ダイヤモンドの夕日
「好きです付き合ってください」
そういって右手を差し出して真っ赤にした顔が見えない程深くお辞儀をしたリーゼントが特徴的な少年にその日告白された自分は悪いと思いつつ返事をした
「ごめんなさい。貴方のことよく知らないので」
返事を受けた少年は慌てたような顔をして慌てて大きな声を出して名前を名乗った
東方仗助くんはこの地元じゃまぁまぁ有名な少年だった、少年と呼ぶような幼さと大人のような何か達観した見方のできる彼は毎朝バスから下りる仕事帰りの自分に恋をしたのだという
綺麗な顔に高い身長に引き締まった体に人に好かれるような性格、あまり嫌われることは無いだろう
「友達からも難しいっすかね」
「…友達かぁ、よろしくお願いします」
そう言って改めて出された彼の手を取ることは間違いでは無いのだろう、手始めに自己紹介がてらカフェに行って話をして互いのお話をしたり、何が好きか何が嫌いかも話をした
つまらない社会人として生きる女にとって高校1.2年生程の彼はあまりにも輝いているもので
その反対に彼の言葉を鵜呑みにし過ぎたとも内心思ったのは当然だった、若い彼が年上の自分を好きになる事は別に駄目では無いが未成年に手を出す成人女性は行けない事だろう。
「智花さんなんか食べます?」
「んーじゃあモンブランで」
「うっす、すみませーん」
毎週金曜日の18時過ぎ、駅近くの小さなカフェでお茶をする
高校生や、サラリーマンや、子供連れや、意外にもカフェは様々な人で賑わう
学校帰りの子もいるのかたまに彼の同級生が現れて一緒にお茶をする時だってあった、みんな若くて元気だなぁ…なんてまるで自分が背景になったよう感じてしまう。
「俺変わらないですから」
彼の言葉は1度も変わったことがない、帰り道に毎回家の前まで律儀に送られて家に入る前に言うのだ、変わらないと言うのはきっと初めて出会った頃の事だろう
街ゆく高校生は大体カップルが友達だろう、きっと飽きるのだその内忘れてくれると内心祈り事をしていたのは否定しない
彼は大層人に愛されるタイプだろうし、情熱的で仲間思いだ、土曜日の夜会社の飲み会帰りにカラオケ帰りの高校生達の中に居る彼を見た時に世界はこんなにも違うのだからと感じた
「もう嫌になったんすか?」
「何が」
「俺との友情ごっこ」
「嫌な言い方するんだね仗助くんって」
「彼氏出来たりとかした?」
「したら来ないよ、同い年ならよかったなって考えてるだけだよ」
一回りもいかない年だが変わらないものだ、目の前にあるカプチーノは冬場のテラス席のせいで湯気を立てる
寒い冬だと言うのに彼の手元には冷たいパフェとコーヒーが並んでいる、目の前の彼は学校帰りで制服を着ていた懐かしい学ランは何年前の記憶だったかと思ってしまう
「俺は智花さんだから好きになったのに…誰でもいいみたいな顔するんすね」
「そんな事ないでしょ、しっかり考えてるんだよ」
大人だから、まるで言い訳じみたような言葉が出かかって押さえ込んだ彼のダイヤモンドのような美しさを秘める瞳が今にも零れそうに見えてしまった
罪悪感やら悔しさやら全てが今すぐ出てしまいそうでカバンを手に持って席を立った
「どこ行くんすか!」
「急用思い出したの」
「あー!もうっ」
お金を置いて逃げる自分の背中を追いかけてくる彼のことなど理解していた、純粋な好きをぶつけてくれる彼を好きになる事などすぐの事でそれに我慢出来なかった、好きだと言えば冷める夢じゃないかと、年上の女に、その辺を歩いていただけなのに好きになる原因など無いと決めつけていた
幼い頃からわかっていたことを否定してまで有り得ないのだと考えていた
「どこ行くんすか」
「急用だよ、急がなきゃ」
「俺の事放置して?」
「仗助くんには私のプレッシャーとか、苦しさなんて分からないよ」
「そりゃあ、わかんないスよ…でもそれは智花さんだって同じでしょ」
住宅街で腕を掴まれて背後を振り向いた、彼の涙は同じように宝石が流れるのかな…と少なからず思えた程に綺麗だった
夕日が彼を綺麗に彩っていい歳をした自分が彼の鏡のような瞳の奥で泣きそうな顔をしていた、それが悔しくてまたぎゅっと飲み込んでしまう
「年下だから相手されねぇのかなとか、実際は無理に付き合ってくれてんのかなとか、色んなこと考えてそれでも智花さんのことすげぇ好きで諦められねぇからあの日告白して終わろうって…思ったんスよ、なのに優しくされるから意外と行けるかなってなったのに」
ポツポツ話をしてくれる彼の言葉の意味は殆ど自分の悩みと同じものだった、肩に手を置かれて彼の大きさ分の影が上にできて見上げれば苦しそうな顔をしていた
そっと背の高い彼に手を伸ばして両頬を包む様に触れれば自然と顔が近づいた
「私だってずっと悩んでるんだよ」
そう言えば「知ってる」と静かに答えて仗助は笑った
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