蝉の声
セミの鳴く声と、強風に設定した扇風機の動く音が耳について離れない
「はぁ…なんで抵抗しないんだよ」
「貴方に?出来ると思う?」
ぼたりと頬の辺りに落ちてきた雫が汗なのか涙なのか認識出来ずにテレビを見つめた、つまらないワイドショーが流れている
この男に監禁されて17日目、今日も男は情緒不安定らしい
毎日同じ日々を過ごす、学校に行き帰り休みは近くの喫茶店のバイト、就職したら街を出ようと考え親にも迷惑をかけず勉強もそこそこにしてきた
土曜の朝、毎朝やって来ては眠そうな顔でジャムパンとゆで卵を食べる男、それが彼だった
「おはようございます、いつものでいいですか?」
「あー…うん、あとサラダとかある?」
「はい、ごまドレッシングになりますが」
「それでいいや」
面倒くさそうな顔と態度の男と話をするようになってから数ヶ月目、夏休み前の教室は少し蒸し暑く半袖の制服でさえ暑さに頭が沸くり返りそうだ
夏休みが入ってすぐその日は夏休みとはいえ友達の委員会の手伝いがあり遅くなってしまった、前日に親には連絡を入れており特に困ることも無い、行きなれた道を歩いていた時だった目の前に車が止まる
「あれ、今晩は」
「今晩は、お仕事中ですか?」
「いや帰りだよ、制服ってことは学校帰り?でも君のとこ夏休みだよね」
「えぇ少し友達の手伝いで遅れてしまって」
「送ってあげるよ、危ないでしょ」
「じゃあよろしくお願いします」
柔らかく笑う彼に何も気にせず車に乗り行先も伝えなかった、けれど彼は気にした様子もなく車を走らせて少しボロいアパートの前で車を停めた
「…何処ですか」
「僕の家だよ、ついでだしあがっていきなよ」
有無を言わせぬその雰囲気に黙って従って靴を脱いで上がり1LDKの男らしい少し汚い部屋の中の真ん中に座れば彼はゆっくり近づいた
すっと伸びた手が首に巻きついて、どこを見ているか分からない目で語る
「僕のこと好き?」
「嫌いじゃないですよ」
「じゃあヤラせてよ」
「…いいですよ」
少し癖のある髪も、まだ少し若く見える顔も、面倒くさそうな性格も、悪くないと思った
返事に思わず彼は目を丸くして、は?と声を出した、それでも言ったのだからいいかと思い胸元のリボンを外してスカートのファスナーを下ろした
「待てってば君バカなの?わかってる??」
「いやわかってますけど、しないんですか?」
「はぁ…萎えるよ」
「別に足立さんのこと好きでも嫌いでもないですよお客さんだなってくらい、別に処女じゃないし」
「マセガキかよ」
そう言いながらも処女では無いとわかった途端に楽だと思ったのか服に手をかけ、関係を持った
その時だけだと思った時間は目を覚ました時に手首に着いた手錠に驚きを隠せずに溜息をこぼした
そこからこの男は監禁生活を楽しみ始めた、とはいえ手錠には外して家にロックをかけても内側なら空けられた、ただ軟禁されているその状況を楽しんだ
非日常を味わいたかったのはお互い様だからだろう、子供のように癇癪を起こしたり機嫌を悪くさせる彼を見ていると年下である自分から見ても可哀想にさえ思えるのだろう。
「なんだ跡消えちゃった?」
「消えなきゃ困りますよ、と言うか家帰ったらダメなんですか」
「ダメでしょ、僕に一人でいろってことかよ酷いよな」
「堂島さんがいるでしょ」
「いるけど、癒しは君なんだよな」
気まぐれに優しくされることに心地良ささえ覚えて、これがイケナイ関係なのだと理解っていた
暴力があるわけでもなく、気まぐれな人間2人でただ生活をしているだけであり、何も進むことはない
時折彼が正気に戻るだけである
「はぁ…なんで抵抗しないんだよ」
「貴方に?出来ると思う?」
ふとそう考えていた事から意識を戻して首に手を添えて震える男を見つめた、年上で男で警察、ただの女子高生が叶う訳もないのにそんなことを聞いて意味があるのだろうかと思った
「勝てなくてもしろよ…逃げれないだろ」
「足立さんどうしたいんですか、私の事犯したいの?殺したいの?好きなの?」
「全部だよ、お前が僕を狂わせるんだよ…こんなド田舎ですることも無い中で黙ってこんな異常事態受け入れる君が」
ぼろぼろと涙を零した子供みたいな彼の冷たい唇を奪う、ジャムパンの味がした
「私、足立さんが思うよりずっと悪い子だから」
傷つけられたって平気、と零して彼の手にそっと自分の手を重ねればようやく落ち着いたのかいつもの様に彼の手がスカートに伸びる
セミが煩く鳴いている、すっと息を飲み込んだこの人には気持ち悪さなど感じないのはきっと自分と同じだからだろう
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