Your taste is
「あっ」
言葉が漏れたのは一体どちらからだろうか、そう思ったのは一瞬のうちであり先に事を仕掛けた本人は身体を反らしてされた相手は反射的に腕を掴んでしまった
「一体何を?」
「何もしていません目元にゴミがついていたので取っただけです」
ソファーに座っていたクラウスは唇に残った感触を思い出しながら彼女を見た、まるでアルコールを顔から浴びたように赤い顔、いつもの幼い顔が更に見えて顔を近づける
「一体、何を」
「…ゴミが、付いていたようだ」
次にセリフを吐いた時には先程と反対だった、智花はクラウスのメガネの奥の瞳を見つめては自分の全てが映し出されそうだと感じた、掴まれた腕から逃れて智花は店から出ていった
そういえば今はパーティの途中だったと思い出し時計を見れば時刻は深夜2時を過ぎていた、ポケットにあるスマホを取りだし番号に掛ければ聞き慣れた初老の声が聞こえる
「帰り際に智花様が居られましたがお急ぎのようでした」
「送ろうか聞けばよかった…今日は飲みすぎてしまって」
「羽目を外せたのですねそれは大変宜しいことかと」
「嗚呼、遅くまですまない」
「お気にならず、珍しい事ではありますが何も悪いことをしているわけではありませんから」
優しい執事の声に目を細めて霧の中で輝くネオン街を見つめた、唇の感触はまだ残っていた。
大きな麻薬組織の壊滅が出来たのはスティーブンや人狼局等皆の正確な情報のお陰だ、いつも通り大きな仕事の後はパーティをした、誰かの知り合いの店や、美味しいと有名な店などその時によるが今回はお酒をメインにしたいという話になりいつも行くパブでパーティをすることになった、2.30人ほどのパーティは大盛り上がりで皆が羽目を外して飲み潰れていく個室もある為に潰れた連中はそちらに逃げたりソファーに寝たり地面に寝たり様々で、オーナーもいつもの事に一緒になって飲み明かした
「ありがとう智花、今回も君のおかげで助かった」
「いえ、私はまだまだ…ですが、ありがとうございます」
「君は飲めるだろうか?」
「はい、あまり強くはありませんが少し頂いています」
個室席で静かにクラウス、スティーブン、智花の3人は呑んでいた大きなジョッキビールを片手に彼が静かに話せば2人でそれに対して返事をする、表は今じゃ小さな乱闘状態であり大きな叫び声さけ聞こえてきた、スティーブンのロックグラスの氷がカラカラと小さく鳴いてそれと同時にザップが真っ赤な顔で彼を掴んだ
「番頭!やったっれくらさい!」
「はぁ!?なんで僕が」
まるでハリケーンのように連れ去られたスティーブンに2人して手を振った、彼はいつもなんだかんだ言いつつ面倒見がいいなんて思ってしまいまた2人で静かにお酒を飲み始めた
「家の方はどうなのだろう」
「え?平気ですよ私が居なくても、それよりもクラウスさんもご実家には帰られないんですか?」
「HL(ここ)からあまり離れられないというのが本音なのだが、連絡はこまめにはしているさ」
「そうなんですね、ビール取ってきますね」
「ありがとう」
1度席を立って出てみれば外は阿鼻叫喚だった、泣いて笑って吐いて床に倒れたり挙句に天井に突き刺さって、時計を見れば1時は過ぎており確かにパーティを5時間近くは経過していた事だろう、表に出されて30分程のスティーブンも少しぐったりとテーブル席のソファに項垂れていた
仕方なしに水を1杯置いたおき、個室に戻ればクラウスまで静かだった、普段から彼は静かであるがその時は所謂寝ている意味での静かさだった、まだ外は騒がしく音は消えそうにもない
智花はふとクラウスの横に座り取ってきたビールを前に置いてじっくりと見つめた
智花の2倍、いや4倍近くはありそうな体格差、磨きあげられて更には獣を連想させるような牙、じっくりと見ることの無い顔を見てしまう、普段よりも年相応に見える寝顔
寝ている時まで静かなのだと思いつつ彼の手に触れても起きることは無かった
「クラウスさん」
起きなかった智花も酔っていた、彼の少し乾燥したビールの香りのする唇を奪った、そして彼はまるで眠り姫のように目を覚ましてしまい最初のように戻ったのだ
智花は霧の街の中を必死に走った、履いていたパンプスのヒールが折れても、異界人に声を掛けられても、ずっと走り続けたどれだけ走っても彼の言動、唇の感触が忘れられずにドキドキと心臓は高鳴った
明日からどうしたらいいのだろう、そう考えて部屋のドアを開けてベッドに横たわった、柔らかく少し乾燥した唇、赤いいつもの髪が目の前にあり、緑の瞳が自分の全てを暴くように見ていた
「あぁ…私、どうしよう」
そんな事私に言われても。だなんて愚痴を吐かれたぬいぐるみは返事すること無くただ黙って彼女に抱かれる。
翌日またキスする事などその時の2人には分からない
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