推し

テレビの画面の奥で動くピンクの髪の毛、司会者のコメントに雑な扱いをされながらも皆に可愛がられる姿も、雑誌の表紙やメインページを飾る可愛い顔、スレで名前が出る時も、そしてみんなが眺めるその画面の奥で驚きを隠せない顔で表彰される姿も、全てが見たことの無い顔だった

夢見りあむという女と知り合ったのは随分と昔で自分がまだ大学1年の時だった、彼女はまだコスプレみたいにセーラー服を着て手首に分かりやすく包帯なんか巻いて前髪は長く猫背だった

「あのよかったらそれ交換してくれませんか?」

地下アイドルの追っかけをしてた者同士推しが被らなきゃ基本は安泰で喧嘩も何もすることはなく、同年代の友達もほかの友達もいなさそうな彼女と仲良くなるのはすぐの事だった
りあむにとって初めての事なのか、彼女は2人で出かけることを楽しんだ、車の免許を取ったばかりで車を買った彼女を助手席に乗せて出かけた、2人で馬鹿みたいに朝まで遊びまくった、そして自分が大学を卒業した後すぐだりあむがアイドルになった

「智花聞いてよ、ぼくスカウトされちゃったんだ」

「あっそう、身体には気をつけて後暴力団関係あるならすぐ辞めなさいよ〜」

「イヤイヤ風俗じゃないから、アイドル!ぼくアイドルになるの!」

そう喚く彼女に思わず口に含んだ箸を落として目を丸くしたが彼女はふふん、と得意げな顔をした
少し前までずっとダサい髪色で、ピアスなんてしてもなくて、ただのオタクだったくせに…だなんて言えなかった、今の彼女を見つけたのは自分でどうして今更アイドルなんて汚い商売なんて…と酷く内心罵った

「そっ、そっかおめでと」

「だからさ、智花はぼくを推してよね友達としてでもいいし、いい小遣い稼ぎになれば少しは今よりお金入れれるかもだし」

実家を出て2人でルームシェアをして専門学生のりあむと生活をして社会人の自分がほぼ養う状態でも苦しくなかった、それなりに彼女が好きだったからだろう
お互いにオタクだったし、恋愛対象には入っていたから気も悪くなかった
素直に喜べない自分が何よりも悲しくなってビールを一気に飲み干せばアイドルになるような未成年の女が目の前で人のビールを開けるものだから思わず奪い取って一気飲みをした

「ね、りあむアイドル本気でするの?」

「ええ?なぁにッアそこダメっ」

「だーから、本気でアイドルするの?って男共の汚いオナニーした手で握手してさぁ」

そう言ったって彼女は私達も同じものじゃん…と言いたげな目をする、別に彼女の親でもないのに何を言いたいのだか馬鹿らしくて反省し疲れきって横で眠るりあむの綺麗な顔を見ながらタバコを吹かす
このピアスを開けたのは自分で、髪の毛の脱色だって自分、かわいい服だって選んであげてきたし、似合う髪型も、メイクも、何もかも自分が仕立て上げたのがこの夢見りあむなのだ、なのに何処からか知らない人間の手で代えられる気がして酷く荒れてしまう

それからすぐりあむの人気は出た、オタクはああ言うメンヘラオタク女に弱い、オマケに小さくて巨乳で土下座したり褒めたらヤらせてくれそうな女
口汚くずっと罵ったテレビの前で映る彼女も、雑誌の中の彼女も、ラジオで話をする彼女も、全て嫉妬だった
仲良しそうにアイドル同士で話をして、からかわれてムスッとした顔を見てどうせ裏じゃ仲悪いんだろ。なんて言いたくなりながらもそうじゃない事を知ってる

「ねぇ〜智花聞いてる?」

「なに」

「だーから、ぼくが出てる新作コスメ!ほらほらすこでしょ尊いでしょ」

「ほんとりあむって胸と顔だけじゃん」

「智花に言われるとまじ病み、でも顔は好きってことは9割好きでしょ推しでしょ」

そういって太ももを枕にしてくる彼女の顔は昔よりも輝いて誰よりもキラキラと輝くシンデレラのようだった
CMから流れるりあむがモデルをしている新作リップは確かに可愛くて推しアイドルに似合うかも…だなんて少し思いながら最近の可愛いアイドルスレを眺める
りあむすこ、りあむシコ、まじあの胸いいっすわ、パンチラあざっす、今日のりあむコメ草生えた、等と面白くもないコメントが目に入ってスマホもソファに投げ捨てる

「キスしたい」

「珍しいね、いいよぼくからしてあげるこの国民的アイドルから」

「はいはい」

でも特別は自分だけだろう、彼女の髪を染めるのもピアスの穴を開けるのもその身体を暴くのもキスもセックスも全て

「ほんとぼくのこと好きだよね」

「当たり前でしょ」

あんたは私の恋人なんだから、だから一生推しにはしてやらない。

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