口封


※捏造過多

昔からどうしても困っている人や存在に手助けをしてしまう悪い癖があった、小さな頃雨の中見つけた緑目の黒猫を見て家に持ち帰った時両親は困った顔をして戻して来なさいと言った
幼い自分はそれに従うしかなかったがどうしても見捨てることが出来ずに餌を上げるようになった、だから行けなかったのだ知らない人間に懐いてその猫は酷い目にあって消えた、両親にその事を話した時だから捨てろと言ったのに。と怒られたのを覚えていた
それから大きくなっても浮浪者には少しでもお金を渡したし、雨の中困っている人に傘を差し出したし、結局拾った猫は5匹になってしまった

「…でも流石に人間はねぇ」

ふと思い出した過去にもう充分大人になった彼女は傘を指しつつため息を付いた、元から治安はあまり良くない地区で男が1人倒れているなんてよくある事だったがどう見ても普通ではなさそうなその優男に彼女は眉を下げた

「ねぇ起きてる?」

「…ん、みら」

「ほら風邪引いちゃうよ?」

小さい寝言のような言葉を漏らす彼に深いため息をついて重たい成人男性の体を持ち上げてやり目の前の階段を昇っていきドアを開けて適当にベッドに投げ捨てる、猫達がまるで仲間が増えたように溜まってきたことにより彼女はまたお人好しかありがた迷惑をしてしまった…等と思いつつ男の外傷を見てリビングに向かった。


あれから何日経過したのかその時のパク・テジュンは覚えていなかった、兎に角熱が出て熱い体も走り疲れた体も心身共に限界だったのだろう、帰る家も無くなり戻る場所もない現在どうにか自身が隠れられる場所として出来るだけ身分等を気にしないスラム街の方に逃げたが身体のガタがいよいよ来てしまった
道中当たった銃弾の傷跡が腹にまだ癒える事無く残っており、このまま死ぬのだろうかとも思えてしまう、目を閉じれば家族の顔が覗き見えてしまう事が何よりも悲しく感じてしまう
懐かしいミラが好き好んで食べていたような中華ベースのスープの匂いが腹を擽る、夢にまで遂に来たか…と感じた瞬間思わず目を開けて身体を置きあげる

「っっっいてぇ」

「ちょっと急に起きないでよ!」

「誰だあんた」

「そんな事よりほら横になって、私智花っていうの別に金品奪おうとかそういうの一切なくて貴方私の家の下の階段の前で寝てたんだよ?覚えてるかな」

強烈な腹部の痛みに声を上げたが目の前に現れた女にベッドにまた戻されて隣にあった椅子に座り彼女は説明をし始めた
そう聞くと確かに…と思い当たる節はあり脱がされたシャツの下にあった銃弾はしっかりと治療を受けたあとで包帯が巻かれていた

「これは?」

「私これでも獣医師してるからまぁ貴方は人間だけど出来るだけしておいたの、鎮痛剤置いてるけどご飯食べてからにしましょう空きっ腹には薬は危ないからね」

「どうして知らない人間にこんなことをするんだ、何かあるのか」

「変って言われるのはあんまり好きじゃないけど、困ってる子は放っておけないだけ」

その部屋は好きにどうぞ。とだけ告げて出ていった彼女に声をかければ不思議そうな顔で振り向く

「子じゃなくて、テジュンだ…そう呼んでくれていい」

そんなに子供ではない、と言いたげに彼女に告げればそう?と軽く微笑んで部屋を後にした
それからというもの彼女は本当に世話焼きで異常だと思えた、身分を隠すには1番いい場所だったが初めは彼女の優しさに警戒さえしてしまった、あんな事があったのだから仕方がない
それでも理由を聞くわけでもなく黙って家に置いてくれ、更には必需品はなんでも揃えてくれた

「ねぇテジュンは髪の毛伸びてきたし切らないの」

この世界でその名前を呼ぶのはもう数えられる程度の人間しかいないとふと思い、確かにゴムで1つまとめにできそうな程に伸びた髪の毛に邪魔だと感じながらも近くに美容院などがあるわけでもなくあったとしても指名手配中の自身では下手に人目に付く場所には行きたくもなかった、智花も分かっていながら匿ってくれていることはよく分かっていた出来るだけバレないように情報入手の際に外に出ては絡まれその度に身体も身を守る術を覚えるようになったものだ

「切るにしてもこの辺りに美容師なんて居ないだろ」

「そう言うと思って用意しました、こう見えても近所の子供とかのカットは私がしてるんだから…いいでしょ」

「だから俺は子供じゃないし、まぁわかった任せるけど失敗するなよ」

「ねぇ、テジュンって分からないような髪型にしてあげる…というか見た目にしてあげるね」

「はぁ好きにしてくれ」

もうなすがままよ、と彼女に身を委ねれば遠くで聞こえるバリカンの音に目を開いたが彼女の爛々とした瞳を見れば諦めてしまおうとさえ思えた
智花という女性と生活をして家族が恋しくなるのは仕方の無いことだった情には流されないように生きようと思いながらも彼女のやることなすことだけはどうしても背中を見守ってしまう

「ほら、テジュンってこうしたら別人みたいだ」

女性のメイクは魔法だと言うように、髪型や少し身なりを変わるだけで別人に見えてしまう、ツーブロックのように大きく刈り上げられた髪の毛に整えられた前髪、髪型ひとつで変わるものだと思って智花を見たが彼女は寂しそうな顔をした

「APEXに参加するんでしょ」

「知ってたのか」

「だって毎日あんなにテレビで眺めてるんだし、憧れじゃない別の理由で行くんでしょ?」

「俺の全てを知ってるんだろ、どうしてそんなに世話を焼きたがるんだ」

「テジュンには分からないよ、私の気持ちなんて」

冷たく言い放った言葉とはいえその時だけは何も察することが出来なかった、理由を言ったところで彼女には理解もできないが否定もされない
お互いを何かで埋めているような傷の舐め合いをするだけだった、いつの日か同じベッドで眠るようになった時にクマだらけの彼女の顔を見つめて静かに出ていこうとした

「行っちゃうの?」

「…あぁ」

「気をつけていくんだよ、帰ってくる家はここにあるんだし」

「いままでありがとう…智花?」

ふと背中に抱きついた智花に思わず情けなく声を出した、この家を出ればもうこの世にパク・テジュンは消えてなくなる
そうでなければ彼は生きていけないのだから仕方がない、深く息を吐いて彼女は呟いて

「行ってらっしゃい、テジュン」


銃弾の音と列車の走る音が聞こえふと考えていた意識から現実に戻る、あの日からもう一年以上は経過したのだろうかと思いつつスコープからしっかりと敵を見つめる残り3部隊となり、残っているチームを探す
先に行った味方の背中をみつつ、ドローンを飛ばしてクレーバーを握る手に力を込める、残り2部隊だと変わった途端だった味方の背後を狙う3人の敵を即座に狙い撃ちヘッドショットが当たり膝を着いたところに味方が畳み掛ける

「呆気ない終わり方だな」

そう呟いたクリプトの心はどこかここに在らず、冷たいワールズエッジの雪の中で息を吐いて彼女の顔を思い出した。


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