骨の契約書

人間は意外とその場所に馴染みやすい生き物なのだと自身で思った事だろう、成人を過ぎてからの高校生活は内容こそ違えどしていることは昔と何も変わらない、勉強に部活にバイト
それに前の人生よりもはるかに目の保養もある、ひとつ辛いのは飲酒や喫煙が出来ないことくらい、普通なら同じ年代の女の子をこの世界に連れてきたら良かったのに…と黒い夢で見た馬車に文句をつけてやりたかった程だった

「…はぁ、ほんとココにも無いんだ」

「仕方ないでしょう、未成年ばかりですから」

「そういう法律とか一応この世界にもあるんだ」

「国によって様々ですが、それ故にこの学校に通っている限りは基本国の定める成人を超えていてもダメなんですよ」

そういって丁寧に教えてくれるのは雇い主であり、オクタヴィネル寮の寮長であるアズールだった
閉店作業をしつつ冷蔵庫の中を漁るもやはりビールの缶1つさえ無い、特別に自分の分だけでも…と願おうと思ったが残念ながら先に拒否とも取れる回答を出されては智花も何も言えなかった

「なあに酒飲もうとしてんの?」

「うわ重たっ…いいでしょ君達よりお姉さんなんだから私」

「モストロラウンジには残念ながらありませんよ、まぁ購買ならないことも無いかもしれませんが」

「ジェイド悪いこと教えてる、俺怒られるのだるいし付き合わないよ」

背中にのしかかる191cmの大男を見上げた、そんなことを話していれば少し苛立ったオーナーが口より手を動かせ!と声を出した為に3人は面倒臭がりつつ仕事をした

「そんなにうまいわけ?」

「んー、何が」

くあっと大きく欠伸をして借りたばかりの本を読んでいれば横で漫画を読んでいたフロイドが声を出した、この寮は大変静かで自分ともう1人ともう1匹が住んでいる、健全に住む未成年の子達の傍らで己は男を連れ込んでいるのは些か不健全ではあるもののこの男に気に入られて逃げれるような者はこの世にいるのは問いたくなる

「さっきのだよ、酒とかさぁ好きなんでしょ」

「大好きだよ前の世界じゃ仕事終わったら帰り道には飲みながら帰ったりしてたもん、煙草とお酒は辞めるのは難しいなぁ」

「ふぅん、どんな味?」

「苦かったり、甘かったり、酸っぱかったり色んな味があるよ、なぁに気になっちゃうんだ」

「別にんな事ねぇし」

興味が薄れたのか漫画を床に投げ捨てれば掃除をし切ってない部屋で埃が飛び交った、ふと睨みつければ綺麗な彼の瞳が細くなりニヤリと嗤う

「作ってあげよっか」

「…本気?」

「その代わりお代は貰うけど」

「乗った」

馬鹿とはこのことなんだろう、嗚呼そうだった彼等は凶悪な海のウツボだった
熱に浮かされながらぼーっとした瞳でソファに座らされ目の前のフロイドを見つめた、1時間前あの言葉通り閉店したモストロラウンジ内でレシピを見て作ってもらったカクテルを飲み楽しんだ、それはもう2人でバカになりそうなほどそして馬鹿になったのは智花だけだった

「この指輪なに」

「えーこれはねぇ向こうの彼氏がくれたやつだよ」

「ふぅん、ちょーだい」

「ダメだよ貰い物だし」

そう言えば先程まで機嫌良さそうに笑っていたフロイドの顔に笑顔が無くなる、あっ機嫌損ねた。なんていつもの事で気にしないでおこうとしたが彼はそうはいかなかった勢いよくぎゅっと手首を掴まれて飲んでいたテーブルの上に足を行儀悪く乗せる彼の顔を見ればまるで債務者を見る顔をしており、背中にじとりと嫌な汗をかいた

「い、痛いよフロイド」

「あのさぁ、オレ優しく言ってんだからその間に渡せよ智花チャン」

「手首そんな掴んだら渡すに渡せないでしょ」

「そんなに指輪大事なワケ?」

会話出来ないなぁ。なんて冷静に思うのはよくある事だからだろう
そうこうしている間に指輪を取られてしまうもこの大男相手に取り返そうだなんて馬鹿な考えは智花は持っていない、機嫌が治るまで放っておけばいつも通りだろうと思うも相変わらず色の違う双方の瞳は智花をみていた

「ねぇオレのこと好き?」

「そりゃあ」

「オレと生きれる?」

「さぁ、保証なんてこの世界にはないよ契約書がないんだから」

「…ずるいね智花って」

そういって鋭い歯が勢いよく指輪を付けていた指に刺さる様に噛み付いた、まるでピラニアのように噛み付かれて指が取れるのではないかと思い声を荒らげてフロイドをできる限りの力で殴っても彼は怯むことなく指を噛みちぎるような勢いで歯を立て続けた

「っ何するの」

「契約だよ、これが消えたらまたオレがつけてあげるだからさぁ」

それ以上の言葉をあまり覚えてはなかった、彼の口に付着していた血も指の痛みも忘れられなかった、骨が軽く見えた指を後からモストロラウンジに来たアズールに治療され2人して散々怒られたせいだろう
フロイドは楽しそうに毎日指を見る、絡めて抱きしめるように手を大切にして言う

「そうだ、人魚になればいいじゃん」

オレ天才かも。なんて言ってこちらを向いて笑う彼にこれ以上何も言えなかった逆らえばもっと酷い目に合わされることくらい馬鹿な自分でも理解していたから。



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