショーツが入っており有難く其方も袋を開けて履き直してナプキンを貼り付けて部屋に戻る
部屋の中で気にもせずにシーツと布団を手に取るトレイが洗濯機の中に入れていくのを見て目を丸くする
「そ、そんなのしないでください人のあんなのがついた」
「気にしなくていいって、恥ずかしいだろうけど自分でやるより楽だろ?それより智花は薬飲んだのか」
「まだです」
「ほら薬飲んで、紅茶入れてやってるからそれと一緒に飲むといいよ」
柔らかく笑ったトレイの笑顔に絆されてしまい黙って従う、椅子に座って粉薬になっているそれを紅茶と一緒に飲み込めば薬は砂糖の代わりのように甘くストレートティーと合わせれば丁度いい味になった
それも全て目の前の彼は分かってしてくれているのだと察して智花は俯いた
「しんどいか?」
「腰が痛いだけです」
「まだ眠いんだろ少し横になってていいよ」
「もう帰りますか?」
「いて欲しいなら、ずっと居るよ」
そう言われて「じゃあ、もうちょっとだけ」だなんてらしくなく甘えてしまうのは彼がトレイ・クローバーだからだろう、他の誰よりも優しくて甘やかしてくれる彼に必然的に父性等を求めてしまうのだろう、新しくなったシーツは綺麗にされて清潔な石鹸の匂いがするのと彼の魔法のおかげであり、洗い立てで乾燥した布団は太陽に干した時のように暖かかった
「ねぇトレイ先輩はどうして私に甘いんですか」
魔法が使える訳でもない、可愛い訳でもない、平均的なつまらない異世界から来ただけの人間なのに…と続ける前に彼は優しくおでこにキスを落とした
「好き以外で俺は人に優しくしないさ」
其の顔はれっきとした男の顔で思わず恥ずかしくなり布団で顔を隠せば彼の笑い声が部屋に響いた
布団から飛び出した手だけはずっと起きたあとも繋がれていたが彼の言葉は忘れることが出来ずに目覚めた後また赤い頬が隠せなくなってしまったのだった。
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