来世で逢いましょう
飽きないほどの夢を見る、1000年前の日本のその土地で女は笑っていた、そして小さな赤子を抱いて言った
「ずっとこんな世界ならいいのにね」
それを鼻で笑ったのはきっと夢物語だからだろう、それでも女は毎日笑って側で生きてきた死ぬ時迄
女には名前がなかった、忌み子であった為である
小さな飛騨の端の方の村で産まれた、母親はよそ者で知らぬ病に掛かり村の中に名乗りをあげる父親は居らず親戚なども居なかった人々はその娘を疎み奴隷として買うことにした
村は安泰だ、その子供には何をしてもいいと皆で呪いの様に負の感情をぶつけ続けたのだから
両面宿儺が近くを襲ったと噂が来たのはスグだった、宿儺と呼ばれし異形の人は殺戮を繰り返し続けた、恐ろしい力を持ち女子供を目の前で殺し好き勝手にしていくと
「なんだ貴様」
「…ぁ」
村は次の日宿儺に壊されていた、炎が村を覆い隠し人々は彼の玩具のように悲惨な死を迎え、生きたものは頭を垂れ生にしがみつく様に懇願していた
奴隷である智花はいつもの様に小屋の中に入れられていたが突然村長に手を引かれ宿儺の前に出され言われた
この娘なら構いません。と突如言われた言葉に戸惑った14の娘は目の前の異形に怯えることも出来なかった
「そうか、お前達の答えはさぞ俺を楽しくさせるなぁ」
「でっでは!」
「だから一思いに殺してやろう」
頭を半分にされた村長に皆が悲鳴をあげる、そして後ろにいた村人たちも次々に魚のように切られて死んで行った
燃え盛る炎の中で娘と宿儺だけがいた
救いだと思えた、何故ならこの男こそが自分を殺して地獄のようなこの現世から救ってくれると信じたからだ
「名はなんだ小娘」
「有りません、貴方は宿儺様ですか」
「俺はお前が気に入った、名をやろうお前は智花だ」
「智花ですか」
「俺と生きろ智花、お前は俺が生かして殺してやろう」
1本の腕が伸びて智花と呼んだその少女の傷だらけの顔を撫でる
宿儺はそんな無力な詰まらない子供を手にした
2人は何十年も共に生きた、襲った村の家を奪い智花をそこに住まわせ宿儺は夜になれば人々を殺しに出かける、そしてそのついでに食料を持って帰り翌朝智花が食事を作る異形でありながらも人と変わらぬ者なのか出せば食事をした、智花は目の前の男がわからずに生きていた
「ねー宿儺様ってばいい加減その着物脱いでくださいな」
「喧しい、脱がせてどうする気だ破廉恥な女め」
「洗濯するんですよ、臭いったらありゃしないんですから新しい着物用意してますから乾くまでそれを使って下さいな」
智花は17になる頃には宿儺の妻になった、宿儺は智花の前だけは普通の人間のようでありただの夫でもあり生意気だとしても許された、新鮮であり面白くてたまらなかったのだろう
智花は呪力などある訳もなく呪いも何もわかりもしない一般人であった、とはいえ宿儺と共にいれば自然と呪いが近寄って来てしまい時折体調を崩す程にもあった、その為に宿儺の呪いを1つ与え他からの呪いの干渉を受けないようにもしてやった
「それで私」
「そうかそうか五月蝿いやつだ」
「ねぇ…宿儺様が悪人だなんて皆言うけどそんな事絶対嘘だって私分かってますから」
同じ布団のなかで智花はいつもの様に話をしては宿儺の4本の腕をそれぞれ楽しそうに触り続ける同じように智花の身体に触れる宿儺を呪術師達が見ればなんと言うのだろうかと思えてしまう
彼女は自身を救った宿儺は絶対的であり、この世の全てが悪だと認識したとて智花自身が思うことは無いだろう
それ程までに忠誠心があり信頼があり2人は心からの夫婦であった
智花が28になった頃に突然言い始めたのだ、子を成したいと
宿儺は嫌がった、自身の血を残したくは無い下らない子供がいても仕方がないと考えたがそれでも智花は子が欲しいと時折零した
「俺の血は濃い、お前を殺すかもしれん」
「構いません、それでも私貴方との子が欲しいんです」
智花は頑固であり、宿儺は強く彼女に出ることも無かったあの日あの炎の中で見た瞳はいつまでも変わらない
そして宿儺は智花の腹に手を寄せて何かを唱えた、暖かな光が掌から溢れ出そして消えていった
それから智花が翌年29になった時に性行為をした訳でもなく子を身ごもり出産した、女の子であった
変わっていた点はその赤子の背中には奇妙な刺青がありそれは宿儺の子である事を指すようなものだった、呪いが生まれた時から付いていることを悟ったが智花は幸せそうであり宿儺は何も言わず赤子を抱き上げた
「弱いな」
「当たり前でしょうに、食べないでくださいよ」
「阿呆、俺は犬ではないんだぞ」
「ならいいですけど」
しっかり面倒見てください、そういって智花は笑って出産後も変わらぬ生活をしていた
だがそれはすぐに支障を来たした、子を産んで2週間後に智花は宿儺の呪いに掛かった解呪の出来ない死の呪いである
けれどそれを受け入れた、その上で欲しいと望んだ宿儺は1度考えて子を抱き智花の死を見届けた
もう時期自身も死が訪れることを理解したからだ、赤子をどうするかと考えたが死ねば呪術師達が死体を取りに来ることは理解している、ならば奴らに授けてやろう…と決めそして、宿儺は眠りについた
1000年振りの世界は随分と進化したものだと少からず思えた、そして風の匂いと共にはっきりとその魂の匂いがわかった
「智花よ、俺は戻ったぞ」
そしてまた妻を迎えに彼は行く、唯一無二の魂であるのだから。
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