今夜ロマンス劇場で

「えーっと、じゃあ私デートしたいです丁度映画行きたかったし」

「そんな事でいいのか?ほしかったティファニーのアクセとか、グッチのバッグとかカルティエとかほら色々あるだろ」

「でももうすぐ映画終わるんですよね、駄目ですか」

「駄目じゃあ無いけど」

「じゃあ決定、行きたい映画の詳細後日送りますから可能な日時に連絡してくださいね、私予定空けますから」

そういって無邪気に笑いランチに出掛けた部下に溜め息が出かけてしまう、こうなったのは1週間と3日前の任務にて応援に来てくれた智花に助けられたのだ、身体は無事ではなかったが重傷という程でもなかった、とは言え病院に約1週間入院となり、無事命を護ってくれた礼に何かをしてやるのが当然の事で事務所に報告書を持ってきた智花に欲しいもの等は無いかと声を掛けたのが始まりだった。
お金のかかる若い娘だ、どうせブランド品や買い物やらその辺だろうと思いつつ話しをしたつもりがまさか映画に誘われるとは思いもよらず重たい気持ちとなった
何故ならスティーブンは自身が一般的な男性よりも魅力的なことを自身で良く理解しているからだ、タレ目に顔の傷に濃いめの黒い眉と癖のある髪の毛身体に這い回る傷跡のような跡も全て女を魅了する武器であることを熟知している

時として其れは仕事の邪魔になる可能性もあるために境界線の分からない相手は好意的にはなれなかった、智花と同じ歳くらいのチェインはそれを理解している為に見守るだけでいてくれる、それがどれだけ有難いことなのかきっと智花には分からないだろう…とスティーブンは内心思っていた
後ろポケットに入れていたスマホが2回震えてメールが来たのかと察する、開けてみれば早速先程話しをしていた智花からのデートの詳細だった

「その日は出られないから頼んだ」

「了解した、それにしても君と智花くんが…意外な組み合わせだこの間の件で?」

「そうだよ、欲しいものって聞いたのに映画が行きたいなんて言い出してね参ったよ」

「彼女は随分と映画や舞台が好きなようだ、少し前に私にも話をしてくれた随分と楽しく話をしてくれるものだからついつい話し込んだほどだ」

4日後の13時、調べればHLにある1番小さな劇場でしかしていないらしくそこでもいいならとメールに返事をしたら映画のチケットともに『楽しみなんです』と返ってきた
これじゃあどっちがお礼なのか分からないじゃないかと返事しそうになるもあの娘はいつもそうだ…と自己完結させて溜まっていたデスクワークを睨みつけた

4日後のお昼は生憎の雨だった、待ち合わせは映画館前のコーヒーショップ…と思いきやコーヒーショップは悲しい事に昨日の深夜に物理的に閉店したらしく仕方なく映画館の前で待つこととなった、普段と違うスーツとは別のカジュアルな服は若い彼女に合わせたものだが些かオフなど普段シャツにパンツ程度のためか落ち着かないものだった

「お待たせしましたスティーブンさん」

「君そんな格好で来たのか?」

「え?変ですか?」

「いや変じゃないけど、映画館冷えるんじゃないか?」

「ブランケット貸してもらうんで大丈夫ですよ」

薄手のキャミソールにパンツというカジュアルすぎる彼女の格好に思わず自分が年甲斐もなくはしゃいだように思えて恥ずかしさが増してしまう、上映15分前に指定されたスクリーンの入口にヨボヨボのお爺さんが出てきて枯れた声で作品名を読んだ

「私達だけでしたね」

「あぁ、ミニシアターとはいえ僕らだけだと偉く広々と感じるな」

「その方が気持ちいいですけどね、つまらなくても文句はやめてくださいね」

そう言いながら上映が始まれば互いに映画に夢中になった、とんでもなく面白いわけでも、とてつもなくつまらない訳でもない普通レベルの面白さだったラブストーリーは2時間37分もあったらしく映画が終わればちょうどいい時間か…等と考えていた、スタッフロールが流れる中でも決して動くわけでも携帯の電源をつけるわけでもなく静かに流れる文字を読んでいた
普段は正直ザップの女と変わりないような今どきの若い女であり、対象外ではあるもののそう言った雰囲気は悪くないと失礼な評価をしてしまう

「この後は?」

「私お茶して帰ろうかなぁなんて、スティーブンさんは?」

「せっかくのデートだから当然一緒に行くさ」

車を走らせて15分ほど、人通りは少ないが異界人より人間の方が多い道のカフェに入れば中は意外と人で埋まっていた、テラス席を案内してもらいメニューを広げて智花に向けてやる

「決まってますか?」

「うん、いつもの」

「分かりました、すみません」

片手を上げて愛想良く店員に話しかける、先にスティーブンの注文を言った後に自身の紅茶を頼み終えようとした

「あぁすみません、後この季節のケーキもひとつ」

「畏まりました」

メモをしてメニューを受け取り背中を向けた店員を見たあと珍しそうな顔をした智花がスティーブンを見つめる

「甘いものって珍しいですね、私とデートするの疲れちゃいましたか?」

「そんな事ないさ、君甘いもの好きだろ?悩んでたみたいだし頼んであげたのさ」

「…いつも女性にそういうことするんですか」

あ、面倒くさい質問が来た。なんて内心思い愛想笑いをした
自分は特別ではないという考えの中で癇癪を起こしヒステリックに怒る女性なんて見てきた、尽くしてやったのに…好きなのに…呆れてモノも言えなくなるセリフに頭痛がしそうだった
目の前の娘も所詮変わらないのか、と内心呆れて「そうだよ」とあまりにも冷たい言葉が出てしまい謝罪をしそうになった

「面倒くさそうですね、やっぱザップが言う通り完璧というかマメって言うか…凄いですね私じゃ真似出来ないや」

「…君さ、僕のことどう思ってる?」

「え?どうって」

「ほら男女だし好きとか嫌いとか好意があるとかないとか」

こんな事を聞く自分の方が遥かに面倒くさいのはわかっているが考える余裕もなくストレートな言葉をぶつけた
少しうーんと首を捻った所でやってきた紅茶とケーキに目を奪われて話を一時停止されてしまう、それでも数分後に彼女はようやく答えを出した

「上司と部下なんで考えたこと無かったですね、でもまぁ…抱かれろって言われたら出来なくは無いですよ、魅力的な人ですし」

それだけです。なんて苦笑いして彼女はそっと木苺のタルトを口に入れて先程見ていた映画の感想を語り始めた、適当な相槌を打ちつつも意識はあまり底にはなかった、何故なら自分に絶対的自信があった為だろうか彼女の言葉は新鮮でその時のスティーブンを墜す事など簡単な事だったからだ。
とはいえ、何も知らない彼女は気にもせずにタルトを頬張って話をした

「次もまたお礼あれば映画で結構ですよ」

ブランド品なんて自分でいくらでも買えるし、なんて言う強気な発言さえきっと彼女の魅力だろう。

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