マスター、今日の献立は

「もうそろそろいいんじゃないか?」

呆れたような少し面白いようなそんな顔で目の前の男は注文して冷めきったピザを食べた、勤務中といえどその態度ができるのはこの店のオーナーが彼自身だからだろう
客の帰ったパラダイスラウンジはいつもの騒がしい音楽から彼女の好きな静かなジャズに変わっていた

「よくない」

「そんなに飲んでも身体に悪いだけだろ、もうおしまいだ」

「返してよお金払ってるのよ私」

「はいはい、閉店後もいる客の意見なんざ俺は聞かないんだよ悪いなキティ」

「キティじゃな…い」

まるで電池の切れた機械のように彼女は突然テーブルに顔を伏せてしまい、直ぐに置いてあるピザを退けて手をクッション代わりに置いてやれば痛そうな音も聞こえず小さな寝息が聞こえるだけだ
こんなのがAPEXのレジェンドの1人でいいのだろうかとも思える程だがミラージュにとってそんな所も彼女の面白く魅力的な部分だと感じていれば裏口から機械の足音が聞こえドアが開く

「ウィットさん僕そろそろ帰るよー…あれ?智花また寝てるの?」

「お疲れ様だなパス、みたいだ後は俺がしておくからまた手伝い頼む…ほれ今日のお駄賃な」

「うんありがとう、じゃあまたゲームでよろしく」

週末は忙しいwパラダイスラウンジでは他の作業員の代わりに時折パスファインダーに手伝いをしてもらう時もあった、彼?に必要分を渡して軽い挨拶をしてまだ片付けられていない智花の寝ている部分を片付ける
智花が飲みに来るのは殆ど毎日だった試合がある日もない日も兎に角酒好きの中毒者のような彼女は飲みに来ては潰れて眠りにつく
大方片付けをしてしまえば軽く声をかけてみるもやはり返事はなく仕方なくスマホや財布など必要な物は手に持って彼女を背中に担ぎつつ店を閉めた

「…おはよミラージュ」

「寝坊助め、もう昼過ぎだぞ?早起きは3分の…3?いやなんだっか、まぁいいが腹はどうだ?」

「んー、まぁまぁスープ飲みたい」

「了解だ、さぁその寝顔をしっかり洗って来いよ」

目を覚ませばいつも通りの天井が騒がしく目に入る、またやってしまった…と思いつつもう慣れた足で洗面所に向かい顔を洗い少しはマシになった頭で寝室に向かい昨日着ていたシャツを手に取り逆さに向けてポケットに入っているものを取り出し、落ちてきたタバコの箱から一つだけ火をつけて咥える

「ここじゃ基本禁煙だぜ」

「いい女には許可出すくせに」

「当然だろ、ほらもうすぐ出来るから吸うなら窓開けてくれよ」

「ウィ」

そういいつつ窓の開けない智花の事などお見通しなのか態々デコイまで寄越して窓を勝手に開いて消えてしまった
相変わらず彼も努力家で勤勉なのかデコイは日々進化をするなと感じつつ短くなってきたタバコの灰を隠してある硝子灰皿の上に落とした
吸い終えたあたりで丁度いいパンの焼ける匂いがして、釣られるように足をリビングに向ける、眩しい笑顔で楽しそうに昼食か朝食かを作るミラージュの背中から鍋の中を覗き込む

「エリオット様特性オニオンスープだ、好きだろ?」

「うん、私昨日も寝てた?」

「そりゃあすやすやと昨日も結局ボトル1本分は飲み干そうとしてたんだからな、俺の酒を飲んでくれるのは有難いが身体壊しちまうぞ?」

大きな手のひらが頭に触れて優しく髪の毛をくしゃくしゃしていく、ほら出来たぞ。と彼が皿の上にベーコンエッグやサラダにパンを乗せて運んでくれる様は流石主夫希望とも感じる

「いただきます」

全てを一口ずつ食べるまで彼は決して食事に手をつけずに、食べている姿をそれはもう自分のペットを見るような慈愛に満ちた瞳で見つめてもらうものだから慣れるまで随分と時間がかかった

「今日は試合はないんだろ?」

「予定ではね、ミラージュも」

「勿論さ、それより家なんだし名前で呼んでくれよ変な感覚だ」

食べ終えた彼は皿の片付けをしつつそういった智花は小さく返事をしてまたミラージュの寝室に置いていた自身の煙草に火をつけて身体に害のある煙を吸い込んだ
休みの日は決まってこんな生活を送ってしまうと思いつつ彼の居心地の良さについ甘えてしまう、寝てる間に服を着せ替えられた元カノのパジャマはサイズがおなじだった
別の部屋でデコイのメンテナンスをするエリオットの背中をビール片手に見つつ呟いた

「エリオットって彼女作らないの?」

「お前がいるのにいらないだろ」

「言葉の意味通り?」

「おう」

背中を向けたまま彼はそういった思わず目を丸くして彼を見れば振り返った彼の顔は少しだけ楽しそうだ

「お前よりいい女を俺はもう知らないからな」

「そりゃまぁ当然でしょ」

じゃなければ何故毎回彼の店で寝落ちをしているのか意味が無いだろう。と言いたくもなるがきっとその意味も彼は知っている
近づいてきたミラージュは通り過ぎる前に優しく額にキスをして部屋を出ていく

「それと今晩はポークチョップだからな」

流石にその言葉には思わずしかめっ面で彼を見つめたがそんな事は気にもせず残されたデコイの顔はあまりにもムカつく顔で思わずパンチを食らわせてもホログラムはそのまま消えるだけだった。

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